メディアグランプリ

熱い講演会の傍らで優しいメッセージが送られた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:山口祥平(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
普段から生活している中で、誰しもがコミュニケーションの手段として使っている「言葉」。
言葉によってお互いが分かり合えることもあるし、元気になったり心が落ち着くこともある。
あるいは勇気を与えたり感動したりすることもあれば人生を変えることもある。
それとは逆に、時には恐怖心を覚えたり傷つけられるような悲しいこともあるだろう。
いつも様々な場面で発せられる何気ない言葉が、届いた相手にどのような影響を与えるか考えたことはあるだろうか。
 
先日、2歳6か月の娘と2人で福岡市内にあるホテルに、ある講演家の講演を聴きに行った。
私の妻は講演のボランティアスタッフとしての参加だったので、娘と私だけが一緒で妻は別の場所にいるということになっていた。
しかも、ボランティアスタッフの妻は夕方に始まる講演の準備からの参加となっていたため、お昼から別行動をとっていた。
しかし、それが娘にとっては辛いことになるということはわかっていた。
なぜなら娘は保育園に行っているとき以外はほとんど妻と一緒にいるし、常に抱っこを求めるくらい妻のことが大好きなのである。
それとは逆に、父である私のことはイヤイヤであることが多く、腹の底から出すくらいの大きな声でイヤだと大絶叫されることもある。
まれに、菓子を食べることを許可したり、やりたいことを許可した際に「お父さんカッコイイじゃん!」と、ごまをすることを2歳で覚えたのかと思うくらいにご機嫌を取るような発言をしてくることがあるが、私のことはほぼ拒否なのだ。
そんな娘が妻と少しでも一緒にいられなくなり私と2人だけになるのは嫌で嫌でたまらないことである。
 
思っていた通り、妻と離れた時に娘は大声で泣いた。
「ママが良い! ママが良い!」と何度も叫び妻を求めたが、私は心を鬼にしつつ「お母さんは今からお仕事だからまた後で会えるよ」と励ました。
それでもしばらくは泣き止まなかったが、娘の大好きなバスに乗ったり街を歩いたりして気を紛らわし、私と2人だけでいることに少しずつ慣れてきてご機嫌になっていたようだ。
このままずっと機嫌が良い状態であれば良いなと思いつつ、開場が近い時間になったので会場に向かった。
会場では最終準備が行われており、非常に慌ただしい雰囲気の中で本番前の緊張感が漂っていたようで、娘も何事かと現場をひたすら見つめていた。
開場の時間となり、前方の方に並んでいた私たちは最前列に座り開演時間を待った。
もしかしたら講演中に娘がぐずってしまうかもしれないので、すぐに会場から出られるように後方の席に座った方が良いだろうかとも考えた。
しかし、大人しく座って聞いてくれるかもしれないというちょっとした期待もあり最前列で講演を聴くことにした。
今回の講演家は、様々な業種の会社の経営者や社員に向けて各地で講演会をしたり、Youtubeでも多数の講演動画がアップされており、炎の講演家とも呼ばれるくらい熱いメッセージを込めた講演をする人だ。
その影響もあるのか、今回の講演に参加しているボランティアスタッフは熱い人ばかりであり、開場時には観客を大きな歓声と拍手で迎えハイタッチを求める人までいた。会場はまるで新しいiPhoneが発売された時のアップルストアなのかと思うくらいの熱気に包まれていた。
会場の熱気は高いまま、いよいよ開演の時間になった。
照明が全て落とされ前方のステージ上のスクリーンに今回の講演のテーマや講演家の紹介映像が映し出された後、司会者によって講演家がステージ上に招かれた。
ミュージシャンのライブが行われているかのように最初から盛り上がりが凄かった。
その盛り上がりに圧倒されたのか、娘も聴き入るように目の前で熱く話す講演家を見つめていた。
 
講演開始から1時間過ぎたくらいの時に、不安に思っていたことが発生した。
娘がぐずり始めたのである。
「ママが良い! ママのところに行く!」と言っている。
私は何とかして娘が落ち着くように何度も語りかけてみたが落ち着く気配はない。
むしろ、ぐずりはひどくなっていった。
このままずっと座っていても落ち着くことはないだろうと思い、他の観客にできるだけ邪魔にならないように娘を抱えて会場後方の出口付近に向かった。
その場所で娘を抱えて落ち着かせようとしてもなかなか難しかった。
全然落ち着かせることができない焦りと他の観客に迷惑をかけてしまっているのではないかと不安になっていた。
一旦会場から出て外であやした方がいいのではないかとも思い始めていた。
 
すると、1人のボランティアスタッフが近寄ってきた。
身長は私と変わらないくらいだが横幅が私の倍あるくらいに大きくて迫力があり、かなりの強面の50代近くのおじさんだった。
娘を落ち着かせることができずに不安になっていた時に、さらに不安が高まった。
もしかしたら、開場から出てくれと怒られるのではないかと冷や冷やしていた。
しかし、彼からかけられた言葉は思っていたものと全然違っていた。
 
「大丈夫、大丈夫。お子さん泣いても全然問題ないから」
 
肩をトントンと軽く叩き、諭すように優しく言ってくれた。
その瞬間、私の心は一気に晴れやかになった。今までの不安や焦りが一瞬にしてなくなったのだ。
まるで今まで元気がなかったて下を向いていた花が、きれいな水を与えられたことによって開き元気なった時のようだった。
枯れ果ててしまいそうでどうしようもできそうになかったのに、見る見るうちに生き返っていく。
きれいな水のような温かい言葉をかけてもらった私は、ぐずる娘を包み込むように優しく抱っこして後方で講演を聴いていた。
その時はもう私の不安や焦りは完全になくなっていた。
 
声をかけてくれた強面のおじさんは、何気なく言ってくれたのかもしれない。
でも、何気なく言ってくれた言葉でも私はとても心が落ち着いたし感動もした。
今まで、思っていても恥ずかしかったり面倒がったりで相手に伝えていない言葉がたくさんあった。
これからは、できるだけ素敵だと思ったことは隠さずに素敵だと伝え、困っている人がいたらそっと声をかけていこうと思う。
そしたら多くの場所で綺麗な花が咲くきっかけになるかもしれない。
 
 
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2019-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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