メディアグランプリ

大人になっても秘密基地はほしいのだ


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記事:よくばりママ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
私には野望がある。
 
それは、家に一部屋、本のための『本部屋』をつくることだ。
好きな本をずらっと壁一面の本棚に並べ、大きく柔らかなソファにネコと寝転がりながら本を読む。だらだらと、おやつをつまみながら。
それはなんと贅沢で、至福な光景であろうか!
 
 
実はこの本部屋構想は、私が小学生のときにはすでに出来ていた。
もともと幼い頃から、本、特にマンガ本をこよなく愛していた私は、手に取る本をとても大切にしていた。本が汚れるのが嫌だった私は、透明フィルムでできた本カバーをわざわざ買い、好きな本には丁寧にカバーをかけて見えない汚れから守ろうとしていた。購入時にすでにカバーをかけてもらっている本にも、さらにその内側でカバーをかけるという徹底ぶりだった。
汚さないように、折らないように、日光にあたって焼けないように。そんな宝物を扱うかのような思いで、私と本の関係はつくり上げられていった。
 
 
やがて大好きな本は、あっという間に実家の本棚を埋めつくした。そこからあふれた本は次々と段ボール箱に詰められ、部屋の押入れに収められていった。それはまるで、本棚はレギュラーである一軍選手、押し入れの中の本は二軍選手のようなもののようであった。それでも、ふとした拍子に読み返したくなり、二軍選手が一軍に返り咲くこともよくあった。
 
そんな調子で本たちに囲まれて生活をしたい! と思い過ごしていた私であったが、実家を出て一人暮らしを始めると、事態は一転した。
思うように本を増やせないのだ。
本を増やすと、どんどん生活スペースがなくなるのだ。
 
好きな本は手元に置きたい。でも、モノは少なく、部屋は広くして過ごしたい。でも、本を手放すのは嫌だから、ひとまず実家に送っておこう。ああ、ダメだ。実家の押入れも倉庫も私の本だらけになってきてしまった……。
 
そんな状態が数年続き、気付けば二軍を抱えるキャパシティ、いうなれば居住スペースはもはや限界だった。やがて、家を出て10年経つころには、二軍、三軍選手の解雇に着手している私がいた。
 
「この本面白かったなあ。……。でもまた、読みたくなったら買おう」
「中学の頃にはまったけど、今読むとまた斬新だなあ。最後にもう一度……」
「昔は違和感なかったけど、ストーリー設定がだいぶおかしな本だったなあ」
 
大掃除のときと同じだ。処分しようと手にとると、不思議と記憶が蘇る。読み返したくなる。けれど、私は心を鬼にして本たちを処分していった。ただし、処分といっても、本はほぼすべて寄付という形で、知らない誰かの役に立つ可能性のある道へと送り出した。それが自分にできる本への償いでもあったからだ。
 
そうして、私の本棚は一軍選手、好きな本、とても大切にしている本に厳選されるようになった。もちろん、新しい本がやってくれば、レギュラーの座を巡って争いが起きる。スペースが限られている以上、そこは割り切って本の所有量を管理している。もう、本部屋をつくるなんて夢のまた夢だな、なんて思いながら。
 
けれど、最近少し状況に変化が現れはじめた。
小学二年生の長男が、絵本以外の本をよく読むようになってきたのだ。
 
初めは、図鑑。そして、将棋の本や、サバイバル、生き物の強さを比較する本など、気付くと読書をするようになっていた。いつの間に、と思っていると、さらには私の購入した本までも読み始めた。
 
息子は、小学生らしく、多くの絵と、読めるようになった文章とで、その本の世界を堪能しはじめた。たださらっと読むのではなく、味わうように、手探りで何かを探るかのように。
 
「ママ、この本面白いね。ママのマンガも読みたいな」
 
この一言が決定打だった。私の胸にあった、忘れようとしていた思いが息を吹き返した。
 
本部屋をつくろう!
 
本部屋としてまるまる一室を確保はできないけれど、本を読むための部屋、本をたくさん収納できる部屋づくりをしよう。そして、どんどん皆で本の楽しみを共有していこう!
 
自分でも意外なくらいに、本部屋の野望が蘇ってきたのだ。
 
いったん思いつくと気持ちは止まらない。
本棚はやっぱり壁面収納にしようかな。壁面収納なら、あそこのメーカーがいいのか、はたまたオーダーにしようか。地震対策も考えると高さも考慮しなければならないし、ソファはどうおくべきか……。どんな風にするのか考えるのが楽しくて仕方がない。
好きなことを過ごすための居場所づくり。ちょっと遊び心もいれながら。
それはまるで、小学生の頃、友達と夢中になった秘密基地づくりと同じであった。
大人になっても秘密基地づくりは楽しいのだ。理由なんていらない。ただ、楽しいのだ。
 
このわくわく感は、きっとこどもにも伝わるだろうな、なんて思いながらも、やっぱり一番喜んでいるのは自分自身だった。
 
場所がないからとあきらめていた秘密基地。
けれど、あきらめなくてもよいことを、こどもに気付かせてもらえた。
あきらめるのは早かったな、なんて悔やみながらも、思い出せてよかったと心から思う。
 
さて、40歳になった私の野望。
 
子どものころに描いた本部屋ではない、40歳の私がときめく本部屋をこれからどうつくろうか。ソファもいいけど、ハンモックもいいな。マッサージチェアもいいな。コーヒーを飲みながらチョコも食べたいし、お酒も飲みたい。サイドテーブルもほしいな。BGMはどうしようかな。
ああ、どうしよう。やっぱり楽しい。
 
目が死んだ疲れた大人にも、どうかこの楽しさは知ってほしい。
秘密基地の楽しみを。秘密基地をつくるときめきを。

 
 
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2018-11-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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