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メディアグランプリ

人生うまくいかない時は旅に出て見つめ直してみよう……荷物を。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:吉田けい ライティング・ゼミ日曜コース
 
 
「あれ、けいちゃん、荷物少ないね」
 
 先日、仙台在住の親友を訪ねて旅をした。集合場所に現れた私を見て、親友の真理子が驚きの声を上げた。厳選したからね、と私はニヤリと笑う。
 
 私の旅の道連れは一歳の息子。あんよ大好き、バナナを見ると「ば!」と叫ぶ、ミキサー車が好きなオムツボーイだ。母子一泊二日の旅の荷物は、いつものマザーズバック、貴重品ポシェットの他に、機内持込サイズのスーツケース一つに収まっていた。
 
「すごいね〜」
 
 そうだろうそうだろう。
 私は内心得意満面だった。少し前までは、荷物が多いと言えば吉田けい、のように言われていたからだ。
 
 
 私の荷物が重くなったのは、おそらく高校で予備校に通い始めて、講義の合間に自習室に行くようになった頃だと思う。気が散りやすい私は、自習室に行く日は、ほぼ全教科の自習グッズを持ち歩いていた。大学でもその癖は続き、就職して出張するようになると、ホテルでの便利グッズや、ミニ文具が気になるようになり、ずっと鞄はパンパンだった。
 
「そんなに重い鞄を持っていたら、ぎっくり腰になるよ!」
 
 親や友人や夫はそんな風に忠告してくれた。そして実際なった。忘れもしない移転前の銀座の伊東屋で、可愛い付箋を見つけてしゃがみ、立ち上がった時、腰のあたりでパキンと音がした。初めはそれだけだったが、じわじわと痛みが広がり強くなり、一時間もするとまともに座ってもいられなくなった。ひー痛い! 這うようにして病院に行き、ぎっくり腰だねと診断される頃には、荷物を軽くするぞと固く心に誓っていたが、痛みが引くとまた元通りになってしまった。
 
 鞄は重たいまま子供を授かり、出産のため入院した。初めての入院に、あれもこれもいるんではないかと不安になり、病院で指導された物の倍近くの荷物を持ち込んだが、ほとんど使わなかった。無事出産・退院し、大量の荷物の荷ほどきをしていると、なんとも言えない虚しさに襲われた。
 
 読むかもと思った本、最初の数行読んだだけだな。
 日記書くつもりだったけど、起きられなくて、スマホのメモになったな。
 ボディソープとか持ち込んだけど、結局備え付けのやつで足りたな。
 
 なんでこんなに荷物が多いんだろう。なんでこんなに持ち歩いているのに、やりたいことが全然できてないんだろう。意気消沈しても、もしこれがなかったら、の不安にはなかなか打ち勝てず、重い鞄の日々が続いた。
 
 そんな折、大阪に遠出することになった。久々の旅行に私はうきうきと情報収集し、宿泊先はスーパー銭湯とプールもある滞在型テーマパークにした。館内で息子とあれで遊ぼう、ここに行こうと夢を膨らませ、そのためにわざわざ息子の水着を買うほど入念に準備し、重い荷物を持ち込んだ。
 
「夕方にチェックインで、夕ご飯に出かけるから、その前に温泉に……」
「午前中に時間があるから、ゆーたんも一緒にプールに……」
「今のうちにご飯を食べちゃえば、移動が楽になるから、そこの店で……」
 
 時間をやりくりして、やりたかったことは珍しく全部できた。滅多に完遂できない偉業のはずなのだが、滞在中はずっとせわしなく、ずっと荷物を出したり入れたりしているような旅行となった。同行者もせわしないなと思ったに違いない。
 
 ああ、やりたいことを全部やることが、私が望んだ過ごし方じゃなかったんだな。
 
 よし。
 やりたいことを減らそう。
 そしたら荷物も減るはずだ。
 
 それから、出かける前に、出先で何をするのかを深く考えないようにした。今まではまずはスーパー、その後に公園に行くかな、図書館かもしれない……といろいろな可能性をすべて含めて荷造りしていたが、スーパーならスーパーしか考えないようにしたのだ。また、必要なものが手元になくても、まあいいか、と思うように心がけた。散歩の途中でスーパーに寄って、エコバッグがなくても気にしない。そうすると、スマホ、財布、麦茶、オムツ一枚で、息子とふらっと散歩に行ったりできるようになった。前は散歩というと絶対にマザーズバッグを背負っていたので、ずいぶん身軽になれた。その分元気に走る息子を存分に追いかけることができる。遠出やスーパー銭湯に一泊した時も、同じ要領でできるかぎり荷物を減らすよう心掛けた。
 
 そして迎えた仙台旅行。目的は「私と息子、真理子とそのお嬢さんと一緒に、仙台の親友とその赤ちゃんに会う事」とはっきりしていたので、余計なレジャーグッズは入れず、スマホや現地で手に入る観光情報だけで十分と情報誌も買わなかった。実際なにも困ることなく、荷物はコンパクトになった。旅先では美味しい駅弁と牛タンを食べられたし、親友たちとたくさん話せて、大満足のひと時となった。
 
仙台から帰宅して旅の荷物を見直したら、次は家の断捨離がしたくなってきた。ただ物を捨てるのではなく、この家で何をするのか、やりたいことを選ぶのだ。思えばこの家も、中途半端にやりたいことと、そのための物で溢れ返っている。旅行中は、私と息子は小さなスーツケース一つで暮らせていたのだから、あれこれ捨ててもそう困らないだろう。そうしてすっきりした家で暮らしたら、本当にやりたいことにじっくりと取り組めるはずだ。
 
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2018-11-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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