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メディアグランプリ

視覚を失った真っ暗闇からこんにちは


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:中西 由紀(ライティング・ゼミ木曜コース)
 
「電話越しじゃないと仕事できない。面と向かって話をするなんてぜったい無理!意外とこれでも人見知りなんだから」
いつも柔かに誰とでも話がするのが上手い同僚Aは答える。
 
「対面の方がごまかせるから、楽だよね?」
さらに保険の営業で長年仕事していた同僚Bは口を尖らせるように同意を求めてきた。
 
電話を通してお客様と話をする、オペレーターの仕事をしている私たちのお昼休み。
電話の声だけをたよりに、話を進めていくのは大変だよねと愚痴をもらしていたのだった。
 
「前に研修で言ってたよ、第一印象の割合が視覚情報55%、聴覚情報38%、言語情報7%だっけ? 相手の顔が見えたり、身振りで伝えたりできる分、声だけより面と向かっての方がわたしも楽かな」
私はそう答えながらも、とあるイベントでの体験の事を思い出していた。
 
 
真っ暗闇の中での貴重な体験。
 
初めて集まったメンバーとの一体感。
 
顔もわからない状況が逆に見た目でお互いを判断することのない優しい世界……
 
 
それは「ダイアログ ・イン・ザ・ダーク」というドイツ発祥の真っ暗闇の中で遊ぶ体験だった。
 
 
その真っ暗闇体験が東京の青山でできるという話を聞いていたので、数年前に東京出張の際に思い切ってひとりで参加することにした。
 
私はその時とても興奮していたのを覚えている。
 
きっと、視覚が失われることで他の感覚が研ぎ澄まされていくに違いないと思っていたからだ。
漫画やアニメで表現される、目を戦いの中で主人公が負傷したにもかかわらず、見えない敵を感覚を研ぎ澄まして見事にやっつけてしまうシーンを。
 
「な、なぜ、目が見えないのに、わしの動きがわかった……グフッ!!」
 
「目は見えなくても、おまえの動きはすべてお見通しだ!」
 
まさに新しい力を得る勇者のごとく、わたしは集合場所へと向かっていった。
 
 
1回の体験で中に入れるのは8人まで。
2人連れが2組と他はわたしを含めてひとり参加だった。
簡単な注意事項などの案内があり、暗幕のかかった部屋へと案内される。
 
 
「ダイアログ ・イン・ザ・ダーク」では、アテンド(案内人)は視覚障がい者の方々だ。
真っ暗闇の中に公園や、広場、家などの日常空間が広がっているので、その中を視覚以外の感覚を使って進んでいくワークショップになっている。
 
お互いの顔がかろうじてわかるくらいの照明の中で、初めて白杖(はくじょう)の使い方を教わる。
そして真っ暗闇でのそれぞれニックネームが決まると、みんな思い思いの白杖を手にして、アテンドの案内の元で漆黒の闇の空間へ移った。
 
まったく、何にも見えない!
少しの光もない、これが漆黒の闇。
さっきそばにいた人との距離もわからなくなる。ちょっと怖い。頭が混乱しはじめた。
 
 
アテンドの方がさらに先の空間へ進むように皆を先導する。声かけあって、白杖を動かして、足元を確認し歩いていく。
 
「ゆきのん、こっちだよ! 逆!」
 
 
気がついたら、行き止まりの壁にいた。
いつの間にかはぐれていたらしい。
一気に頭の中でブワァーっと情報が駆け巡る。
 
 
さっきの空間からどれだけ動いた?
 
みんなはどっち? 声の方角は?
 
部屋を入って右から左、壁があったからそんなに広い場所じゃないはず!
 
あっ、なにかにぶつかった?
 
こっちも壁? どっちに向かってるの?
 
なんで!!
 
 
「〇〇です。こっちだよ、ゆきのん。大丈夫、着いてきて」
すぐそばに来てるのが声と気配でわかり、ほっとする。
そのまま手を引いてもらい、みんなと合流できた。
「〇〇さん、ありがとうございます」
とても温かい気持ちになった。
 
 
私は頭で情報として現状を把握しようとする一方で、真っ暗闇での感覚を優先しようと身体が反応しはじめたのがかち合ってパニックになったらしい。
 
 
「Don’t think ,Feel(考えるな、感じろ)」
 
 
冷静になって大好きなブルース・リーの言葉を思い出した。
余計なことはいらない、感じてみるんだ、この真っ暗闇な空間、そして人のぬくもり。
 
 
それからは落ち着いてみんなと声かけあい、雑談し、スポーツにお茶会と真っ暗闇で楽しんだのだった。
最後はいつの間にか自分がツアーガイドの様に、みんなを先導していたから笑ってしまった。
 
楽しい時間はあっという間に終わり、眩しい世界へと戻っていく。
 
いろいろとお世話になったみんなの顔は様々で、真っ暗闇の中での方が心の距離が近かったようにも思う。
ちょっと恥ずかしさと心残りを感じながら、それぞれ会場を後にしたのだった。
 
 
数年ぶりに不思議で貴重なこの体験を思い出したところで、ちょうど私たちのお昼休みも終わりになった。
 
 
また、電話越しの仕事を再開しなきゃ。
けれど顔が見えない状態は、あの真っ暗闇と同じだから、もっと人のぬくもり、思いやりを届けることは出来るはずだとも思い始めていた。
 
電話の向こうにいる相手の様子を想像する、こころに寄り添って話をきいてみる。
 
望む世界へと手を引いて案内をする。
 
あの真っ暗闇で出会ったみんなが私に手を差し伸べてくれたように。わたしも。
 
***

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2018-11-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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