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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 
記事:外村省吾(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
旅。
 
日常とは違う環境で何かを目で感じる。耳で感じる。肌で感じる。
日常とは違う五感の使い方をする事で心が何かを感じる。
 
旅は心の鮮度を取り戻したり、鮮度を保つリハビリだと思う。
 
様々な経験や考え方を与えてくれる機会であり、心を豊かにしてくれる。
 
今までで一番印象に残った旅がある。
今なら笑って話せるけれど生死を掛けた三日間のリハビリ。
 
海外に一人で行くことに憧れていた。
 
海外留学やバックパック、一度はしてみたいと思った。
たまたま、回りにそういう体験をした人が多かったから尚更憧れた。
 
学生の頃、授業で1週間韓国へ行ったり
社員研修で台湾へ行くことはあったけど
一人で行くことは今までなかった。
 
休みが取れたら行こう。
回りの誰も行っていなくて福岡から直行で行けるベトナムとかいいかも。
 
とにかく、一人で海外に旅に行ってみたいだけだ。
 
そして、社会人2年目の頃、その時が来た。
 
忙しい仕事の合間にベトナム行きの飛行機やホテルを手配。
 
5日間の休みが出来たので二泊三日の旅程を組んだ。
行きのみは成田経由。
出発当日、まさかの人身事故で電車が遅れる。
別ルートでバタバタと福岡空港へ。
 
福岡ではお金が下ろせなかったので
東京でお金を下ろすことになった。
 
……なんとなく、嫌な予感がしてきた。
 
いつもお金を下ろす時は福岡の銀行で、通帳を利用している。
 
財布を紛失した事があり、ATMカードは利用出来ないようにしていた。
通帳があるから普段の暮らしでも困ることは少なかった。
 
東京でも同じように通帳を入れて利用してみる。
 
……下ろせない。
カードも入れないと下ろせないらしい。
 
……そんな馬鹿な事があってたまるかと、
いろんなATMを試すがどこも同じ。
 
他の口座にもお金が入っていない。
月末に入ってくる給料を振り分ける事もまだ出来ていなかった。
 
頭が真っ白になった。
 
手持ちのお金だけだと、ベトナムのノイバイ空港から宿泊先のハノイ市内までタクシーで往復出来るぐらい。
 
つまり、お金無しでの二泊三日の旅。
 
カードを発行してれば、
他の口座にお金を移しておけば、
もう少しだけ余裕を見て早く出てたら……
 
自分が不甲斐なく、情けなくどうしようもなくなっていた。
 
どうしよう。引き返す事にしようか。
また、来年行こうか。
 
行ったとしても何も出来ない。
 
ホテルは幸い朝食付き。
飛行機も幸い機内食付き。
 
一日一食でも実際頑張れるかもしれない。
 
……ほんとに大丈夫か?
 
なんて事を思っていた頃には換金も済ませて
機内に乗り込んでシートベルトをしていた。
 
今まで味わった事のないこの感覚に身を任せて。
さっきまでの自分への情けなさや苛立ちは一旦、棚に置いて。
 
旅に出た。
 
機内食で出た苦手なひよこ豆を味わう。
このボロボロする食感が苦手だけど、ここで食べてないとホントにヤバイと思ったから、苦手とか嫌いだなんて言ってる暇はなかった。
 
食事って大切だなと思いながら。
 
二泊三日、毎日気を張っていた。
近づいてくるバイクタクシーや
無理やり店に引き込もうとする人達を掻い潜って
興味がある街を散策する。
 
寺院や教会等はお金が無くても見学が出来た。
お腹も空いて喉も乾いているけど、妙に冴えている。
 
生きなきゃ。せっかくだから少しでも何か感じよう。
 
お腹が空いているから嗅覚が普段より効いている。
漫画みたいだけど、匂いの元が分かる。
なんとなく、この人は怪しい人かも、この先は危ないと感じる。
感覚が鋭くなってきている。
 
安心で安全な環境にいた頃とは違う。
不安定な環境の中で精一杯バランスを保とうとしている自分が分かった。
 
心から生きていることを感じた。
 
修行のような旅を終えて、空港で帰りの飛行機を待つ。
空港で冷水機を見つけた時は、磁石のように強く引き寄せられた。
夜中なので人は少なく、独り占めした。
 
水が飲めるって当たり前だと思っていた。
どれだけ幸せな事なんだろう。
 
帰りの飛行機は福岡へ直行。
やっと帰れる。安心で安全な環境へ。
出てきた機内食の中にまた、苦手なひよこ豆が使われていた。
 
行きの機内では、生死がかかっていたからなのか苦手でも食べていたが
帰りは食べずに、容器の端に器用に寄せていた。
 
寄せ終わった容器を見た時、暗い気持ちになった。
 
「これでいいのだろうか……」
 
なんて考えていた時には係の人が素早く片付けてしまった。
 
ただの好き嫌いではない気がした。
何で帰りは食べなかったのだろう?
 
きっと、日常に帰れる安心感からだと思った。
 
心はビニールハウスの中で育つイチゴだ。
安心な暮らしに飼い慣らされている心。
 
安心で安全な環境に疑いを持つこともなく過ごしている。
 
確約されているとは限らないのに。
 
それは気を付けないとすぐに腐ってしまう。
 
疑いを持たずにいると心は腐ってしまう気がする。
 
今の暮らしを当たり前としすぎていないか?
 
二泊三日の経験だけでは、心はすぐ鮮度を取り戻せなかった。
けれど、機内食が警鐘を鳴らしてくれた。
 
苦手なモノを残すなという事ではなく、
当たり前に食事が出てくる事に本当に何か感じていたのだろうか?
 
日常を感じる為に非日常を感じる旅だけじゃなく、
日常をもう一度見つめ直す為に、日常を注意深く旅する事も必要だと思う。
 
むしろ、その方が難しい事だが大事な気がする。
 
気を付けないと心はすぐに腐り始めるから。
心の鮮度を保つ為に今日もリハビリを続けていく。
 
*** この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。 http://tenro-in.com/zemi/66768

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2019-01-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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