石橋ダンジョンを攻略せよ!
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:コバヤシミズキ(チーム天狼院)
石橋を叩いて渡れ!
とは言えど、やっぱり叩きすぎは良くないと思っている。
「……やっぱやめよ」
さっきから目の前で右往左往する縦棒が、かわいそうになってくる。
打っては消して、その繰り返し。
そうやって5分は悩んでいる私は、とうとう文字を打つ手すらも止めてしまった。
「いや、入れよう。入れましょう」
悩んでいたのは、たった2文字。
“好き”なんてロマンスも真っ青な2文字じゃなくて。
『よろしくお願いします』
『よろしくお願いいたします』
「これで安心っしょ」
たった2文字打ち込むだけで得られる安心感。
それを得るためだけに費やした5分は、決して無駄じゃない、はず。
「……ここも変えよっか」
徐々に伸びるリプは、いつも文字数制限ギリギリで。
先の見えない石橋に、送信する前から息切れしそうだった。
『お前、SNS向いてないよ』
いつだったか、もう時期も覚えていないような言葉を、今もよく思い出す。
「何年ネサフしてると思ってんの」
鉛筆よりマウスの方が、しっくり手になじむ。
しかし、割と早い時期からインターネットに触れていた私が、SNSというものに触れたのは案外遅かった。
「Twitter怖い」
丁度若者のSNS問題が話題になっていた頃だから、私のSNSに対する先入観は猜疑感まみれだったのだ。
知らない人から突然話しかけられる。裏アカで自分の悪口を言われる。個人情報をばらまかれる。
そんな話ばかりだったから、人間不信というよりは“SNS不信”だったのだ。
「でも、興味はあるんだよな」
何事もやってみなければ始まらない!
結局好奇心に負けて、恐る恐る始めたTwitterは衝撃的な世界だった。
「すごいな」
何気なく流れてくるタイムラインは、知らない知識ばかりで。
私がわざわざ調べようとしない限り得ることもない情報が、勝手に自分の元へ流れてくる。
絶対に出会わないような人たちが、画面の中で好き好きに話している。
「ラジオみたい」
140字の言葉の応酬に、あっという間に引き込まれてしまう。
ほんの数行にも満たないのに。こんなに魅力的だなんて。
「私もやってみよ」
あんなに怖じ気ついていたのに、落ちるのは一瞬。
情けない気もするけど、見たこともない世界にひどくワクワクしていた。
『お前、SNS向いてないよ』
しかし、そんな希望に満ち満ちた世界に水を差すかのごとく、あの言葉を思い出す。
「まあ、今なら分かるわ」
Twitterを始めて4年とちょっと。
所謂趣味アカでファンアートをポツポツあげていた私に、ヴヴと通知がなる。
『はじめまして!』
“○○好きとつながりたい!”系のタグを付けたイラストに、初めてリプがついたのだ。
「おお、嬉しい」
最初の挨拶に続く褒め言葉に、思わずほおが緩む。
しばらく眺めて、いざフォローしようとしたとき、ある一文が目に入った。
『呼びタメOKです!』
ああ、出たよ。
たまに見かけるこの一文が、まさか自分の身に降りかかるなんて。
最大の難関“呼びタメOKです!”の出現に怯みまくった私は、5分間迷いに迷った末、『よろしくお願いいたします』と送信するのだ。
「敬語は外せない、無理」
懇切丁寧に返信したリプライは、“いいね”がついて会話が終了してしまった。
敬語に直しては削って、足して。
繰り返す度に伸びるリプに“何をそんなに悩む必要があるんだ”と、もう一人の自分が冷ややかな目でこちらを見てくる。
「だって、偉そうなやつって思われたくないし」
嫌われたくないし。
……なにも“呼びタメOKです!”の文字を、スルーしているわけじゃない。
ただ悩みに悩んだ結果これなのだ。
『お前、SNS向いてないよ』
『遠回しすぎて、逆にとっつきにくいわ』
ああ、最近LINEでもこんなこと言われたな、って。
……過度な敬語がトゲトゲしい印象を与えることも分かってる。
「分かってるんだけどなあ」
“つながりたい”はずなのに、コミュニティになじめない。
止まってしまったリプライは、もう続くこともないだろう。
「こんなはずじゃなかったんだけど」
叩きすぎて壊した石橋を『渡っときゃ良かった』なんて。
後悔しても今更だと、ため息をつくしかなかった。
『はーい! よろしくおねがいします!』
ポコンと浮かんだリプライに、思わず慌てる。
「終わったと思ってた」
きっと“とっつきにくい奴”と思われてしまったと落ち込んでいたのに。
思わぬタイミングで続いたリプライには、私に対する質問が敬語で書かれていた。
「あれ、案外気にしてないのか?」
そうであってくれと願いつつ、恐る恐るリプを送る。
『呼びタメ、時間掛かると思います。いいでしょうか?』
今までに無いくらい返信が待ち遠しくて、恋する乙女のように握りしめたスマホがポコンと音を立てた。
『いいですよー!』
“よろしくお願いします!”と続いたリプに、酷く安心する。
「気にしてんの、私だけじゃん」
自分で壊して渡れなくした石橋も、案外捨てたもんじゃないな、と。
瓦礫を乗り越えてもらう。
馬鹿みたいに単純なことに悩んでいた自分が、アホらしく見えて笑えてくる。
「そんな攻略方法があったなんて!」
今度は、自分で橋を架けよう。
『よろしくお願いします!』
歩み寄るために、少しずつ橋を短くしているなんて。
今日も鳴り続ける通知の主には内緒である。
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