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もうさ、いっそのことつぶれてくれたら応援しなくてすんだのに。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:漱太郎(ライティング・ゼミ平日コース)

「もうさ、いっそのこと、つぶれてくれたら応援しなくてすんだのに」

いつもこのパン屋の前を通る時に思います。

私が住んでいる地区はパン屋の激戦区なのですが、激戦区になる前から小さなアパートの1階を店舗に改造したパン屋がありました。
お店を切り盛りしているのは、『善良』という文字を絵にしたような老夫婦です。
お店の中には大きなパン焼きの窯がり、パンを作るスペースもあります。
でも、アパートの1階を改造したと言っても、私たちはお店に入ることはできず、小窓からお店の中をのぞきながら

「あのパンください」

と言って、指名買いするのです。
だってお店に入れないから、指をさしておばちゃんにパンを取ってもらうしか方法がないのです。
いつだったか忘れましたが、ここのパンはメロンパンが美味しいと妻が買ってきたことから存在を知りました。

いつも通っていた道、この通りにあるお店は、だいたい知っていたはずなのだけど、このパン屋だけは見逃していました。

このパン屋は子どもがパンを買いにくると、直径5cmほどのメロンパンをおまけにくれるのです。
そのメロンパンは、ブサイクなおもちゃみたいだけどおいしいです。
妻はこのメロンパンの味とパン屋のおじさんとおばさんが気に入って、ひんぱんにパンを買うようになりました。
私も毎日このパン屋の前を通るのですが、買おうとはまったく思えなかったです。

お店に来ている人は妻と同じような女性ばかり。
私はまだメロンパンしか食べたことはなかったけど、他のパンもおいしいのだろう。
この奇妙な外観のお店に行列はできないけれど、お客さんが途切れることはなかったです。

ある日の休日、妻にお昼用のパンを買ってくるように言われました。
もちろん買いに行く先は、あのパン屋。
アパート一階の小さな小窓から覗き込んで、おばさんにパンを取ってもらっている時、はじめてパン屋の商品を見たのですが、軽く著作権を侵害しいて驚きました。

ピカチュウにはじまり、アンパンマン、メロンパンナちゃん、カレーパンマンがいるではないですか!
私の好きな、しょくぱんまんも……
って、しょくぱんまんは、ただの食パンだった。

うーん。
たぶん善良そうなご夫婦なので、著作権クリアしてるんだろう。
もしくは、私がただの普通のパンをピカチュウやアンパンマンに見えただけかもしれない。
そうだ、気のせいだ。

パン屋のお使いをキッカケに、私もこのパン屋でメロンパンを買うようになりました。
何度かお店に行くと顔を覚えてもらえたのか、自宅に帰って袋を開けると直径5cmの小さなメロンパンがおまけで入っていました。

うーん、メロンパン買ったのだから小さいメロンパン、いらないけどな。
と思いながらも、都会でのささやかな交流に心がなごむ私でした。

そして、月日がたったある日、
妻が大慌てで帰ってきました。

「あのパン屋つぶれるかもしれない」

え? なんで?
話を聞くと、福岡市の郊外に、ベルギーで修行した店主のパン屋が、なりものいりで福岡市内に出店するとのことでした。
しかも、よりによって、あの夫婦のパン屋の道のななめ向かいに。

早速ネットで検索してみると、看板は落ち着いたピンク色がベースで多分ベルギー語なのだろうけど全く読めない文字が書かれていて、ハッキリ言って小洒落た雰囲気のオープンしたら絶対行きたくなるパン屋でした。

あー、これはもう、若い奥様たちのハートをわしづかみだね。
と私は思いましたね。

その情報から数日たったある日、
また妻が大慌てで帰ってきました。

「あのパン屋が安売りしてる!」

え? まじか。
今まで安売りとかセールなんてしたことなかったのに。
うーん、いよいよパン屋の夫婦にも、ベルギーのパン屋進出の情報が入ったか! と思いました。
いや、間違いなく情報は入っただろう。

そうじゃないと、安売りなんかするはずがない。
私は心配になって、パン屋の夫婦の様子を見に行くついでに、ひんぱんにパンを買うようになりました。

でも、同じことを考えている人もいるのか、相変わらず行列はできていないけど、私がパンを買いに行くと必ず数人のお客さんがパンを買いにきていました。

店舗はアパートを改造していて店には入れず買いにくいけど、うまい。
パンのデザインはあかぬけず見た目が美味しそうじゃないのに、うまい。
行列は見たことがないが、お客さんがいなかったのを見たことがない。

そんなパン屋をほっておけないと感じている人が私や妻以外にもいるのだろう。
私もまったく気にしていないつもりだったが、いつの間にかこの、ダッサイけどくり返し買ってしまうパン屋を応援していました。

そして、いよいよ、
品のよいピンク色がトレードマークの小洒落たベルギーのパン屋がオープンしました。

オープンから数日は行列ができていました。
住宅街なので、駐車場は2台しかなく、お店周辺には迷惑駐車の車があふれるほどの大繁盛でした。私も買いにいきましたが、小洒落た店内に洗練されたデザインのパンが並んでいました。

少し硬めのパンにコロッケとレタスをはさんだパンが美味しくて、実は今でもお気に入りになっています。別にあのパン屋を裏切ったわけじゃないですよ。

率直な感想は、このベルギーのパン屋に、あのパン屋は絶対にかなわない。
商品力が違いすぎると思いました。

なぜわざわざ、善良な老夫婦が営んでいるこのパン屋の近くにわざわざオープンするんだ? とそのいやらしい経営手法に疑問を感じましたが、パンは私好みでとてもおいしいかったです。

そしてあれから4年の月日がたちました。
私たちの予想に反して、今でも老夫婦の、店に入れないパン屋は今日もあかぬけないパンを私たちに販売してくれています。

つぶれてしまうと心配したのですが、あのパン屋がつぶれなかった原因は、商品がただのひとつも競合しなかったからだとの妻をふくめたご近所の奥様方の調査結果だったようです。
同じパン屋でも、あかぬけたパン屋とあかぬけないパン屋、商品はちがうし、客層も違っていたみたいです。

もうさ、ほんと、いっそのこと、あのときつぶれてくれたら、
今も応援しなくてすんだのに。

とぶつぶつ言いながら、今週末は久しぶりに、あのパン屋のメロンパンでも買おうかなと思っています。

***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2018-11-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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