旗振りおじさんの魔法の鏡
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:M.HIDEO(ライティングゼミ・土曜コース)
1月の寒さ厳しい季節。私は朝早く大通りの交差点に立っていた。
月1回まわってくる小学校の旗振り当番の日だからだ。
朝から北風にのって粉雪が舞っていた。
「こんな日に雪なんて。旗振りなんてやりたくないな~」
1年前の私だったら間違いなくこんな事を思っていただろう。
魔法の鏡を見つけるまでは。
1年前の1月。この日も粉雪が舞い散る朝だった。
旗を持つ手が雪に濡れブルブル震えた。
「こんな日に雪なんて。旗振りなんてやりたくないな~」そんな事を思いながら子供達が来るのを待った。
私が担当する交差点は過疎化が進む地域のせいか、子供が3人しか通らない場所だった。
風邪でも流行れば1人も通らないこともあるくらいだ。
「なかなか来ないな。もうちょっと待って誰も来なければ帰ろう」
時間が経つにつれ、腕時計を見る頻度が増える。
10分ほど経っただろうか。ランドセルを背負った男の子3人組が縦一列に並んでやってきた。
学年は3、4年生といったところか。近所だから仕方なく一緒に通学している、といった雰囲気で会話もなくうつむき加減で歩いてきた。
「おはよー」挨拶をしてみる。
「……」無反応だ。
「挨拶くらいしろよ~」そんな事を思いながら、信号が青に変わるのを待った。
シーンと静まりかえった空気が更に身体を冷たくした。
信号が青に変わった。
「いってらっしゃい」と声をかけるも、
子供たちは目も合わせず横断歩道を渡っていった。
なんだかがっかりだ。寧ろ雪の中待たされて、なんだか怒りさえこみ上げてきた。
「最近の小学生はなんてマナーがなっていないんだ。いや、そもそも学校はちゃんと指導しているんだろうか。いつか機会があれば学校に言ってやろう」
そんなモンスターペアレント的な考えを抱きつつ歩いて家に帰った。
新年度に入り、季節はいつの間にか春を迎えていた。
その日は、澄んだ青空がとてもさわやかな朝だった。
横断歩道で屈伸やアキレス腱を伸ばしながらいつものように子供達を待った。
天気のせいか心が弾む。
あの3人組がやってきた。
赤信号で止まる子供たち。
「おはよー」
「……」やはり無言だ。
しかし今日の私は違っていた。
「A君B君C君おはよー!」名前を呼んでもう一度挨拶をした。
地域の行事などに参加しているうちに名前を覚えたからだ。
「え!?」驚きの表情と共に子供達の目線がこちらを向いた。
「おはようございます」小さい声ではあったが初めて挨拶が返ってきた。
「よっしゃー!」旗を持つ手に力が入った。
信号が青に変わる。
「いってらっしゃい」と見送ると、小さくおじぎをしながら横断歩道を渡っていった。
なんだか少し嬉しかった。
2学期が始まり心地よい秋風が感じられる季節。
最近は挨拶も慣れたものだった。
しかし慣れてくると欲張った気持ちがわいてくる。
3人組が縦1列に並んで歩いてくるのが見えた。
横断歩道まであと10メートルくらいの距離だったろうか。
私は突然、手を振りながら満面の笑みで、
「おはよー!」と元気よく挨拶した。
すると「え!?」と一瞬戸惑いの様子は見せたものの、
「おはようございます」と、はにかんだ笑顔が返ってきた。
「勉強頑張ってね」嬉しさからか自然とそんな言葉も出た。
子供達の後ろ姿を見ると、
「さっきのおじさん変わってるよな」とでも話しているのか、会話が弾んでいるように見えた。
ん!? これって。
その瞬間、頭の中にある考えが浮かんだ。
今までの子供達の反応は、
無言だった時も、挨拶が返ってきた時も、笑顔が返ってきた時も、
私が発信したことが、そのまま子供達の反応となり返ってきていたんじゃないか!?
子供達が無言だった時は、
私は「おはよう」と言葉では言いながらも、
嫌々旗振りをしていた分、挨拶にも心がこもっていなかった。
それが子供たちにとっては無言に等しく、全く届いていなかったのだろう。
挨拶が返ってきた時は、
「A君B君C君」と名前を呼び、1人1人に「おはよう」の気持ちを届けていた。
笑顔が返ってきた時は、
手を振りながら、私は満面の笑顔を送っていた。
つまり子供達が自ら発していたと思っていた事は、
実は私が発信していたものを、子供達が素直に受け取り、そのまま挨拶として返してきただけだったのだ。
子供達の姿は、私の姿そのままだった。
それはまるで、私の心を映す魔法の鏡のように。
そしてこの魔法の鏡は、子供達との関係性だけでなく、大人との関係の中にも思い当たる節があった。
出社した際に部下が不愛想な挨拶だった時、
「あいつの挨拶はなんて不愛想なんだ」と不満に思うことがあった。
しかし実は、私はその部下に対し、いつも笑顔もなくどこか不愛想に振舞っている事に気づいた。
そして……。今年も寒さの厳しい季節がやってきた。
朝から北風にのって粉雪が舞っている。
私は子供達が来るのを待ち遠しく思った。
今日はいったいどんな子供達の姿が見られるのだろう。
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