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僕の波乱万丈な日常~ワンコの恋心~


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:松原 さくら(ライティング・ゼミ木曜コース)
 
「こんにちは」
カエデは僕に挨拶をしてきた。初対面の犬に挨拶をする人間は珍しい。
「……、クゥーン」
僕は小さく返事をした。しかし、挨拶をしてきたからといって、すぐに人間を信用してはいけない。
 
 
 

僕はミニチュアダックスフントという種類の犬だ。子どもの頃、ペットショップのショーケースに並べられていた。すると、たくさんの人間が楽しそうに僕を見ては去って行った。
 

そんなある日、1人の女の子が僕に一目惚れした。
「ママ、私どうしてもこの犬を飼いたいの。お願い!」
「でもマリ、ママもパパも忙しくて犬のお世話をする時間はないの」
「でも、この犬はとても私になついているし、どうしても連れて帰りたい。ねえ、パパ良いでしょ?」
「ママがダメって言っているだろ? 世話するのは無理だ」
「じゃあ、私が世話するから!」
「そんな、あなたはまだ9才なのよ。そんなのは無理よ。生きものを飼うというのは、大変な事なのよ」
「大丈夫! 私が絶対に毎日世話をするから! ねえ、良いでしょ? パパ!」
「マリが絶対に世話を全部するのか?」「する!」
「じゃあ、仕方ないな」
「あ、あなた!」
「ママ、マリが世話をするって言っているんだ。9才のお誕生日祝いに飼ってあげても良いと思うよ」
「もう、本当に自分で全部お世話ができるの? 仕方ないわね……」
マリはとても可愛い女の子で、ペットは飼わないと決めている両親を一生懸命説得して、「必ず自分で世話をする」という約束までした。そうして僕はその家族に飼われることになった。
 

それからというもの、都会のマンションの快適な部屋で、とても幸せな生活が始まった。子どもだった僕は、嬉しく楽しくてよく部屋中を走り回ったものだ。
女の子も家にいる時はいつも一緒に遊んだ。
「マロン、ほら、ボール投げるよ!」「ワン! ワン!」
「良い子だねー! ちゃんとボール持って来て偉いよ! じゃあもう一回」「ワン!」
「じゃあ、ご褒美のおやつだよ。おすわり! お手! はい、食べて良し!」
暖かい家と美味しいご飯、僕はとても満たされていた。
 

ところが、僕がだんだんと大人になって、女の子が少しずつ成長して、生活は変わってきた。
女の子が家にいる時間が短くなっていったんだ。
当然、遊ぶ時間は短くなってくるし、お世話してくれる時間もなくなってくる。
それでも、マリは素敵な家族だった。一緒にいる時はとても優しく話しかけてくれた。
「マロン、ずっとお留守番でごめんね。ご飯にしようね」「クゥーン」
 

 

それからしばらくして、両親が離婚した。
離婚する何年か前から、夫婦がいがみ合ってケンカばかりしていた。僕とマリが楽しく居られる場所はなかった。
マリはいつも悲しそうにしていて、僕に構う余裕なんてない。その頃から、お散歩やシャンプーをしてくれる回数が減っていった。
 

離婚した後は、ママとマリだけになった。ママもマリも、とても忙しくてほとんど家にはいなかった。僕はいつも1人きりで過ごしていた。マリが家にいる時は、少しでも僕の方を向いてくれるよう一生懸命にいいワンコでいるように頑張った。でも、マリはどんどん忙しくなっていった。
 
 

そんなある年の暮れ、ママとマリはおばあちゃんの家に2週間の旅行に出かけることになった。その間、僕はパパの家に行くことになった。パパはペンションの経営をしている。年末年始はもちろんお客さんが来る。でも、パパがマリに「犬を飼っても良いよ」と許した責任があるから、仕方なく引き取ってくれたんだ。
車で4時間かけて、パパのペンションに行く間、僕はとても不安な気持ちで吐き気さえした。
これまで、パパは怒ると凄く怖くて僕はたまらずオシッコを漏らしてしまったことが何回もある。
パパと二人だけの生活では、また、きっと凄く怒られるに違いないと思った。
 

そうして、いざペンションに到着すると、色んな人がいた。
そこで初めて会ったのがアルバイトのカエデだ。カエデは、初対面で僕に挨拶をしてからも、ずっと他の人間に対するのと同じように僕に話しかけてくる。人間が犬に長い話しをする光景は、いささか不思議だった。
「マロン、大丈夫。怖くないよ。トイレはここ、ベッドはここ。じゃあ、ご飯にしようね」
「クゥーン」
僕は、いつパパに怒られるのだろうと、不安で仕方なかった。
 

たくさんのお客さんもいて、みんな、優しく僕に話しかけてくれる。僕は、夢中でみんなに甘えた。
こんなに僕の方を向いてくれるのは久しぶりだったんだ。できれば、誰かが僕のことを気に入って、家に連れて帰ってくれないかな、とさえ思った。
そんな時に、カエデは僕をたしなめた。
「ワン! ワン!」
「マロン、そんなに近づいてはダメ。お客さんは困っているでしょ?」
「かわいいワンちゃんですね。大丈夫ですよ」
「すみません。ありがとうございます」
「ワン!」
 

毎日がとても楽しくて、僕はだんだんと元気を取り戻していった。
散歩してもらったり、遊んでもらったり、嬉しくて仕方がない。
しかし、2週間が経ってしまうと、僕は元の家に帰らなくてはいけなかった。
それを知った時は本当に悲しくて、僕はパパとカエデにここに居られるよう何度もお願いした。
「クゥーン」
「私の家はペット禁止だから、マロンと一緒に暮らしたくてもダメなの。ごめんね。マロン」
「クゥーン、クゥーン」
「大丈夫。マロン。また、マリちゃんが迎えてくれるからね。」
「クゥーン」
カエデも僕と居たいのに、どうして別れなくてはいけないのか、本当に解らない。人間にとっては当たり前のことなのだろうか。お互いに一緒に居たいのに、離れ離れでいなければいけないなんて。
 

人間は、これを「恋」と呼ぶのではないだろうか。僕はパパとママが恋に落ちて結婚した話を聞いたことがある。どうしても一緒にいたいと強く思って、恋をして、結婚をしたそうだ。
今の僕とカエデは同じ状況にある。とても強い気持ちで一緒にいたい。お互いにだ。そう、これはきっと恋に違いない……。
 
 

僕は、また4時間かけて車でママとマリの家に帰ってきた。ママとマリの旅行も、とても楽しかったようだ。パパは、僕を置いて戻っていってしまった……。
もしかして、またすぐにパパが迎えに来てくれるかも知れない。もしかすると、カエデが一緒に暮らして良いよって言ってくれるかも知れない。
僕は、家にいる間も、ママとマリにカエデと一緒に居られるよう、ずっとお願いをし続けた。
「クゥーン、クゥーン」
「ママ、マロンがずっとドアに向かってクンクン言っているよ。またパパのペンションに行きたいのかな」
「そうかも知れないわね。でも、あの人もずっとマロンがいるのは困るのだし、仕方ないわね」
「そんなにペンションが良かったのかな」
「そうね。また来年の冬休みにも、おばあちゃんの家に行く間、パパに預かってもらいましょう」
「そうだね。マロン、楽しかったの? 良かったね~!」
「クゥーン」
 

来る日も来る日も、パパがペンションに連れて行ってくれるのを僕は待ち続ける。
僕には、行きたい場所がある。そう、どうしても一緒にいたい人間がいるんだ。
***

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2018-11-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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