メディアグランプリ

涙は宝の地図だった


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記事:Misaki(ライティング・ゼミ 日曜コース)

 
 
「遊牧民の力強さやたくましさに、人の強さを感じてすごく感動したんです!」
 
私は興奮気味に話した。
早川さんという30代半ばのその男性は、うんうん、とうなずきながら楽しそうにその話を聞いてくれているように見えた。
自分の中にあった強い感動や気持ちを、人と共有できていると感じるような瞬間だった。
嬉しかった。
 
私はその日、栃木のある工房へ来ていた。
そこは、ある大学の教授の自宅兼工房で、教授が発明した「電気を使わない」日常生活品がいろいろ置いてある。
私は、たまたま図書館で読んだ本から、その教授を知った。
持続可能な暮らしや、人と協力しながら生きていくという教授の姿勢に感動した。
さっそくその工房を調べてみると、ホームページで2泊3日の工房のボランティア募集していた。
7月末に、私はその工房へボランティア兼体験にいくことに決めたのだった。
 
その工房には、お弟子さんたちが4組いた。
一年間住み込みをしながら、教授から非電化製品のつくり方や、家の建て方、農作物のつくり方などなど、自給自足の暮らしを学んでいるそうだ。
早川さんとはそこで初めて出会った。
話を聞くと、彼はこれまで海外でワーキングホリデーの経験があったり、バイクでイタリアを旅したことがあるそうだ。いろんなところにテントを張った話や旅先での出会い話を聞いた。
どれも、私の知らない世界で、聞いていてワクワクした。
そしてその時、私も自分の話を早川さんにポツポツとし始めた。
ワーキングホリデーに行きたいと思っていることや、キャンピングカーで海外を旅したいこと、セルフビルドで家を建ててみたいこと……。
 
「あ、それ、俺もやってみたいと思ってる! いいよね」
 
今まであまり共感をもらえたことがなかったので、こうした話で盛り上がるのはとても嬉しかった。
そしてそのあと、工房の話や自給自足の話にも触れたかと思う。
 
「遊牧民の力強さやたくましさに、人の強さを感じてすごく感動したんです!」
 
私は、今までこんなに興奮しながら話したことがなかったように思う。
話の流れで、するりと出てきた言葉だったが、自分の本心がそこにあるように感じた。
 
そのとき、私は、ある写真集のことを思い出した。
それは、大学4年生の時に買った写真集だ。
写真家であるその本の著者が、世界中を旅しながら撮ってきた風景や人々の写真が収められている本だ。
たまたま自分が通っていた大学で著者の講演会があり、そこで買ったものだった。
自然や人間の生活を切り取った写真が多く、幻想的なものや壮大なものもあるけれど、どれも「リアルさ」を感じて心に残っていた。
 
私は当時、国際関係学部という学部に通っていて、海外の暮らしや世界情勢に関心があった。もともと海外に興味があったからかもしれないが、とりわけこの写真集は私の心を強く揺さぶった。
初めて写真集をひらいたとき、私は号泣していた。
そのあとも、時々写真集をひらくと、毎回涙がこぼれてくる。
でも自分では、なぜこんなに泣けてくるのか、そのときは分からなかった。
 
でも、早川さんに話したことで、その理由が分かった。
そうか、私は写真のなかの人々の姿に感動していたのか。
遊牧民の姿や子どもの無邪気な笑顔、祈りをささげる人々、お祭りで沸き立つ人々、どこまでも続く空と海、穏やかな顔でほほ笑む青年、見たことのない景色が写真集のなかにあつめられている。
それを見るといつも、とても胸が高鳴ると同時に切なさに似た気持ちが込み上げてきては、涙が溢れてきていたのだ。
 
早川さんと話したことで、私は自分の気持ちを一つ見つけることができた。
写真を見て泣いていたのは、心が発信していたサインだったんだなと思った。
それは宝のありかへ続く道のように、自分が心の奥で臨んでいることや大切な気持ちを表しているように感じた。
自分にとっての大切な宝の欠片がここに埋まってるよ! と、涙が私に知らせていたのだなぁと思った。
この経験を境に、私は自分の心にもっと従って生きてみようと思うようになった。
似た考えや感覚を持つ人、私がまだ知らない風景や人が、この世界にはたくさんいるのだ、と知って勇気も湧いてきた。
 
うるっときたら、一旦立ち止まってみよう。そこには心の底にある想い――自分の中の大切な宝――が埋まっているのだ。相変わらず未来への不安は抱えたままだけれど、それでも最近の私は、涙の宝探しを楽しんでいきたいなあとわくわくしている。

 
 
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2018-11-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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