型とは、自由への切符である
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:カサゴ(ライティング・ゼミ 土曜コース)
茶道、華道、能などの古典芸能に傾倒している、美大出身の友達がいる。
しかも型にとても忠実なのである。
彼女は普段から、自分自身のスタイルを持っていて、服装や言動においても個性的だ。
美術肌の彼女には、その型に忠実なスタイルが、何か似つかわしくないなと感じ、ずっと興味を持っていた。
そこである日、その理由を聞いてみたところ、彼女からは、こんな答えが帰ってきた。
「努力して美大に入ったんだけど、入学した途端、基本もそこそこに、
「さあ、自由に創作してください」という校風で、途方に暮れたんだよね。
結局、何を作ったらいいか分かんなくて、今考えれば、全部ゴミ。地球に失礼した。」
ちなみに彼女曰く、美大でも、基礎からみっちりやる学校もあるらしく、フリースタイルは彼女の出身校の特徴だそうだ。
続いて、
「私の場合は、制約の中で表現する方が燃えるんだよね。ほら、制服を着ながら、いかに個性を出すかっていうような。
本当になんでもやっていい自由って苦痛。特に表現したいものもないし。
だから、自由表現は、私には合わなかった。」
と、説明してくれた。
学生時代のそんなトラウマがあってか、その反動によって、既述のような、型のある芸術に傾倒し始めたらしい。
自由表現で好き勝手をしても、立ち戻る軸がある事に安心感を覚えるそうだ。
それを聞いて、私は思った。
そりゃたまには、北斎や、利休や、世阿弥や、紫式部のような、オリジナリティ溢れる人材も出没するだろうが、ほとんどの日本人が、そうなんじゃないだろうか。
いや、ほとんどの人類が、そうなのではないかとすら思った。
つまり、最初は、お手本に忠実に、型を真似ることから入るのだが、習得するにつれ、オリジナリティを出していくというプロセスが必要ということである。
真似るというと、後ろ向きにも聞こえるが、先人達が到達したものを基に、わずか少しだけでも、異なる部分を上乗せする事ができたなら、芸術であれ、学問であれ、スポーツであれ、それはもう十分なのだと思う。
正しい模倣に、それぞれのオリジナルの何かが追加されることによって、どんな分野も発展してきているのではないか。
もちろん、真似るという点では、コピペ文化のように、人の努力にただ乗りする弊害もないとは言えないが、全体的に高度化された時代のオリジナリティというのは、それぐらい小さな一歩の積み重ねなのだろう。
逆に、あまりにもオリジナリティに溢れる発想は、ゴッホや、ガリレオの様に、最初は理解されにくいのかもしれない。
エーリッヒ・フロムの『自由からの逃走』によると、人は、ルールから解放され自由になると、また新しいルールを作り始めるようだ。
同じ失敗を繰り返さない様に知の蓄積をしようとする本能なのか、社会とはそういうものらしい。
心理学の調査研究で興味深いものを見つけた。
25歳から10歳刻みで、75歳までを調査対象とし、50年に渡り調査・蓄積されてきた年代別の能力テストの結果が載っていた。
この調査によると、現代の25歳の能力テストの結果は、50年前の25歳の結果を上回っている。
それは、教育環境の充実や、ITの普及をはじめとする、社会の発達により、当然の結果だろうと納得するが、興味深かったのは、世代間の結果比較である。
現代の65歳の能力テストの結果は、50年前の25歳の能力テストの結果とほぼ同じになるらしい。
どの調査年においても、能力は年をとるにつれて衰えているが、同じ年齢で見た場合、50年前の同年代と比較すると、どの年齢においても全体的に底上げされているのだ。
これは、人間が得てきた知識から、普遍的なものを取り出し、教科書やセオリーのような型として、後の世代に残してきたからこそ到達できた豊かな世界だと言える。
今までそれぞれが、同じような事を、別々に調べたり考えたりしてたどり着いた答えが、体系立て、型としてまとめられることによって、誰でもある段階までは、到達する事が簡単になっている。
それが先ほどの調査結果のように、社会全体の能力の底上げに繋がっているのだろう。
型のおかげで、私たちは、それぞれの分野の、現在における到達地点を知る事ができる。
現時点を知る事ができれば、そこから自分自身のオリジナリティを表現する事ができる。
その点で、型とは、表現の自由を得るための切符なのではないだろうか。
また型を使うことは、これまでの人が築いてきた知恵へのリスペクトでもある。
幸いなことに、私たちは、芸術や学問を始めるための切符を手に入れることができる。
そして更に、今を生きる私たちが、現代の社会において感じたことや、乗り越えたりした課題を、また新たな知識として型に定義する事ができる。
彼女との会話の中で、クリエイティビティの在り方が少し見えたような気がした。
*** この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。 http://tenro-in.com/zemi/66768
天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら
天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
【天狼院書店へのお問い合わせ】
【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。