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売れるテレアポのテクニック


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:甲斐純子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
23歳の頃勤めていた、看板の会社の話だ。
その会社は、主に個人病院などの看板を作っており、社長、営業3名、事務の女性、デザイナーの私、の計6人の社員のほか、女性のテレアポさんが2名所属していた。テレアポさんは出社はせず、自宅で自分の空き時間に病院の電話番号リストに順番に電話し、院長先生とのアポを取るのである。アポがとれると会社に連絡があり営業に引き継がれる。
テレアポさんからの引き継ぎの電話は事務の女性が取っていたのだが、様子をみていると、2名のテレアポさんのうち1人からはよくアポがとれましたと電話がかかってきていて、もう1人のテレアポさんからはアポがとれたという電話はあまりないようだった。
 
テレアポさんとは普段は顔をあわせることはないのだが、私が入社したのが12月だったため、入社のお祝いと会社の忘年会が一緒に行われ、そこではじめてテレアポさんと顔を合わせた。2人とも30代の女性で、子育てや家事の合間の、自分の空き時間に仕事がしたいので自宅でのテレアポをしているとのことだった。一人は、ハキハキした知的美人。見た目は原田知世さんみたいな感じだろうか。ベージュのニットのアンサンブルを着ていて、とても上品。忘年会中も、社長、営業さん、そして事務の女性や私とも、均等にきちんと話をする気遣いの人なのである。そしてもう一人は、可愛いタイプの女性で、レースがたくさん施された、女性らしい服を着ていた。よく言えばホンワカ天然、悪く言えば、脳内お花畑系。お酒も進んで来るとかわいいボケを連発するのだが、大丈夫ですか……と何かと心配になってしまうタイプの女性なのである。私は、なるほど〜そりゃーアポとれる数に差はあるわなーと納得しつつ、とはいってもお二人ともとっても良い方で、楽しく忘年会は終わったのである。
 
そして年が明け、会社も通常営業が始まり、またぼちぼち、「アポがとれましたのでお願いしますー!」とテレアポさんからの電話がかかって来るようになった。
ところが、忘年会に出席した私は、そこで衝撃の事実に気づいてしまったのである。
なんとアポがとれたとよく電話をかけてくる方のテレアポさんは、私の予想に反して、ホンワカタイプのテレアポさんのほうだったのである!
 
ええっ!
どうやって売り込んでるんだ?!
テレアポのときはキャラが変わるのか⁈
いったいどんな話し方してるんだ⁈
その現場が見たい!
 
そんな私の願いが叶う日がやってきた。
ホンワカのテレアポさんが、会社に新しい病院のリストをもらいにやってきたのだが、その場にいた営業さんに頼まれて、会社で一件、テレアポの仕事をしていくことになったのである。
 
院長先生に直で電話がつながったようで、軽く看板の会社ということを自己紹介したあとは
「ありがとうございます。看板とか、どうですかねー? 考えられたりとか? ウフフフ。そうなんですー。ウフフフ。えっと?? 私がよくわからなくてですねー。営業にかわります!ありがとうございますぅ〜!」
と、ものの数十秒でアポがとれてしまった……。
何も売り込んでないような……。
しかも看板についてはまったくわからないですけど、とりあえずかけてます感満載なのである。
こんなんでイイのか? こんなんで?
いや、たまたまそこの院長先生が、看板がまさに今必要だったとか、そういうことだろう、ホントにたまたま……。
 
ところが、それからも、ホンワカさんの快進撃は止まらないのである。
ここまで続くと、たまたま運が良かったとか、それだけではなさそうである。
謎は深まるばかりだが、そのまま過ぎる日々。
 
そんなある日のことだ。いつもようにホンワカさんの引き継ぎ電話を受けていた事務の女性が、だんだんイライラとした口調になっていき、「私じゃわからないので、あとで営業から電話させますねー」と引きつった笑顔で言って電話を切った後、ついにブチ切れたのである。
「◯◯さんて、いっつも言いようことが要領を得ないっていうか、よくわからんちゃんねーー!」そして、たまたま社内にいた営業さんに「ちょっと彼女に直接話聞いてもらえますか?」とそのまま依頼。あはは、と苦笑いしながらテレアポさんに電話をかける営業さん。
 
「アポがとれた病院の話ですけど、もう一度確認させてもらってもいいですか?」と切り出した営業さん。困っているのかと思いきや、こういう話ですか? こんな感じでしたか? こんな提案を持っていったらいいかな? と、テキパキとテレアポさんの言いたかったことの要点を聞き出し、自分の考えでいいのかどうか確認し、最後「わかりました、ありがとうございます〜。」と電話を切ったときの営業さんの嬉々とした表情といったら……。
 
あれれ?
なんだこのイキイキ感?
 
そして私は悟った。
 
これは追わせる女の、恋愛テクなのだ。
追ってはいけない。追わせるのだ。
追わせるというか、追わせてあげてるのだ。
ターゲットはチラっと見せるだけ。実はハンター精神を沸々と蘇らせる高等テクなのだ。
 
アポがとれたという病院の院長先生は、
なにも売り込まれても、説得されてもいない。
看板というキーワードだけフワフワ舞っている中で、
看板が必要かもしれないから話を聞こう! と、きっと自分で思ったのである。
私たちは、買わされたくない。説得なんてされたくないのである。
自分の欲しいものを、自分で「これだー!」と買いたいのである。
 
そして営業さんも、的を得ないホンワカさんから、なんとか聞き出そう、理解しようと追いかけるうちに、だんだんと、おお!わかった! それならこうだ! やったるでー! と段々とスイッチが入って言ったのである。
 
ホンワカさん、何もしてないようで、一番尊いことをしているのかもしれない。
あんた凄いよ……。
 
それから20年近くたち、この高等テクは、いろんなところで使えることを実感している。
恋愛はもちろん、家族にだって、仕事にだって、そして子育てだって。
 
ちなみに、「言いようことが要領を得ない!」とブチきれていた事務の女性、その後転職して、化粧品のサンプルを送らせてください! というテレアポの仕事に転職したのだが、なんと、社内でアポ数トップになり、ハワイに連れて言ってもらった〜とのこと。どんな気持ちで仕事をしているのか聞いたところ、「タダのサンプル送るだけなんやけんさー、貰えばいいやん? いりませんっていったら、あーもったいないねって思うくらい。別にひとつでも送ってやろう! とか全く思ってないよー。」とのこと。ホンワカさんとはちょっと違うタイプだが、でも、売り込もうなんて全く思ってない、というところは一緒なのだろう。
 
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2019-01-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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