粗探しをする優しさ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:K子(ライティング ゼミ平日コース)
「○○さんって、完璧な人だね」
と言って誰かのことを褒める人がいる。
わたしは、そんな言葉を聞く度に思うことがある。
なんて冷たいことを言うのだ、と。
職場の先輩Nさんは、優秀な人である。
仕事においては、何を任されてもソツなくこなし、無駄がなく、周りへのフォローもスマート。
私生活においても、愛妻家で子煩悩で料理上手。
見た目も爽やかで人当たりがよく、誰もが認めるスンバラシイ人である。
「Nさんって何でもできて、本当に完璧な人だよね」
そう言って、職場の同僚たちはNさんを称賛した。
Nさんがスンバラシイ人であることに、わたしも異論はない。
Nさんが夫だったら幸せだろうなあと思うし、自分に子どもが産まれたら、Nさんのように育ってほしいとさえ思う。
だがどんなに周りが素晴らしいと思う人であっても、そう評価されている本人が、
「自分は欠点など一つもなく、完璧超人だ!」
と心から思っている場合なんてあるだろうか。
もちろん、周りから自分の良い部分を評価してもらえたら嬉しい。
だがどんな人でも、表には出さないコンプレックスや弱点を抱えて生きているものだ。
良い部分だけ見て、完璧なイメージを作り上げられると、息苦しいだろう。
「そんな素晴らしい人間じゃないのにな……」
と思っていても、欠点をみせられない。弱味をさらけ出せない。
周りが期待する自分でいなければいけないような気がしてくる。
また自分に悩み事や助けてほしいことがあるとき、自分のことを
「完璧だ!」
と評価してくれている人に頼れるだろうか。格好悪い自分など見せられるだろうか。
完璧であることは、窮屈でもあると思うのだ。
だから誰かを
「完璧だ!」
などと評価するのは、その人良い部分しか見ようとせず、突き放していることだとも思うのだ。
周りから褒め称えられているNさんの顔から、得意気で嬉しそうな感情は読み取れない。
いつも困ったように笑って、居心地の悪そうな顔をしている。
周りの人間が、Nさんのイメージのみで造り上げた完璧キャラを押し付けているように、わたしには見えた。
ある日の昼休み、わたしは会社の電子レンジでお弁当を温めていた。
そこへNさんが、自分のお弁当を温めにやってきた。
わたしは「今だ!」と思い、ずっと気になっていたことをNさんに尋ねてみた。
「Nさんって奥さんから怒られること、あるんですか?」
Nさんは突然の質問に不意をつかれたようだが、
「あるある。お酒飲み過ぎたときとかね」
とすぐに教えてくれた。
「最近も飲み過ぎて、起きたら駅のベンチにいたんだ。終電もとっくに終わっている時間でね。妻に電話したら、夜中に帰ってきて起こされるのが嫌だから今日は帰ってくるなって怒られちゃった。そういうときは、漫画喫茶で夜を明かすんだ。朝になったら駅前の銭湯にいく。あそこ早朝から空いてるからオススメなんだよね。それでコンビニで買ったYシャツを着て、何食わぬ顔で出社して。今だに大学生みたいな失敗するんだよね」
と、なかなかワイルドなエピソードを、爽やかに語ってくれた。
Nさんにそんな一面があるなんて……とわたしは大変驚いた。
「仕事中のNさんのイメージにだまされたー!」
とわたしが言うと、
「僕はそんな良い人間ではないね」
と言って笑っていた。自分で自分のイメージを壊したのがおかしいかのように、ずっと笑っていた。
ダメな自分を語るNさんは、なんだかとても楽しそうだった。
完璧だと評されているNさんにも、ダメな部分があるのだ。
でも欠点があるのは、悪いことばかりでもないなと思った。
人は誰でも何かしらの欠点があるし、欠点の中にその人らしさも詰まっている。
人に誇れるようなことではないかもしれないけれど、なんだかおもしろかったり、親近感がわいたりする。
欠点は魅力でもあると思うのだ。
完璧で隙のないNさんより、酔い潰れて終電を逃すNさんの方が、わたしは素敵だと思った。なんでもできるNさんはすごいが、ときにはダメな部分もあるNさんの方が、仲良くなれそうだ。
身近な人ほど、親しくなりたい人ほど、表面的な良い部分だけでなく、欠点を見つけてみるのも良いのではないだろうか。
欠点を見つけて馬鹿にするとか、少しでも自分が優位に立つとか、そういうことではない。
欠点も理解して、受け入れてこそ、もっと仲良くなれると思う。
欠点をさらけ出せてこそ、もっと深い関係が築けると思う。
欠点を見つけることが、ときには相手を解放することになるかもしれない。
そんな粗探しがあってもいいと、わたしは思う。
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