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劣等感が教えてくれた自分を魅力的にするためにできるたった一つの方法


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:高木淳史(ライティングゼミ・平日コース)
 
僕はいま子ども専門の歯医者で仕事をしています。ばりばりの理系です。でも高校二年生の終わりに受けた化学の模試の偏差値は全国で29でした。全国偏差値29は学年では3番目の成績です。下から数えて3番目です。僕は理系にいながら理系科目の化学が最悪に苦手だったのです。
 
僕は小さい頃から劣等感の塊のような子どもでした。小学生の頃から中学校受験のための塾に入れられて、気づけば右も左もわからないまま受験レースに参加させられていました。
僕の通っていた受験塾は毎月行われる試験の成績でクラス分けがされます。頑張って勉強して上のクラスに上がってもそこにいるのは猛者ばかり。彼らは一段も二段も上の世界から問題を解いている、そんな印象を受けました。上を見れば上がいる。それを小学生の頃に身をもって感じたのです。
 
幸いなことに志望していた中高一貫校に入学できたのですが、中学に入ると成績上位どころか中盤にいるのがやっとの状態。高校に入るとさらに成績は低空飛行になりました。勉強時間をとってもとっても全く成績は上がりません。今から思えば勉強の方法が悪かったのですがその時の僕にはわかるよしもなく、ただいたずらに机にむかっていました。
 
そんな低空飛行の成績の中でどうにもならなかったのが化学でした。どれだけ勉強してもできるようにならない。計算問題などは何がわからないのかわからない。自信をもってわかるといえば周期表。水平リーベは余裕で覚えました。でも試験にはほとんど出ません。日本史で言えばマンモスとか石器時代あたりの内容だからです。まず出ない。理系にいながら理系科目が壊滅している。これはもう絶望的な状況でした。
 
数学や物理、英語もよくなかったのですが、せめてこの化学だけでもなんとかしたい。そんな藁にもすがる思いで、高校三年生の春から予備校の化学の講義を受けることにしたのです。その先生はいわゆるカリスマ講師と呼ばれる人で、どれだけ化学が苦手な人でもケロッと解けるようになる神秘的な講義をすることで有名な先生でした。ここまできたらやるしかないと腹をくくり、講義の時は最前列から2列目までに座り、復習はその日のうちにきちんとやりきる。このことを最後まで守り切りました。
 
結果、夏休み明けの模試では全国偏差値が72まで一気に上がったのです。いままで自分を悩ませていた化学が、自分の武器になってくれた。もしかしたらこんな僕でも大学に合格できるかもしれない。でもまだ化学が少しできるようになっただけだ。もっとできる友達はたくさんいる。ほかの科目はまだまだ全然ダメだからもっとやらないといけない。何も得意科目を持っていなかった僕が思いがけず「化学」という武器を手に入れた時ですら、自分の中にある劣等感には逆らえなかったのです。
 
その後、心を入れ替えて頑張ったおかげか浪人生活を経て歯学部に入ることができました。ですが大学に入っても僕の劣等感が消えることはありません。バイトを頑張っている人を見たらすごいと思うし、彼氏彼女ができた人を見たら羨ましく思えてしまう。一般教養の単位を一年で取り切った人を見ると頭いいなって思うし、お洒落なファッションの奴を見るとカッコよく見えてしまう。結局大学に入っても、周りの人のいいところにばかりに目が向いてしまい、やはり気づかないうちに劣等感に支配されていました。
 
歯医者という仕事は一生ものです。周りに勝てないなんて言っている場合じゃない。なんでもいいから自分の武器を見つけないといけない。本屋に通ってはビジネス系や自己啓発系の本を読み漁っていました。アルバイトでやった飲食の接客業は楽しかったし、予備校講師の仕事ではそれなりの評価をいただけました。でもこんなの武器にならない。そんな焦りを常に持っていたように思います。
 
相変わらず自分の武器探しに躍起になり、気づけば大学生活も後半戦。この時期になると専門科目の講義や臨床実習がメインになり、いよいよ歯医者の卵としての自分磨きが始まるのです。
 
そんな自分の武器探しの迷路に迷い込んでいた時、ある料理漫画と出会います。その中の登場人物の一人がこんなことを言っていたのです。
 
「俺の料理には”自分”はいらないんだ。俺の作業は皿の上から自分を消すこと。素材の良さだけをひたすらに突き詰めて、ひたすらに研ぎ澄ます」「しかしその作業が逆説的に自分を表現することにつながる。それが俺の料理なんだ」
 
このセリフは僕が今まで悩んでいたことをすべて吹き飛ばしてくれました。
僕は自分に劣等感を感じていて、自分のダメな所、できないところにばかり目を向けてきました。点数化される成績、目に見える実習の技術、見た目のよさ……。自分には一番になれるものなんて何もなかった。子どものころから周りと比較される環境で育ってきた僕にとって、自分が自信をもてるものなんて何一つなかったのです。
 
でもそれは違ったのです。自分のダメなところに目が向くということは、他人のいいところに目が向いているということでもあるということ。隣の芝生は青く見えるなんて言うけれど、隣の芝生の青さにちゃんと目を向けることができていたということでもあったのです。
 
すでに持っている自分の魅力に気づいていない人はもしかすると多いのかもしれない。それを言葉や文章などを通じて多くの人に伝えてあげることで、その人たちの世界が広がるかもしれない。そしてこれこそが結果的に自分という人間を表現することになるのかもしれない。これこそが劣等感の中で育った僕だからこそ身につけた武器なんじゃなかろうか。
 
これは僕にとって本当に大きなパラダイムシフトでした。
 
目の前の人の魅力を見つけるように毎日を過ごしていると、本当に多くの魅力があって、魅力のない人なんていないんじゃないかってことに気がつきます。しかも人の嫌なところよりいいところに目が向くようになったため、周りに嫌だと感じる人がほとんどいなくなったのです。自分よりいいものを持っている人がたくさんいる。それは自分が魅力的な人に囲まれて過ごせているということでもあるのです。それに気がついてから、いろんな事が楽しくなったような気がします。
 
大学では専門の講義が始まって、やっぱりやたらと勉強のできる奴や、手先が器用で実習をすんなりこなしていく奴。周りをみればそこには必ず自分よりできる友人がたくさんいました。でも劣等感を感じ続けていた以前の僕はもういません。
 
人に負けない、自分だけの武器がほしい。その気持ちは今でも変わりません。それは人に負けたくないという劣等感からきているものではなく、目の前の人の魅力を一つでも多く形にしたいという気持ちからです。いま学んでいる文章力などはまさにその最たるものだと思っています。
 
多くの人には自分では気づいておらず形になっていない魅力が隠れているはずです。とくに子供たちは可能性の塊のような存在で、少しでも多くの可能性を形にしてあげたい。すべての人が目の前のいる人の魅力に目を向けあうことができれば、世の中はいろんな色で溢れた楽しいものになるような気がします。
 
そんな世界をいつか見てみたい。
僕はそんな気持ちで子ども専門の歯医者で働いているのです。
 
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2018-11-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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