メディアグランプリ

ママは誰でもプログラミングできる


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:吉田けい (ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
もみじのような息子の手がおはじきをつまむ。
一歳の息子は、今生まれて初めておはじき見た。ちょっと寄り目になって、「ほ~」と言いそうな感じに口を開けて、指の間の小さなガラスをしげしげと眺める。
 
「ここにポットンしてごらん」
 
私お手製の、タッパーに切り込みを入れ、貯金箱のようにしたおもちゃ。タッパーを見て合点したのだろう、すぐにおはじきを切り込みのところに持ってきた。
 
「…………」
 
切り込みに対して、垂直に押し当てる。
 
「……えうー」
 
垂直に押し当てたまま、ぎゅうぎゅう押し込もうとする。
 
「…………!」
 
私がこっそりタッパーを動かし、切り込みとおはじきの角度はいい感じになった。
が、息子はおはじきから指を離すことができない。
 
「う!」
 
ポットンできず嫌気がさしたのか、息子はおはじきを投げ、タッパーを蹴り飛ばし、立ち上がってプリプリとほかのおもちゃのところに行ってしまった。せっかくつくったおもちゃだが、初戦は活躍することが出来なかった。しかし私は、唐突に発見した新事実に、そんなことはどうでもよくなっていた。
 
「これって、プログラミングだ……!」
 
 
 
離乳食も順調に進んでいる頃、いよいよ赤ちゃんとの関わり方が大切な時期になってきたと、気に入ったメルマガを発行している企業が主催するベビースクールの説明会に参加した。スクールの教室には手作りおもちゃが壁一面にずらりと並んでいて、当時ハイハイの息子は一目散に棚に向かい、夢中になって遊び出した。息子を横目でチラチラ見つつ、説明会の内容にもしっかり耳を傾ける。ちょうど子供へのものの教え方を話している。
 
「鉛筆を鉛筆削りで削る動作。大人は一瞬でできますけど、子供はそうはいきません」
「大人がお手本を見せてあげるわけですけど、大人がいつもやってる速さでやっちゃダメです。これくらいゆっくりやります」
 
進行役の人が、ポケットから鉛筆と、色鉛筆についてるような鉛筆削りを取り出した。通常の動作の五倍ほど時間をかけて、鉛筆を鉛筆削りの穴に挿し、鉛筆をつかみ、ひねり……と、丁寧に丁寧に動作をして見せた。
 
「鉛筆を削るというと一言ですけど、鉛筆を穴に入れるだとか、いろんなステップがありますよね。それを一つ一つ、子供に分かる速度で見せてあげるんです」
「なるほど~」
 
思わず声に出してしまった。
説明会の内容は他にも参考になることばかりでとても充実していた。ベビースクールにすぐに申し込み、おもちゃをたくさん見てメモして帰り、早速いくつか作ってみた。私はその中でも、ピンポン落としというおもちゃが息子は気に入ってくれるのではないかと期待していた。空き缶に巾着を被せて、袋の口にゴム紐を通しただけ。そこにピンポン玉を落とす、素朴なおもちゃである。作った当初は見向きもせずがっかりしたが、いつの間にか上手にできるようになっていた。私は気をよくして、ビー玉とタッパーで似たようなおもちゃを作った。こちらは初見から興味を持ってくれ、一所懸命ビー玉をつまんでいた。
 
真剣にやってくれてるな、嬉しいな。じゃあ、次はおはじきかな?
そう思って用意したおはじき落としは、興味を持ってくれたものの、うまく落とすことができなかった。
 
息子が興味をもって、真剣に取り組んでいるのに、うまくいかない。
その理由を考えた時、唐突に、プログラミングのことを思い出したのだ。
 
私がするプログラミングは、もっぱらエクセルのVBAだ。エクセルは殆どのPCに入っているので、ちょっとした業務改善には最適だ。プログラミング作業は、業務改善したい作業を言語化するところから始まる。言語化された作業をコードに置き換えていくためだ。しかし、感覚的な「黄色のところをぐるっとしてコピー」といった言葉では、なかなかコードに置き換えるのは難しい。そのため、自分が行っている作業を客観的に見つめ、分解して捉える必要があるのだ。
 
息子は、おはじきをタッパーに入れたかったけれど、うまくできなかった。その原因は、おはじきの角度が穴に入る角度になるように、手の向きをうまく変えることができなかったからだ。また、おはじきの先端が穴にさしかかっている時に、うまくおはじきから指を離すこともできなかった。息子の様子を見て、これらの原因に思い到ったのだが、その時の思考はプログラミングの言語化作業と全く同じだったのだ。現象をよく観察し、一つ一つの作業を分解していく。思い返せば、説明会でも同じことを仰っていた。一つ一つの動作をゆっくり丁寧に見せるのは、作業を分解していくことに他ならないではないか。
 
では、おはじきより前に、手の向きを変えたり、指先を離す練習になりそうな素材で作ってみよう。試行錯誤の末、鍵に付けるようなネームプレートを使うと、うまく落とすことができた。息子は気に入ったようで、毎日のようにネームプレートをポットンポットンとしている。思えばピンポン落としも、分解して考えればできない原因がいくつも見つかったに違いない。課題をいつの間にかクリアしたから、いつの間にかできるようになっていたのだ。
 
赤ちゃんは言葉を喋ることはできないが、いろいろなものに興味を持つし、ミルクや排泄など欲求もある。何を求めているのか理解するには、目線の先、泣き方の違い、小さなしぐさなど、ただひたすら観察するしかない。観察の積み重ねが、赤ちゃんとママたちの信頼関係となっているのだ。もしその鋭くも細やかな観察眼を何かに活かしたいと思ったら、ぜひプログラミングに挑戦してみてはいかがだろうか。

 
 
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2018-11-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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