「非効率」を追求する若き職人
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:あさのあきお(ライティング・ゼミ日曜コース)
「こんな事をする男がいるのか……」
今から7年前のとある深夜。
当時は自他ともに認める服大好きで、ネットから国内外問わず様々な情報を仕入れているところで、このブログにぶち当たった。
私は、とにかく時間を忘れてこのブログを読んだ。
そして、目を疑った。
このブログの内容は、男性用のジャケットを縫う工程を、ミシンを頼らずにすべて手で縫っている様子を画像と共に紹介していた。
残念ながら、縫製の素人の私が読んでも、縫い方などは全く理解する事は出来なかった。
しかし、縫い方は判らないが、手で縫う事は、人の手と時間が掛かり、コストが高くなってしまう事ぐらいは知っていたし、国内外問わず高級紳士服メーカーでは、一部だけ手で縫っている事で、付加価値を高めた高価なスーツやジャケットが販売されているのが現状だった。
ブログの著者は、平日はサラリーマンとして働き、休日はテーラー=仕立屋さんの下請けとして縫製を請け負う、まだ駆け出しの職人のようだった。
確かにミシンが発明される前は、すべてが手で縫われていた事は間違いないのだが、平成の時代に、すべて手で縫うことはあまりにこんな非効率で、私が知り得る限り国内外で、すべて手で縫っている工房や職人さんは聞いたことが無かった。職人さんが出来ない訳でなく、ビジネスとしては成り立たないからだ。
とにかく、こんな非効率な事をやろうとしている職人に、どうしても会いたくなり、ブログのメールフォームから、会いたい旨のメッセージを送った。
そして、1か月後、
とあるホテルのロビーで、この職人と会った。
第一印象は「大人しそうな青年」
年齢を聞くと30の半ばで、自分で縫った紺色の麻のジャケットを着ているが、どこにでも居るサラリーマンに見えた。
コーヒーを飲みながら、まずは私を知ってもらおうと、私の服や靴にまつわる失敗談も含めいろいろな事をお話しした。
ナポリのシャツ屋さんにオーダーしたら、とんでもなく大きなシャツが出来上がって大変な困った事や、ローマの70歳を超えた職人さんは、1着目はオーソドックスで地味なスタイルだったが、2着目、3着目と進むにつれて、頼みもしていないのにどんどんスタイルが変わって出来上がってきた事などの話をした。
これは自慢話でなく、初めて会う職人さんには、自分の好みを共有するためにブランドや職人さんの話をすると、スタイルがお互いの頭に浮かんでくる。この作業を怠ってしまうと、イメージと違う出来上がりになり無用なトラブルになりかねないからだ。
そして、私から彼にこんな質問をする。
「着心地に影響のない部分まで、あえて手で縫うような非効率な事をするのは何故?」
「誰もやっていない事をしたいからです」
と、その言葉に強い意志が感じられた。
着心地に影響がないところまで手で縫う事は、職人の自己満足以外に何も無いと思うけど、人がやっていない事をあえてやる事に、自分の存在価値を見出している感じがした。
「数をこなすことが、一番スキルが上る早道だと思うけど、すべて手縫いだと、時間が掛かって数がこなせない事はどう思う?」
と、質問すると、
「確かに数はこなせないですが、すべて手で縫うスキルを高めるために、1着1着丁寧に縫っていきます」
と、まだ経験不足な事も理解し、これから自分が何をすべきかを決めているようだった。
しかし、無名の職人が縫う「すべて手縫いのスーツやジャケット」が、世の服好きに支持されるかどうかには不安があるようだった。
「いま日本人のモノ作りは世界中に支持されているし、お金がある人たちは世界中に居る
から、良いモノを作れば自然と広がるから絶対大丈夫!」
お金がある人が大勢いるけど、1着に40万や50万も服にお金を使える人はそうそう居ないが、決して軽々しく応援する訳でなく、当時は既にニューヨークや香港から引き合いがある日本人の職人がいた。
このころから、世界中で日本人の丁寧な仕事が指示され、マーケットは日本国内だけで考えなくてもいい時代になりかけていた。
私は、パトロンのつもりでもないが、その場で若き職人に1着オーダーをする。
出来上がりはまだまだ満足いくモノではなかったが、3着目になると、私の好みの完璧なジャケットが出来上がり、成長の証を見せてもらった。
その後、この若き職人はネットで話題となり、しばらくして大手セレクトショップにスカウトされると、さらに注目され雑誌に取り上げられる。
そして昨年、自身のお店を構え夢が実現した。
いまは日本国内だけでなく、香港、韓国、タイ、シンガポールなどの高級紳士服店に招かれる存在となった。
私も含め、世の中はとにかく効率化を図る事がすべてとなっているが、まったく逆の「非効率」な事で、人を惹きつけビジネスが成功した事は、進む道は決めているものの、どうなるか不安な時期に出会った者としては、とても嬉しく誇りに思う。
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