メディアグランプリ

ルパンと子供と自転車の想い出


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:高木淳史(ライティングゼミ平日コース)
 
「奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの心です」っていうのは「カリオストロの城」の銭形警部の名言だ。知っている人もきっと多いだろう。でもルパンにはそれ以上の名言があることをどれくらいの人が知っているだろうか。
 
僕はもともとルパンが好きで、子供の頃は金曜ロードショーを楽しみにしていた。ルパンは軽い感じの天才的な大泥棒でありながら、ときどき心につきささる深みのある言葉を教えてくれる。もちろん次元大介もそうだし、五右衛門も峰不二子もそう。子供ながらに彼らのカッコよさにしびれていた。
 
時は過ぎ、僕は歯科医師になってから一年の研修期間をまもなく終えるという頃だった。一年の研修期間を終えると、どんな専門で進んでいくかということを決めないといけなくなる。僕はいま子供専門の歯医者をしているが、いまの少子化の時代において子供を専門にするというのは、まるで大嵐の中に突っ込んでいくようなもので、頭のおかしな奴だといわれてもおかしくなかったのだ。
 
高齢社会に突入していく時代において、おじいちゃんおばあちゃん相手の仕事をすれば間違いなく食いっぱぐれることはないだろう。でもそれは自分のやりたいことかといえば決してそうではない。
 
未知のポテンシャルが秘められた子供たちと接するような仕事がしたい。でも少子化の時代であることもいなめない。
 
どうしようか。確実なことか、やりたいことか。
答えが出せず頭を悩ます毎日を過ごしていた。
 
そんな悩みに悩んでいたとき、ルパンが僕に教えてくれた。テレビシリーズの「盗まれたルパン~コピーキャットは真夏の蝶」の中で、ルパンの相棒になりたいと言ったベッキーに向かって、ルパンはこう言った。
「俺の相棒になりたきゃ、まずは大人にならなくちゃな」
「大人って?」
「スリルを楽しめるやつさ、本物のスリルをな。一度きりの人生、怖いのは死ぬことじゃなくて、退屈なこと」
 
「お前はスリルを楽しんでんのか?」
そんなふうに言われているような気持ちになったのだ。
 
僕はどうしても、周りの意見に流されてしまい、自分の気持ちを押さえつけてしまうことがよくあった。でもルパンは違う。選択肢があれば正しそうな方ではなく、スリルのある方を選ぶ。
 
そういえば生まれたての赤ん坊は何もできない弱い生き物だ。でも新しいことに果敢に挑戦しながらできることをどんどん増やしていく。時には転んでけがもするし、時にはやけどもするだろう。でもケガを恐れずに何回も挑むことで、どんどん成長していくんだ。
 
人生を生き生きと過ごしている人や説得力のある人、言葉に深みのある人っていうのは、かならず常に変化し続けているし、新しい世界を見続けている人たちだ。ルパンにしてもそうだ。ルパンは別の映画で、盗んだお宝が大切なんじゃなくて、お宝を盗む過程こそがおもしろいってことを言っている。
 
一つクリアしたら、さらに次の世界へ行く。子供のときはみんなそうだった。新しいことが一つできるようになると、次のことをできるようになりたい。みんながそうだったはずだ。
 
スリルってのは別に生き死に関わることじゃない。スリルってのは現状からの変化だ。変わることは怖い。だって見えないことだから。
 
僕らは過去の経験をもとに未来予測をして、大丈夫そうなら行動する。危なそうなら行動しない。でもそれだと世界は広がらない。だって予定調和だから。世界が広がる過程は、過去の延長にはないんだ。
 
いままでしたことのない経験、いままでの経験では予測不可能な未来、まだ真っ白な地平に色がついていく。それが世界が広がる瞬間だ。
 
まるではじめて自転車に乗れた時の、あの風をきって走る、世界が大きく広がったあのときの気持ち。それがスリルを乗り越えた先に見える景色なんだろう。
 
ルパンのおかげで僕は間違いのない選択をできたと思っている。スリルがあるかどうかはわからないが、でも今の僕は転んで傷だらけになりながらも、毎日の診療に楽しみながら臨むことができている。
 
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2018-12-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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