新聞配達が僕の礎
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記事:古川 馨(ライティング・ゼミ平日コース)
「中学に入ったら新聞配達したい!」何十年も前のことだ。あれはちょうど中学に入るほんの少し前。友達の家から帰ってくるなり、母にそう告げたのだった。当時、子供が働くといえば、新聞配達がメジャーだった。別に生活に困っていたわけではないが、友達に誘われたのだ。中学に入ったら新聞配達をするからみんなで一緒にやらないか? と。新聞配達をして給料がもらえれば、好きなものも気にせず買うことができる。友達の話しによれば、少なくとも月2万円くらいは稼げるという話だ。子供にとって月2万円は大金だ。ゲームソフトも漫画もおもちゃだって買い放題。あれも買える、これも買える。と妄想はひろがる。とはいえ、小学生のうちは雇ってもらえない。4月から中学1年生になる。それから新聞配達所で雇ってもらうのだ。
母は帰ってくるなり働きたいと叫ぶ息子に困惑しただろう。面食らった表情を浮かべていたと思う。その母が、「いいよ」といった。そして、「ただし、自分で全部ちゃんとやるんだよ」と念を押した。OKが出てすぐに新聞配達所に電話。友達の家に電話するのとは、また違った緊張感があった。恐る恐る「4月から中学生になるので、新聞配達をしたいんですが……」と告げると、「今から来れる?」と配達所の人が言った。新聞配達所へは徒歩で5分位のところ。ちょうど学校へ向かう途中にある。「行ってくる」と受話器を置いてそのまま走って向かった。面接といっても、子供相手だ。仕事内容の説明と手続きの話をして終わり。「あとは親御さんにこれを渡して」と書類を持たされた。
4月1日、ちょうど入学式の朝から新聞配達を開始することになった。そして、朝刊配達の仕事が始まった。朝、5時頃集合。チラシの折込の終わった新聞を専用の自転車のカゴと荷台にくくりつけて出発する。最初の1週間は、先輩が一緒に回ってくれることになっていた。120部の新聞を配達ルートの地図を見て、一軒一軒確認しながら配達する。配り終えるのには、だいたい1時間30くらいだ。たったそれだけの時間でも、終わる頃には汗だく。帰ってシャワーを浴びてから学校へ行く。そんな日課が始まった。
新聞配達は結構過酷だ。朝早いこともあるが、雨の日も、風の日も、雪の日だって休みはない。たまに休刊日はあるものの、それ以外は毎日出勤だ。たった90分の仕事とはいえ、天気の悪い日はとても大変だった。雨のは新聞が濡れないように、袋に入れる。自分自身は濡れたとしても、新聞を濡らすわけにはいかない。袋に入れていても、取り出すときは慎重だ。袋について雨水が新聞についてしまうこともあるからだ。雨の日はカッパを着て、傘をさす。とても動きにくい。それでなくても、新聞配達用の自転車は、子供には扱いにくい。大きくて重たいからだ。蒸れるカッパを着ての配達は最悪で、終わった頃には、いつもの倍以上ビチョビチョだ。それでも冬よりはいい。
冬が一番大変だった。なんといっても雪がある。その雪の中を、また自転車を押して配達するのだ。ソリを使う人もいたが、台数がない。ほとんどの人は、いつもと変わらず自転車に新聞を積み込んで配達する。さすがに載って漕ぐことはできないが。さらに大変なのが、大雪の日だ。配達区域によっては、朝の5時には除雪が行き届いていない。つまり、積もったままなのだ。足が埋まる程度ならまだいい方で、ひどいときは腰まで埋まりながらの雪中行軍だ。雪山で遭難でもしたのかと思うような勢いで、除雪のされていない道。自転車を押すながらひたすら進む。しばらくすると、除雪のホイールローダーがキャタピラで雪を踏み固めながら、そのシャベルで雪をもっていってくれる。しかし、その後が問題だった。除雪をしたあとは、やたらと道が滑るのだ。ツルッツルだ。自転車ごとひっくり返ったこともしばしばだった。
中学の入学式から始めた新聞配達。1年たち、2年たち、次々と友達がやめていった。それでも僕はやめなかった。高校に入って、大学に入ってもやめなかった。結局、新聞配達勤続10年までやりとげた。雨の日も吹雪の日も毎朝新聞を配り続けた経験はかけがえのないものだ。何事にもくじけない強いメンタルで、今も新しいキャリアにチャレンジしている僕を作ったのだから。
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