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愛されるお姑になる秘訣


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:松本 陽子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「あら、狭いわね」
私がお姑さんに最初にイラッとした言葉だ。
当時、結婚して住まいとして購入したマンションに、お姑さんを招待したときのこと。家具や照明などの設置も落ち着いて、張り切ってお姑さんを招いた。
そして玄関に入ってすぐの、ひとこと目がこれだ。
私は「なんて失礼な」と、しばらくムカムカ過ごした。
確かに、これから家族をもつであろう夫婦には少し狭目の部屋だったのかもしれない。だが、こちらにだって事情があるわけで。
どんな状況でも、新居に招待された身として、ひとこと目に「狭いわね」は失礼だと思った。
 
だが、今思うとこの自由さがお姑さんの魅力でもあったのだ。
 
その後、そんなお姑さんから週に1、2回ほど電話がかかってきて、たわいもない話をしたりしていた。
産んだり育ててくれたお母さんでもないのに、夫と結婚したがために急に「おかあさん」と呼ばなければいけなくなった女性。
 
電話で聞くその「おかあさん」からの話は、私の実母とは全然違うものだった。
話によると、週の大半、夕食は外食していること。
子ども(私からみて夫)を育てるときは、自分の母親(夫からみて祖母)が元気だったので育児を任せて、自分は社交ダンスにはまっていたこと。
家が古い、また家族のことをいつも愚痴っていること。
あまり家事は得意ではないようで、ご自宅へ行くと買ったものや郵便物など物が山積みになっていた。
 
当時の私は、知れば知るほど、こんなお姑が嫌だと思った。
母親という立場なのにこの自分勝手さが嫌だった。
 
私の実の母は料理も掃除もしっかりやってきたバリバリの専業主婦。
家もいつもキチンと整理されていて、愚痴も子供には言わなかった。外食は健康面で心配だからと栄養バランスを大事に料理をしてくれていた。
私はもちろん、自分の母親のような「おかあさん」になりたかったし、なるべきだろうと思っていた。
 
結婚してそんな母とは対照的な「おかあさん」ができたわけだから、合うはずがない。私の理想とする「おかあさん」とはかけ離れていた。世間一般で言う嫁・姑問題のように、たまに姑の言動で揉め事もおきていた。
 
そんなお姑さんとの関係も、私が仕事や出産やらで忙しく、電話に出る回数も少なくなり薄くなっていた。
 
 
 
ある日、旦那と育児の些細なことから揉め事になった。
お互い溜まっていたストレスが大きくなり離婚の話もでるくらい大きな喧嘩になった。数か月もの間、しゃべれば喧嘩になるので、ほぼしゃべらないで共働きの忙しい生活をやり過ごしていた。
そんな時たまたまお姑さんからかかってきた電話に、私は一部始終を聞いてもらっていた。そして、子供がそこそこ成長したら、こんな夫とは離婚するつもりだと泣きながら訴えていた。
自分の息子と離婚したいという嫁の私にたいして、お姑さんの意見はこうだ。
「そうよ、そんなわからずや、離婚しちゃいなさい。それは〇〇(夫)が悪いわよ。いやね」
さすが、と思った。自分の立場がどうとかではなく悪いものは悪い。
これがお姑さんのスタンスだ。
私は、夫のお母さんにではなく、ひとりの頼れる年上の女性に夫の相談をしているようだった。
その後夫婦関係も落ち着き、そんな話は自然に消えていったのだが。
 
また、別の時のこと。
塾でそこそこ成績のよかった小4の息子に、まわりの大人たちが中学校受験を勧めてきた。受験しないともったいないだの、公立ではかわいそうだの。
私は東京の受験事情などわからない。でも、息子に名門校の受験を勧めてくれる大人たちの口車にのって、そんな有名な学校へいけるなら私も鼻が高いし、息子にもいいかもと、受験コースに息子を入れようとした。
そのことをお姑さんに相談すると、「まだ受験なんていいわよ。あの子(息子)は頭がいいから、やるときにはやるわよ。公立で充分。まだ子供なんだから自由にやりたい事やらせてあげれば?」という意見だった。
孫が名門の中学校を受かると言われても全く飛びつかない、揺れないおかあさんがかっこいいと思った。そして、今の友達やサッカーに夢中な息子のことはあまり考えずに名誉のため飛びつきそうだった自分が恥ずかしいと思った。
 
お姑さんは、変な見栄などなく無理をしない女性だなのだ。
自分の思うように生きている。自分の思うことを言う。
娘となった私に「部屋が狭い」など思ったことを気兼ねなく言う。だから私も言いたい事を気兼ねなく言えるのだ。
お姑さんは無理をしない。外食がおいしくて楽なら外食する。
預けられる人がいれは子供は預ける。
 
それは家のことを頑張ってきた私の母と対照的に見えるが、それぞれが思うようにその場の環境に合わせて生きているだけなのかもしれない。
 
自分の母とは、人間も環境もは同じではない。別の人なのだ。
同じではないからダメなのではなくて、同じではないからいい、新たなことを教えてもらえているのだと思う。
 
いざというときには、自分の名誉など抜きに公平な意見を言える。
無理をしていないし、人に無理を言わない。
 
昭和に流行った「フーテンの寅さん」ってきっとこんな感じだったのかと思う。
 
そんなお姑さんからの電話を最近楽しみにしている自分がいる。
子供たちもそんなばぁばが大好きだ。
 
自分勝手、気の向くまま。
だけど嘘がない。憎めない。
魅力のある女性。
私も、将来そんな愛されるお姑さんになりたい。
 
 

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2019-01-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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