やさしい嘘の共犯者になってきた
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:和田恭子(ライティング・ゼミ日曜コース)
嘘をついてはいけません。
言葉を理解できるようになってから今まで生きてきた中で、そう言われた、あるいは言われているのを聞いたことがない人は、ほぼいないのではないだろうか。そして、殆どの人は「その通りだ」と同意していると思う。
だが、きちんと考え抜かれ、愛情を持ってつかれた嘘は、時に人を幸せにすることがある。
正月休み、親戚の子を連れて、ウルトラマンのショーを見に行くことになった。
到着すると、「少子化とは、どこの国の話なんだろう」と思うほどの親子連れで賑わっていた。
入場までに風が強く吹く日陰に長時間並び、会場に入ってもなかなか身動きが取れないほどの人混みでずっと立って待ち、飽きて不機嫌になる小さな子をなだめ、と、参加するのはなかなかの苦行で、ショーが始まる前からかなりの親子が疲れ切っていた。
運営側も手を打っていないわけではなく、会場内では飽きさせないための展示やアナウンスなどもあるのだが、そもそも幼稚園児や小学校低学年の子供たちに「数十分おとなしく立って待つ」というのは不可能なのだろう。
ようやく席についても、泣き出す子や寝てしまう子も多く、幼い子の生態に慣れていない私などは「こんな状態で大丈夫なのか」と不安で仕方なかった。
この手のショーは数十年単位で参加しておらず、最近の状況は把握していなかったので、子供たちが撃沈している中、お姉さんに満面の笑顔で「こーんにっちはー!」と言われたら、どうしたらいいのだろう、などとしょうもないことでそわそわしていたのだ。
そんな心配は、始まった瞬間に吹き飛んだ。
数秒前までぐずっていたとは思えないテンションでお姉さんの呼びかけに返事をしたり、主演俳優からの質問には全力で手を挙げたりと、どの子も元気よく、お行儀よくショーに参加していた。
いきなり出てきた怪獣に怯え、ウルトラマンがピンチになれば、時には目に涙をためながら「がんばれー!」と絶叫し、お姉さんの誘導に従ってウルトラマンの名前を呼び、見事に復活した姿に身を乗り出し、無事に怪獣を倒せば拍手をする。
あの瞬間、子供たちの目の前には確かにウルトラマンがいて、地球の平和を守る為に戦っていた。
大人は、ウルトラマンが「作られたもの」であると、ある種の嘘であると分かっている。
興奮のあまりステージに駆け寄ろうとする我が子を必死で止めるお母さんも、目の前で繰り広げられるアクションに思わず「おお!」と感嘆の声を漏らすお父さんも、首にしがみつかれて苦しそうな体勢で踏ん張るおじいさんも、振り回される小さな手にメガネを飛ばされたおばあさんも、皆、あのウルトラマンや怪獣の中には、自分と同じ人間が入っていることを知っている。
テレビの中では高層ビルより大きな姿で現れるウルトラマンが、どうしてここではお父さんとあまり変わらないサイズなのか、とは聞いて欲しくないし、チャックのようなものの存在や、膝が擦り切れているみたいに見えるとか、握手をした手がゴム臭いなんてことには気づいてくれるなと願っている。
ウルトラマンがどれだけとんでもない危機に陥っても、必ず逆転して最後には敵を倒すと、自分の住んでいる家が怪獣に壊されることは絶対にないのだと、安心していられる。
同時に、その「嘘」を子供たちの前で「本当」にするために、多くの人が努力していることも知っている。
ステージの上にいた人々だけではなく、彼らを支える裏方も含め、大勢が時間をかけて準備してきたことを。
だからこそ、展示された小道具の細かい職人技や、激しいアクションに感動するし、時には子供に向かって、ウルトラマンの世界観に寄り添うような嘘もつくのだ。
そして、子供たちの満足そうな笑顔を見て、彼らの努力が報われたと、ほっとするのではないだろうか。
少なくとも、ショーの数十分の間に子供たちが感じたドキドキや悲しみ、喜びは、間違いなく本物だったろう。
ショーが終わり、会場を出ると、物販コーナーがあった。
興奮さめやらぬ子供たちに混じり、明らかに自分のために商品を選んでいるお父さんやお母さんもいた。
もしかしたら、年齢がまだ一桁だった頃、彼らも別の場所でウルトラマンに声援を送っていて、その頃の気持ちを思い出したのかもしれない。
そして、グッズを抱きしめて飛び跳ねている子も、いずれは成長して、どこかで我が子がウルトラマンに声援を送るのを見守るのかもしれない。場合によっては、ステージでウルトラマンになっているかもしれない。
この幸せで優しい嘘が、この先もずっと受け継がれていってほしいと、すっかりウルトラマンになり切った親戚の子に足を蹴られながら、考えていた。
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