女が化粧をする理由
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:月山ギコ(ライティング・ゼミ日曜コース)
「だって、男に媚びてるみたいじゃないですか」
昔、いつもすっぴんの新卒の女の子に、「営業なんだから、ちゃんと化粧すれば」と言ったらこんな返事が返ってきた。そうじゃないのにな、と思ったけど、気持ちはわかる。私も若い頃、そうだったから。
化粧=メイクは男のためにするもの。そう思っている人は多いだろうし、実際に女性は“モテ”のためにメイクをすることも多い。しかし実はそれ以上に、女が絶対にメイクをしなくてはいけない理由があるのだ。
多くの女の子が早ければ中学、高校から少しずつメイクに興味を持ち始めるものだが、私は大学生になっても、ほとんどメイクをすることがなかった。化粧をすることが、鏡を見て自分の顔を見ることが、ただただ恥ずかしかった。
最初のきっかけは、女性誌の編集プロダクションに入社したことだった。そこで私は、大手出版社の美容の雑誌を担当することになる。コスメの新商品の紹介、ヘア&メイクアップアーティストの特集や、女優のインタビューから健康情報まで、毎号「美しくなるため」の情報がぎっしり詰まった専門誌だ。
百貨店に軒を連ねる有名コスメブランドのPRの方々は、大変に律儀で熱心な方ばかりなので、編集アシスタントの私にも、ご丁寧に毎シーズン新商品を送ってくださるのだ。
こうしてシーズンごとに色々なブランドのコスメが会社の私のデスクに並べられることになった。そこで初めて、“化粧をしなくてはならない”状況になった。
いくらアシスタントとはいえ、美容雑誌の編集をしている人間がすっぴんで仕事をしていたら、プロ意識がないと思われても仕方がないからだ。
洗顔後、化粧水や美容液などで肌を整えたら、ベース(化粧下地)を塗り、ファンデーションを塗り、アイブロウ(眉)、アイシャドウ、チーク(頬紅)、リップで仕上げる。とにかくやり方は全部その美容雑誌に写真付きで懇切丁寧に載っているのだから、ありがたいことだった。
顔が出来上がってくると、それまで無頓着だったファッションもどうにかしたくなってくる。
幸いその編集プロダクションではファッション誌も担当していて、毎月読者が選んだコーディネートTOP3を見本誌から探し、キャプション(価格やブランド名など、掲載商品の文字情報)をweb用にまとめる、という仕事があったので、毎月毎月100を超える全ページのファッションコーディネートをくまなく見ることになり、イヤでも目が肥えてくる。
雑誌に載っているブランドの服はさすがに高くて買えないが、この色とこの色を合わせると全体のバランスがよいとか、このコーディネートが好みだ、とかが分かってくる。するとその視点で服を買うようになり、毎日の組み合わせを考えるのも楽しくなってくる。そうして少しずつ、私の外見は変わっていった。
どれくらい変わったかというと、数年ぶりに会った大学の同級生に、開口一番、
「何、整形したの?」
と言われたのだ。もちろん整形はしておりません。
意志の弱そうなぼやっとしていた顔が、メイクやファッションに慣れてくると少しずつ顔つきがしっかりしてくるのが自分でもわかった。顔そのものは変わっていないのに、不思議と整ってくるのだ。
最初に気づいた変化は、当時毎日のように通っていたコンビニの男性店員の接客である。
急に優しくなったのだ。
初めは気のせいだと思った。でもやっぱり違う。
前よりちょっとだけ笑顔になって、対応がソフトになった。お釣り渡すときもなぜか左手が添えられている。まるで私が違う人間のような扱いなのだ。
「なにこれ、ノーストレスじゃん!」
男にちやほやされて嬉しい、というのとはちょっと違う。ただただ快適なのだ。スーッと心に風が吹くような感覚。
今までメイクって男に媚びていてダサいって思っていたけど、ぜんぜん違った。自分が自分として社会で生きていくためのパワードスーツになるものだったんだ……!
ひょぇぇぇぇぇー!!
私、この10年くらい色々なことを損していたかもしれない!! なんという失態! なんという無知!
でも今気づけてよかった。本当によかった。
その日から、私のメイク人生は始まった。
誤解のないように言っておくが、メイクをしなくてもそうなれる人だっている。すっぴんでも芯の通った、美しい生き方ができる人だっている。
ただ、私には何らかのパワードスーツが必要だった。それが私にとってはメイクだったのだ。
不思議なことに、毎日メイクをするようになってから、少しずつ人生が変わっていった。転職を繰り返して自信を失っていたけれど、色々な偶然が重なって、「これだ」と思える仕事に出合えた。
男なんか大嫌いだったのに、酒を1滴も飲まなくても話が尽きない、最良のパートナーにも出会えた。
遅まきながら、やっとスタート地点に立てたような気持ち。社会と繋がれた気持ち。
メイクとファッションはただの外見だ。
でもその外見が中身に多大な影響を与える。
そしてその外見と中身がリンクしたとき、女は最強になるのだ。
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