メディアグランプリ

キウイの爆発が私を動かした


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 
記事:福井一恵(ライティング・ゼミ朝コース)
 
キウイは爆発する。
そう、果物のキウイフルーツのこと。
 
そんなことは知らなかったし、そんなことが私を動かすなんて思いもよらなかった。
 
乗り換え電車を待ちながら、ゼリー飲料で食事を済ませ、
「食べなくても生きていけたらいいのに」と思っていたのは、
フリーアナウンサーとして東京で仕事をしていたときのことだ。
 
食べる時間がもったいなくて、食べることを面倒に思っていた。
 
早い時は5時から、遅い時は23時からの仕事スタート。
不規則なのは当然だと思っていたし、むしろ誇りに思っていたくらいだった。
 
当然ながら体調も良いはずがなく、大人になってからの最低体重を記録していた。あきらかにやせすぎだった。
「1週間、何を食べたか全部書いてきてください」
頭痛と肩こりをどうにかしたくて受けたアロマトリートメントが終わると、紙を渡された。
学校の時間割表のように、曜日がならんでいる。
「朝昼晩だけじゃなくて、間食も全部書いてくださいね。」
 
面倒くさいなと思いながらも、どこか妙に生真面目な私は、
言われた通りに1週間きっちり記録した。
 
「寝る前にアイスモナカを食べているのはどうしてですか?」
 
少しでもカロリーの高いものを摂取せねばと思ってのことだった。
 
「逆効果ですね」
 
え?
 
アイスは高カロリーの典型ではないの?
太る食べ物の代表じゃないの?
 
「アイスは冷たいというだけじゃなくて、原材料を考えても体を冷やすものなんです」
 
このとき、熱く説得されると反発してしまっていたかもしれない。
セラピストの女性は、事実を淡々と並べて行った。
今の私の食事が身体に負担をかけているという証拠を並べられると、自分の身体が気の毒に思えてきた。
 
その証拠のひとつに、私の顔には一面に、かつて経験したことがないほどひどい吹出物ができていた。
 
「量は多くなくてもいいので、栄養素を考えながら、体を冷やさないように質の高い食事をしてください。」
 
ちょうど、田舎に住む友人から、荷物が届いた。
山で採れた水と手作りのふきのとう味噌だった。
 
ご飯を炊き、ふきのとう味噌をのせて食べると、涙が出てきた。
 
私、食べたいと思うものを食べてなかった。
カロリーと栄養を摂ることだけ考えて、頭で食べていた。
 
せっかく生きているのに。
食べたいと思うものを食べると、こんなに美味しいのに。
 
「食べ物」に対する興味のスイッチが入った。
もともと凝り性の私は、一旦スイッチが入るととことんやってみたくなる。
 
ふきのとう味噌を送ってくれた友人に会いに行った。
山での暮らしのこと、食べ物のこと、命のこと、話は尽きなかった。
私も、自然のリズムを感じて生活したい。
野菜や果物も作ってみたい。
 
アナウンサーをやめて農業をしたいわけではなかった。
でも、やってみたかった。
東京での仕事を一旦整理して、四国に戻ることにした。
 
 
自然農法で作物を作っている農園に研修生として受け入れてもらった。
日焼けもいとわず、みかん山や野菜畑で農作業を手伝ううちに、いつのまにか肩こりや頭痛にも悩まなくなった。
 
稲刈りも終わり、11月に入ると、キウイの収穫が始まった。
 
「こんな風に柔らかくなっているものは、規格外品のカゴに入れて」と、キウイをひとつ渡される。ところが、さわってみても私にはちっとも柔らかく思えない。むしろ固い。
 
出荷のための選果作業の手伝いでも、
「固いのだけ入れてよ」と言われるが、私にはどれも固く感じてしまう。
パートさん達はどんどん選り分けていく。
 
パートさん達が「やわらかい」と判断したキウイ入っているカゴの中のものを触ってみる。
うーん、なるほど。言われてみると少し柔らかい気がする。
でも、微妙な違いだった。
 
少しやわらかい程度のキウイは、食べごろシールが貼られて産直市に並べられる。
私もわかるほど明らかに柔らかいキウイはもう出荷できない。
「好きに食べていいよ」と倉庫の隅に、やわやわキウイの入ったキャリーが置かれていた。
 
やわやわ完熟キウイは、激甘だった。
これまで、キウイは酸っぱいものだと思っていたのに。
 
やわやわキウイが入ったキャリーを数日後にのぞくと、いくつかのキウイが膨れ上がっていた。
手に取ってみると、
「パンッ!」
という小気味良い音を立てて、爆発した。
 
キウイって爆発するんだ!
皮の中で果肉が発酵していた。
 
農薬も化学肥料も使わずに育てられてキウイは自然に発酵する。
 
小さな爆発は、私の探究心をかき立てた。
このキウイの爆発パワーを使いたい。
 
完熟キウイを瓶に入れて、水を注ぐ。
丸一日ほどで、プクプクと気泡が上がってくる。
シュワシュワしてきたら爆発パワーを取り出すのだ。
 
シュワシュワ液を小麦粉に混ぜる。
爆発パワーでパンを膨らませたい。
 
自家製キウイ酵母でのパン作りにすっかりハマった。
 
天然酵母らしく少し酸味があって、ハードに焼きあがったパンは、なかなか美味しい。
 
東京でゼリー飲料を吸いながら、食べることを面倒だと思っていた私が、自分でパンを焼くようになるとは。
 
私を動かしたのは、キウイの爆発だった。
食べ物が人に与えるのは、カロリーや栄養だけではないらしい。
食べ物そのものが生きているというパワーは、人を大きく動かす。
 
そろそろ今年もキウイの収穫が終わる頃だろう。
久しぶりに農園に顔を出してみようかな。
 
***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

http://tenro-in.com/zemi/62637

天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】
天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。



2018-11-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事