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メディアグランプリ

紫色のプロポーズ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:望月祥子(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「祥子、手をだして。この指輪あげる」
言葉だけを聞くと一見プロポーズと思うかもしれないが、指輪をくれたのは私の父だ。確か22歳をすぎた頃で看護師として働いていた。
見たことのある指輪だけど、母のではない。この紫色の指輪、どこかで見たことある。でも見たのはずっと前だった気がする。
「あれ? 誰の指輪だっけ?」
そう思った時におばあちゃんのだよ。と父が言った。
 
ああ、そうだ。この指輪はおばあちゃんのだ。父方のおばあちゃんは私が中学生の時に亡くなった。お正月に遊びに行くといつもニコニコ笑いながら迎えてくれた。私はおばあちゃんの作るお汁粉は今でも世界で一番美味しいと思っている。
 
「なんでくれるの? お父さんは男の人で指輪できないから? ありがとう」
そう言って受け取った。
 
その日仕事は休みで父にどこかでご飯を食べようと誘われた。じゃあ行ってみたいご飯屋さんがあると話して電車に乗って父と出掛けた。プレゼントしてくれたばかりの指輪を左手の人差し指につけて。暑い夏の日だった。
電車の中では父の仕事の話や私の仕事の話をした。そして彼氏ができたか聞かれた。残念ながら一切浮いた話がございません。というと笑いながらどこか安心した顔をしていて、ああ、父親だなあと思った。私は一人っ子というのもあったので、結婚する人以外は父には教えないし紹介しないと決めたのはその時だ。
 
母とは普段からよく買い物や食事に行くけれど、父とはそういう機会がなかなかない。だから私は嬉しかった。お給料がでた後だったので、今日は私がお父さんにご馳走しよう。心の中でそう思っていた。
一緒に食事をしている時もいろんな話をした。主に私の職場のことを話していた気がする。
 
 
当時入院してきた男性患者さんに質問をされた。
「望月さん、新聞ってとってる? 今日の新聞の社説についてどう思う?」
恥ずかしながら当時私には新聞を読む習慣がなかった。読んだとしても最初のページを読むくらいで、全部に目を通すなんてことはほとんどなかった。
すみません、読んでいないのでその質問に答えられないです。と返事をした。
その話を父にしたら、次の日に1時間早く起こされた。知らないことをそのままにするな。そう言われて手には新聞があった。寝ぼけながら、確かにそれもそうだなと思いながら全ての記事に目を通した。
何日かした後にまたその患者さんを担当することがあった。そうしてまた、同じ質問をされた。
「今日の社説はどう思った?」
私はあれから毎日新聞に目を通すようになったので、当時読んでいた新聞の社説の感想を伝えた。
「君はちゃんと知らないことは知らないっていうし勉強するんだね。それは仕事をする上でとても大切なことだよ。ちょっと意地悪したみたいになってごめんね」
そう言われた。
 
父と食事をしている時にそのことを話した。
父は嬉しそうに笑いながら
「良かったな」
そう言った。
「その人は医療のこと以外も調べているか知りたかったんだろうな。知識はあったほうが良いし、新聞はその日のニュースがほとんど載っているからな」
1時間早く起きて新聞を読むようになったのはその頃からだ。
夜勤で読めない日は、その日の新聞を父が机に置いておいてくれた。
 
シュワシュワのジンジャーエールを飲んでいる時に指輪が目に入った。
そうだ、このおばあちゃんの指輪どうして私にくれたんだろう。と思った時に父が言った。
「その指輪覚えてるか?」
おばあちゃんがつけていたのは覚えてるよ。私はそう答えた。
それから父が教えてくれた。
この指輪はおじいちゃんが戦争から戻ってきた時におばあちゃんにプロポーズする時に渡した指輪だということ。亡くなる少し前におばあちゃんが祥子に似合うと思うから渡して欲しいと父が受け取っていたらしい。
 
思い入れのある指輪だから、10代の私に渡すのはまだ早いと父は思い、しまっていたらしい。
「仕事も少しは慣れてきたみたいだし、新聞も読むようになったからな。もう祥子がしても良い頃かなって思ったんだ」
 
少し照れくさそうに話しながら父はビールを飲んでいた。
「でもお父さん、その指輪の石が何の石かは分からないんだ」
紫色のその指輪はダイヤモンドではないし、オパールでもない。私も宝石の種類には詳しくないので分からなかった。
おじいちゃんはきっとおばあちゃんにはこの指輪が一番似合うと思ったんだろうな。石の種類ではなくて、デザインとこの紫色がおばあちゃんの雰囲気にすごくあっていた。それを私が身につけられることが嬉しかった。
食事が終わってお会計をする時、お父さんに威厳を持たせなさいと言われて結局私はご馳走ができなかった。
帰り道は父と当時流行っていた歌を歌いながら道を歩いた。
 
紫色の指輪を引き継がれてから10年以上経った。いまだに私はその宝石の名前を知らない。時々友達に聞いてはアメジストかな? でもルビーかな? とみんなで考える。宝石の正体は分からない。私にとってこの指輪はアクセサリーではなくジュエリーだ。
いつか宝石の名前が分かったら、お墓参りに行って報告しようと思う。

***

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2018-11-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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