メディアグランプリ

偽装工作を繰り返して来たある担当者の告白


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:都倉日司(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「妻よ、すまん。これまで何度も俺は嘘をついてきた。正直に謝る。だからもうしばらく俺は嘘をつきます」
 
「やばい」ここ半年間、毎朝体重計に秒殺されている。
朝起きてトイレに入り、服を脱いで体重計に乗っている。そして体重の後に表示される体脂肪や体内年齢など見るまでもなく速攻で体重計という名のリングを降りている。体重が表示されること1秒。体重は毎朝記録更新中である。もし私がプロボクサーであれば毎回契約体重をオーバーしているためプロボクサーのライセンスをはく奪されプロ失格の烙印を押されているに違いない。「今日は体重どうだった?」とトレーナーである妻はことあるごとに聞くがもちろんサバを読んで過小申請をしている。にも関わらずその偽装された数字でさえ妻は「おかしいわね。お弁当のごはんの量も減らしているのにそんな太るようなごはんは作ってないのにね」と私のお腹についた肉を見ながら首をかしげている。偽装した数字でさえここ1年間で5kg以上増えているから本当の数字を妻が知れば夫婦のライセンスもはく奪されるかもしれない。それだけは避けたい。なんとかごまかしがきくうちになんとかしなければ。
夜のランニングから帰って来た私に対する妻の「今日は何キロ走ったの?」と質問に対しては「6キロぐらいかな」とこちらは過大申請をしている。実際はその半分ぐらいの距離を歩いて最後は近所の神社で「どうか痩せますように」とお願いをして1時間ほど時間を浪費させているだけというのは神様と私の内緒であり、トレーナーの妻に正直に言う事はありません。体重は過小申請、走行距離は過大申請。うそをうそで塗り固められた私のお腹のお肉。なんとも憎たらしい。
例えばこのような偽装工作が一般企業で行われていればたいがいが社内の匿名の正義感溢れる内密者によって世間にばらされる事になる。ただしこのような偽装工作が世の中に出るまでには社内でまずは担当者個人レベルで、上司部下レベルで、担当部門レベルでなどそれぞれの階層でその偽装をリカバリーしようとするために時間が費やされ偽装が繰り返される。中にはその責任を取って自らの命を落とすものも出てきたりして「もっと早く言っていればよかったのに」と後になって思う事も多いはず。とは言っても妻に体重をごまかす当事者である私は、事は穏便に済ませたいという心理状態になるので「もっと早く言えば楽になっていたのにね」という言葉にひやひやしながら偽装工作を繰り返す日々が今年も続くだろうと迎えた新年でした。
 
そんな偽装工作の日々に明かりがさしたのは毎晩の神頼みの御かげでしょうか? いま体全体に覆う心地よい筋肉痛。「3回も来れば慣れますよ。まずは3か月頑張りましょう」と無料体験を終え新たに雇ったトレーナーは以前偽装工作の謝罪会見で見たささやき女将のように私にささやきました。この筋肉痛はこれまで偽装工作を繰り返してきた私にとっては目に見える形で出て来た改善の兆しでした。新年早々偽装工作に耐え切れず私は会社の近くの前から気になっていた自衛隊式サーキットトレーニングのジムに行くことになりました。もちろん妻には内緒で。当初私はお金を払ってジムに行くのには抵抗がありました。というのもほんの1年前までは毎月に100キロメートル以上走り体重も良い感じにコントロールできていたからです。だから偽装工作する必要もなくコストをかけず自分の意志で体型をキープしていたのです。ただここ数か月このお腹周りがコントロールできなくなりこのままいけばお腹が出たかっこ悪いオジサンまっしぐら。ダイエットに効くお茶があるらしいと聞いて飲んでみても効果無し。サプリメントを飲んでも効果無し。もう限界です。お金はたまりませんがお腹のお肉と体重はたまるばかり。このお腹のお肉を見ると妻以外の誰かに料理してもらうしかありません。助けてもらうしかありません。何事も自分一人でやるほうが格好いいかもしれませんがもっと格好いいのは引き締まった体、肉体、ボディ、お肉のはず……
幸せな事に私にはこのお肉を流通させる市場はわずかではありますが残されています。妻というトレーナーいや今や消費者になった妻に損害賠償を払うような被害はまだ与えておりません。苦情、返品が出る前に何とかしたい。嘘、偽装を繰り返してきたこのお腹のお肉を妻にばれずに燃やしてしまいたい。3か月後には毎朝、体重計と言う名のリングに立って勝利のゴングと勝利のコールを聞きながら妻の名を絶叫している自分を今、夢見ています。妻に内緒でジム通い。偽装工作、もうしばらく続けることにします。
 
 

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2019-01-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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