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思考停止のその先に

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:山田 楓(ライティング・ゼミ木曜コース)
 
「では一人ずつ自己PRをしてください」
 
黒い列が部屋に案内されて、面接が始まる。
ひとつくくりにされた黒い髪、着なれないスーツ、コツコツと響くパンプス。
そして、部屋にやたらと響く自分の緊張した声。
 
そのどれもが自分ではないみたいで、自分のものなのに、自分に属していない気がした。なんだろう、この違和感。みんなで同じことをする違和感。
みんなと同じことをしないといけないというルールが、暗黙の了解としてそこには存在しているように感じた。
 
どうして黒い髪にしないといけないの?
どうしてパンプスを履かないといけないの?
どうしてスーツを着ないといけないの?
 
「誰が、それを、決めたの?」
 
スーツを着る理由は考えた末に自分の中で何となく納得がいったんだけれど、
髪の色に関しては納得できる答えが見つからなかった。だから私は、生意気と思われてしまうかもしれないけれど、そのまま茶髪で説明会や面接に行くことにした。髪もくくらずに、そのままの長さでおろしていった。
 
ある説明会に行ったときに、そこで初めて会った就活生にこう言われた。
「なんで髪をくくってないの?」って。
「え?」と思った。
逆に、なぜ髪をくくることに違和感を抱かないのか疑問に思った。なぜ髪をくくることに慣れることができるのかと思った。
 
就活中は何度も何度も、自分で自分に、たくさんの質問を投げかけた。
 
私にはどんな強みや弱みがあるんだろう。
私は何がしたいんだろう。
私は何が好きなんだろう。
私はどんな仕事がしたいんだろう。
私はどんな社会人になりたいんだろう。
私は将来、どういう姿でありたいんだろう。
「わたし」って、結局、何なんだろう。
 
いくら考えてもわからない。
だって考えたことがないから。
今までレールに乗ってきただけだったから。
受験も周りに流されて、周りが受験するから、受験する。周りが大学に行くから、大学に行く。今回も周りが就活をするから、就活をする。
 
あーあ、思考停止。
そっか、私、思考が停止してたんだ。
 
「周り」や「社会」を軸に進路を決めてきた私は、「私」を軸に道を選択する練習をしてこなかったのだ。「私」を軸にした瞬間にどうやって動けばいいかわからない。「私」を行動の主語にする方法がわからない。
自分との向き合い方なんて、今まで誰も教えてくれなかったし、そもそも自分と向き合おう、なんて今まで考えたことがなかった。
 
自分と向き合うことを避けてきた私は、たくさんのお祈りメールをもらった。
「今回はご期待に添えず、申し訳ありません」
「今回はご縁がなかったということで」
「今後のご活躍をお祈りしております」
 
自分はいらない、と世間から、社会から言われてる気分だった。
何度も何度も上から見えない手が、私を押さえつけている気がした。
 
5月前半くらいだっただろうか。
周りではもう、納得する会社に内定をもらったという声が多く聞こえ始めていた時期だった。
就活が3月に解禁されてから、約2ヶ月。
夏のインターンから数えて、約9ヶ月。
今まで走り続けてきた私は、駅から歩いて帰っているときに、プツンと自分の中で何かが切れた。
今まで自分の中で必死に保ってきていた何かが壊れた。
「あ、無理だ」
瞬間的にそう思った。そう思った時にはすでに涙があふれていた。
泣いて、泣いて、泣いた。涙が止まらなかった。
服の袖で涙を拭いたら、すぐに濡れてしまった。
 
なんで、うまくいかないんだろう。
なんで、伝わらないんだろう。
なんで、自分にはできないんだろう。
なんで、なんで、なんで。
 
今までの嫌だったこととか、自分の不甲斐なさとか、友達の内定を素直に喜べない気持ちとか、いろいろな感情が入り乱れて、嗚咽が漏れ出た。
 
こんな顔では家に帰れない。泣いた顔なんて誰にも見せられない。
幸いにも時間帯は夜で、道は暗く、誰も自分のことを見ていない。
いったん泣こう、って思った。
それから下を向いて歩きながら、しばらく泣いた。
 
思い切り泣いた後は、切り替えるしかない。
だってもうやるしかない。泣いてても状態は変わらないのだから。
そう思って、私はまた動き出した。
 
それから1ヶ月後には、内定をいただき、その会社で働くことを決めた。
内定をもらったときは、嬉しい気持ちでいっぱいだった。最終面接から、結果発表までの間は不安でいっぱいで、内定が確定したときは、実は部屋でちょっぴり泣いた。
 
「私」を軸に選択すること。
その練習を私は就活を通して、してきたのだと思う。
今までは、自分で考えず、周りに流され、思考が停止していた状態だった。
思考停止のその先には、「私」を主語にして動いていける自分の姿があった。
 
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2018-12-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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