メディアグランプリ

パティシエがカフェ始めたらいつの間にか小学生の学習塾になって笑える


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記事:ちょこめる(ライティング・ゼミ1DAY講座)

私は自分をパティシエだと思っている。師匠は代官山イルプルシュルラセーヌ弓田亨氏だ。ケーキのレシピから各種製法、味の構築理論、そして営業手法まで多くの事を彼から学んだのだから勝手に師匠だと思っているのだ。向こうは私のことなど全く覚えてないだろう。
いい加減な私もパティシエとしてそれなりのキャリアを歩んだが今ではシュークリームを作ることも全くない。あり難い事に会社をやらせて頂いてはいるが、業務内容はもっぱら企業の商品開発やあまり好きではないコンサルタントのような事を行っている。昔の同僚からは「楽に儲かっていいね、こっちは朝早くから夜遅くまで粉まみれだよ。」と嫌味を言われる始末だ。人の気も知らないで死んでしまえと思う。
半年前、不意にケーキ作りたい病にかかった私は半分やけくそでカフェを作った。客など来なくていい、自由に好きなケーキを作り自分の好きな本を置く、それだけのスペースである。
ヴァローナのカカオやエシレバター、天然の赤砂糖、バリアーニオイルこれでガトーショコラを作ったら材料費だけでウン千円、商品にしたら1台2万円以上で販売しなければ商売にならない。そんな3時のおやつを2時間かけて丁寧に焼き上げる。全くもって馬鹿な行いだ。自覚はしている。濃厚なショコラの香りが充満する。至福だ。これこそストレス発散。あぁやばい。お客さん来るなよ、来てしまったら自分の取り分が減るから。
そんな事を続けてもちろん店は大赤字。ストレス発散だから別にいいのだ。
10月のある日、こんな店に突然の転機が訪れる。お客様は近所の小学3年生の女の子だ。
ガトーショコラにはオレンジペコーがさっぱりして好きなんてお洒落さんで困る。
何故か週に3日は来る。そして私の本を読むのがお気に入りのようだ。実はこの本棚が今思えば曲者で絵本の「ぐりとぐら」からマルセルプルーストの「失われた時を求めて」まで美味しいそうな食べ物の描写のある本やフランス料理、お菓子の作り方、レシピ集など幼稚園児からプロまで楽しめるラインナップになっている。
そんな彼女が不意に言う。「読書感想文の宿題大嫌い!」
大嫌いと言われてもうちの常連様である。宿題をやらずにうちに来なくなっては困る。
しょうがないから暇だし一緒に宿題をやる事にする。教材はたくさんあるし私は昔から読書感想文が大好きなのだ。
少し昔話をするが、私の家庭は変わっていて本を読むなら夜更かししてもOKルールがあった。TVは駄目だが読書はOK、その影響で小学校低学年からファーブル昆虫記、シートン動物記、スッコケ3人組、高学年になると宗田理やユーゴーなどを読んだ事を覚えている。また、理由はわからないが図書館にあった読書感想文の書き方、小学生読書感想文優秀者全集などを好んで読んでいた。こんな根暗な小学校生活のおかげで読書感想文はいつも学校代表だったし現在では色々な資料を書類にまとめて行政や企業に提出する仕事が出来ているのかなとも思う。
話を戻すと彼女の宿題の課題は自由であったが、国語の教科書に出てくる物語文を課題に決めた。本人は嫌がったが教科書の文章は非常にわかり易く書かれており書き方や簡単なテクニックを教えやすいと思ったからだ。私がやったことは非常に単純で、読んだ後の素直な気持ちをくみ取り二人で話し合いながら思った事を箇条書きにし、カードに要点をまとめ最終的に1200字に書き上げた。少しのテクニックと簡単なエッセンスを加えて。あっという間の楽しい90分であった。
次の日驚く事がおきた。彼女の母親が挨拶に来たのだ。どうやら感動的な感想文だったらしい。学校の先生にも物凄く褒められたようだ。そりゃそうだろうと思いながらも彼女にも劇的な変化が起きた。褒められた事がよっぽど嬉しかったのか本を読んでは感想文を書く事を繰り返し挙句の果てに中学生の教科書にまで手を出し始めたのだ。
そんな事をしていると彼女の成績が物凄く伸びていた。そしていつからか彼女の友達も来るようになり、その友達も宿題のドリルをしてうちでケーキを食べるだけだったのが見よう見真似で読書感想文を書くようになった。すると不思議なことにその子の成績も伸びていった。
ふと気づくと変な噂が広まり、あそこに行くと勉強嫌いの子供が勉強するようになると言われ始めた。全くもって複雑な気持ちである。ストレス発散でのケーキ作りが仕事になってしまう。最近あのガトーショコラも全く食べていない。全て子供たちが食べてしまうのだ。挙句の果てには「OOでチョコレートケーキ食べたけど先生のほうが濃厚で美味しかったよ。」って。当然だ。材料に幾らかかっていると思っているのだ。
そして改めて言うが私は先生ではない。私はパティシエである。
しかし、まぁ今となってはどうでもいい事である。いつからか子供たちの笑顔に癒され彼女達にストレス発散のお手伝いをして貰っていると気づいてしまったから。ケーキ作りでストレス発散は出来ていないがこれはこれで悪くない。そう思うようにしている。

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2019-01-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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