あと10点が足りなくて
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記事:山田 楓(ライティング・ゼミ 木曜コース)
「合格まであと10点足りない」
人生で初めてくやし涙を流したのはいつだっただろうか。
おそらく小学3年生のときだったように思う。私は習い事としてそろばんに通っていた。祖母がそろばんの先生として働いていたので、孫である私もそろばんを習うことはもはや必然だった。
最初は練習すればするほどできるようになって、点数が上がるようになり、等級で区別されている試験にも、5級、4級、3級とどんどん合格していった。
お父さんやお母さん、もちろんおばあちゃんも褒めてくれるし、それが嬉しくてひたすらそろばんの勉強をしていた。
ただ、そろばんをすることが楽しかった。
玉をはじくことがたまらなく楽しかった。
自分の計算結果が正解で、赤い丸が増えるのも楽しかった。
楽しいからそろばんを練習していたはずの私は、いつからか祖母がそろばんの先生だから、私もできる子じゃないといけないと思うようになっていた。祖母が先生であることを、小学生ながら少しプレッシャーに感じ始めたのだ。今までただ楽しくてそろばんをしていたのに、「試験に合格しなければならない」というどこから湧いてきたのかわからない焦りの気持ちが生まれるようになっていた。
そんなときに、私はそろばんの試験を受けて、今回も合格したはずだ、私なら大丈夫なはずだと言い聞かせて、意気揚々と結果がくるのを待っていた。
しかし結果は不合格だった。あと10点、合格点に届かなかったのだ。私は愕然とした。今までそろばんの試験で落ちたことなんてなかったし、落ちるとも思っていなかったからだ。
何度も何度も自分の点数と合格点数を確認したけれど、不合格には変わりなかった。いつもなら合格の「合」と書かれている欄に、そのときは確か斜線が引いてあった。
なんで、あと10点が取れなかったんだろう。
なんで、ちゃんと見直しをしなかったんだろう。
なんで、合格できなかったんだろう。
あと10点、たった10点だけど、その10点が届かなかった私は泣いた。
どうしてという思いしか湧いてこず、親に「次またがんばればいいじゃん」となぐさめられても、悔しさの方が勝って、こたつにうずくまりながらずっとメソメソ泣いていた。
そのあと、試験に落ちたことが悔しくて悔しくてたまらなかった私は必死で勉強した。結果的には、一度落ちたそろばんの試験に合格することができた。
もちろん合格したときもすごく嬉しかったんだけれど、不思議なことに、合格したときの喜びよりも、不合格だったときの悔しさの方をよく覚えているのだ。
あのころの私にとって、そろばんはRPGのゲームみたいだったなと思った。
私が小学生のころに流行っていたゲームといえば紛れもなくポケモンだった。
ちょうどDSが発売され始めたぐらいで、DSでポケモンのゲームをするのがとても楽しかった。
ポケモンのゲームでは、戦えば戦うほど、経験値が溜まり、ポケモンのレベルが上がっていく。ポケモンのレベルを上げ、そしてトレーナーとしての自分のレベルを上げ、各地にいるジムリーダーに挑戦する、確かそんな内容だったような気がする。私は躍起になってポケモンのレベルを上げようとしていたので、親に決められたゲームの時間をオーバーして何度か怒られたりもしていた。
こうやって自分で努力しながら、経験値をためて、レベルを上げていくことはそろばんに似ているなと思った。そろばんも自分で努力して、たくさんの問題を解いて、自分の経験値を貯めて、ジムリーダーならぬ試験に挑戦する。
自分で試みて、失敗して、学んで、やり直す。
この一連の流れを、私はそろばんを通して学んだ。
過去の自分ではまだ届かなかったとしても、今の自分ならば届くはず。
そんな風に信じながら努力を続けることで、自分が欲しかった結果を手に入れるのにつながることもあると知った。
道はこっちであっているのかわからない怖さがあるけれど、やるしかないのだ。だって悔しかったんだから。不合格だったときは、悔しくて落ち込んだ。そう落ち込んだんだけど、それは事実として受け止めて、次にいくしかない。泣いていたって何も変わらない。何もしなければ、何も起こらないのだ。
行動したからこそ、何かしら起こる。それは自分にとってプラスなのかマイナスなのかわからないけれど、起こった出来事に対して次のアクションを起こすことはできる。
そうやって一歩ずつ、進んでいくしかないんだと思う。
たまにポーンっと何段か一気に飛べることもあるかもしれないけれど、自分の現在地と目標、そして目標までに足りないものを把握する。把握したらそれを埋めるために何ができるか考える。
きっとあのとき足りなかった10点は、自分にとって必要な10点だったのだ。
あと10点。あと少し。
できなかったとしても、もう一度挑戦すればいい。
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