メディアグランプリ

声に出して読む「朗読」の奥深い本当の世界


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:松原 さくら(ライティング・ゼミ木曜コース)
 
「はい、では林さんから発声練習」
「はい。アメンボ赤いなあいうえお、浮きもに小エビも泳いでる」
私が通っている朗読教室では、いつも誰かが発生した後に続き、全員で発声練習することから始まる。
まず声をしっかりと出して慣らすのだ。
 

発声練習が一通り終わると、一人ずつ朗読する。
「では、松原さんから」
「欲張りな犬。犬がもらった肉を咥えて橋を渡っていた時のことです」
「ハシの発音が違う。ハ、シ!」
「ハ、シ!」
「そう、ハ、シ!」
全員が関西人でなかなか関西弁訛りが抜けない。しかし、容赦なく標準語に修正される。特に二文字の言葉が厄介だ。
 

いつも教室には10人程度の受講生がいて、2時間のレッスンが短く感じる。皆、とても練習熱心で、自宅で文章を覚えてしまう程、練習して来ているようだ。当然、教室での朗読にも熱が入る。
私はというと、日頃の雑事に取り紛れてしまい、いつも練習不足で臨んでいる。私の出来が悪くて繰り返し朗読をしなければならない時など、他の人たちに申し訳ないことこの上ない。なのに、「私が申し訳なく思うことはない」と、皆で声をかけてくれる。
 

そもそも、私は人前で話すのが苦手で、声が小さいと普段から周囲に怒られることがあった。なぜ朗読教室に通い始めたのかというと、この引っ込み思案の性格を直したかったのが理由のひとつだ。
先生にも、「語尾を伸ばさない! 声が小さい!」と何度も注意されている。
自分の話し方の癖が、余りにも長年馴染んだものなので、やおら何を言われているのかが理解できない。
何度も注意されながら、自分なりに工夫して読んでみる。
 

するとその内に、指摘される内容が変わってきた。どの言葉を強調するのか、どのように抑揚をつけるのか、どこでどの様な間を空けるのか。平板な読みは棒読みとなってしまい、聞く人に物語を想像させることができないのだ。
 

そうすると、段々他の人たちがそれぞれ異なる読み方で異なる表現をしていることに気が付いた。登場人物はどんな子どもでどんな声なのか。どんな人となりの老人でどんな間を空けるのか。
皆それぞれ個性が出てきたのだ。
 

朗読は、歌を歌うことにとてもシンクロしている。
歌は、音程が決まっている上に、音の高低が大きくリズムも複雑だ。
朗読は音程が決まっている訳ではない。しかし、読む声の高い音、低い音を使い分けなければいけない。そう、標準語のイントネーション以外にも、文章の中での音の高低にはある程度のルールがある。
また、朗読は、速いテンポのリズムを刻む訳ではない。しかし、大きな間を空けなければいけない箇所や、早口で読み進まなければいけない箇所などがある程度決まっている。
そして、歌は、音符どおりに歌手が歌うのだが、歌う人によって、全く異なる歌になる。
もちろん、朗読も、女優、アナウンサー、漫談家、など様々な人が読むことによって全く異なる物語になるのだ。
 
 

そんな中、ある時ふと、いつもと違う朗読講座を受講してみた。プロのアナウンサーが指導してくれる、やや本格的な内容だ。
課題となった文章のひとつに、ハンセン病に関わる物語の一節があった。迫害され続けた主人公が、差別を受けることを受け入れ、周囲に愛情と感謝を持ち続けて、さらに食べ物や自然と対話することを教えてくれる。優しさと悲しみが詰まった文章だ。
皆で、なんとか正確に発音しよう、老女の声を出そうと四苦八苦していた。
一人一人読み進んで、やがて、一人の盲目の女性の番になった。
その女性が読み始めてまもなく、講師も皆も息を飲んだ。
私は涙が流れて止まらなくなった。
彼女は大きな抑揚をつけている訳でも、大事な言葉を取り立てて強調している風でもない。強いて言えばとても淡々と読んだ。
しかし、そこにひしひしと伝わる物語があった。
 

講師が、その女性に質問をした。「とてもすばらしいですね。あなたは、この文章を読む時に何を考えていましたか?」
すると、その女性は細い声で静かな口調で話した。「私は、この舞台となった場所をよく知っています。この辺りに障がい者施設があって、私はよく通っていたのです。舞台となっているお店も、どの辺りにあって、そこで、どんな障がい者の方がいて、その方がどの様に生活して、どの様な話をして、と言うことが、よく解るのです」
 

その女性が読んだ後に皆が順番に読むと、彼女の物語の風景を引き継いで、皆同じ世界での読みをした。講師はとても驚いていた。それまで、辛口で厳しい指摘をしていたのが、一変して褒め続けた。
 

そうして、講座の最後、講師の感想はこうだった。「今日は、とてもいい経験をさせてもらいました。この教室にいる皆さんがそうだったと思います。やはり、その人自身の経験で、文章の背景を強く想像できた場合に、しっかりと伝わる朗読ができるのですね」
アナウンサーを定年まで勤め上げ、朗読を広めようと全国を回っている経験豊かな講師でも、強い感銘を受けたのだ。
経験が浅い私にも伝わった。その素晴らしい朗読の世界。伝える、ということ。伝わる、ということ。
 
 

自分の経験と背景が、読む文章の背景と重なり、伝えたい事を言葉と声に込めて朗読していこう。
私の目標が、また一つ増えた。
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2018-11-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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