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アラフィフ、ボディビルダーになる


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ギール里映(ライティングゼミ 平日コース)
 
「ボディビルダーになりたいっていう人の気持ち、わかるわ」
 
もうすぐ50歳の大台に乗ろうという姉が、急に言い出した。
 
「運動とかしたら、意識が変わるっていうやん。初めは何の気なしにトレーニング初めてみたんやけど、面白くなってきて、ボディビルダー目指すって言い出す人の気持ち、わかってきた」
 
お正月早々姉の口からボディビルダーとうい言葉が飛び出したことに、私は衝撃を受けた。これまでスポーツはおろか、なんのエクササイズもろくにやってこなかった姉である。もともと運動神経はよく、学生時代は運動会でリレー選手に選ばれるぐらい脚も速くて、中学校ではテニス部で活躍していたスポーツ万能の姉だが、大学生になり、社会人になってからは、運動と名のつくものはほとんど手を出していない。
 
姉は、セルフケアとか、自己鍛錬というようなことが一切嫌いだ。健康や美容のために食べ物を変えようとしたこともなければ、エクササイズもしたことがない。私が覚えているかぎり、ダイエットなんかもしていたことはほとんどない。とにかくそういう健康的な生活というものにたいして、無頓着を通り越して、むしろ何か敵意まで抱いている。私からはそんな風にしか見えなかった。
 
好きな食べ物は焼肉とラーメン。新しいラーメン屋はまめに足を運んでいたぐらいだから、食べること自体は好きなのだろう。また美味しくて“安い”焼肉屋を探すのがうまく、ことあるごとに食べに行っていた。しかし女子なら普通、小洒落たイタリアンやフレンチを好んだり、ちょっと高級な和食やカフェランチも楽しみそうなものだが、そういう女子っぽいものには一切見向きもしないばかりか、むしろバカにさえしている気配がある。
 
一方妹の私は、もともとのぽっちゃり体型をなんとかしたいと、高校時代からはダイエットとはお友達。流行りのダイエット法が出回るとすぐに試してはリバウンドしていた。30歳をすぎてからは「10年後に後悔したくない」と強く思い始めてピラティスを始め、ヨガを始め、それが高じてインストラクターの資格までとってしまった。食についても同じで、あらゆる食事法を研究実践し、それがライフワークになってしまったぐらいである。
 
同じ京料理屋を営む家に生まれて、食べることが大好きで健康オタクの妹とジャンクが好きで健康に全く気を使わない姉。同じ姉妹でなぜここまで違うのだろうと、不思議で仕方がなかった。
 
そんな姉も流石に重力には逆らえず、肉体や体力の衰えを気にし始めて、一念発起しフィットネスジムに行き始めたのが半年前。一度やる、ときめたらとことんやるのが姉の性格だとは知っていたが、半年も続くとは正直思っていなかった。そんな姉が、ボディビルダーになる人の気持ちがわかるようになったと言ったことは、あごが外れそうになるぐらいの驚きだった。
 
姉は私と違い、昔からずっとスリムで、ダイエットの必要が全くなかった人である。しかし彼女は子どもの頃、卵と背の青い魚のアレルギーを持っていた。さすがに今ではひどい症状はでないが、それでも好んでは食べることがない。
 
食物アレルギーは、3、40年前に私たちが子どもだったころには、とてもめずらしいことだった。学校の給食で除去食なんていう言葉は聞いたこともなく、クラスでアレルギーがあった子も、ほとんどいなかったと記憶している。
 
いまでこそ、食物アレルギーの子どもたちが増えたことでそれが当たり前になり、お母さんたちの会話でも「何か食べられないものがある?」と訊きあうのが当たり前のルールとなるぐらい、この概念が浸透してきた。しかし私たちが子どものころは、周りにも理解されず、学校の個別対応もなかったような時代、まわりからきっと「めんどくさい子」と思われていたに違いない。なぜなら今でも私たちは、何か食べられない人がいると「めんどくさいな」とどこかで思ってしまうからだ。それほど、人と違うものを食べることに対する、この国での扱いは、いまだに風当たりが強いのである。
 
そんな子ども時代を経験してきた姉だから、むしろ食べることにこだわることを、一切放棄したのではなかろうか。食べたくても食べられないものが多かったおかげで、周りからめんどくさい子と扱われるのがいやで、その反発心から食べ物にこだわる人を敵視までするようになったのではないか。ジャンクフードを食べることで、姉はせいいっぱいの抵抗を表現しようとしていたのではないか。
 
人の心を頑なにするのも食、解きほぐすのも食。毎日のご飯は確実に、人のココロを作り、育て、ときに捻じ曲げてしまう。そんな子どもの頃の姉の心のうちは、もはやわかりようもないが、日に日に体が引き締まり、姉の顔に明るい笑顔が増えるのなら、ボディビルダーも悪くないな、と思うのである。
 
*** この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。 http://tenro-in.com/zemi/66768

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2019-01-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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