fbpx
メディアグランプリ

リベンジをコインランドリーで


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:slowman(ライティング・ゼミ土曜コース)

最近、中高年のオッさんには過ごし辛い世間になってきたものだと思う。年頃の娘さんをもつ父親が「臭い」「汚い」とあしらわれている話や、最近なら電車での若い女性から痴漢扱いされた冤罪の話とか。もちろん全ての中高年のオッさんにあてはまるものではないから被害妄想だと言われるかもしれない。しかし、ここ近年、中高年のオッさんの立場は、家の内でも外でも蔑まれる、ある意味では社会的弱者ではないかと思ったりする。そして今、私もその一人としていつ何時不幸に見舞われるかもしれない立場になり、周囲からのそしりを受けないようひっそりと生きているつもりなのだが、時折たまったうっ憤をはらしたくなることがある。そしてその時は静かに妄想でリベンジするのだ。

先週の水曜日、近くのコインランドリーに向かった。
以前、コインランドリーを運営しているクライアントから興味深い話を聞いたことを思い出した。晴れた天気に布団を外で干して叩きダニ掃除をした気になっている人がいる。しかし実は効果はなくコインランドリーの高温の乾燥機にかける方が、よほどダニ退治には効果的なのだという。
これを聞いて何度か布団を持ち運んで乾燥機にかけたことがある。多分ダニ退治には効果的だったのだろうが、そこまで布団を運ぶのに両手で抱えて歩いて持ち運ぶのが大変で次第に足が遠のいていたのでコインランドリーに行くのは久方ぶりだった。

夜も遅かったので洗濯機は空いていると思って行った。しかし、使いたい洗濯機の稼働は終わっていたが洗濯物はまだ中に残っていた。
このコインランドリーには、既に洗濯が終わっていて持ち主がまだ取りに来ない場合には、洗濯後の衣類を入れておくカゴがある。個人的には見知らぬ人の洗濯物を取り出すのには抵抗があるが、この時は夜も遅かったので早く自分の洗濯物を処理するため、仕方なく洗濯物を取り出そうと一つの洗濯機の扉を開けた。
すると、洗濯機の内側のどこかに絡んでいたのか一緒に洗濯物が床に落ちてしまった。汚れてはいけないと急いで拾い上げてみた。手に取ったのは、幼児の片方の靴下、そして女性用の下着……しかも少し派手目の。

とっさに「これはマズい」と思い洗濯機の中に放り込んだ。おそらく、その洗濯物を持ち込んだのは女性だろう。その女性が幼児用の靴下ならまだしも、自分の下着を知らない誰かに取り出されたとしたらどう思うだろうか?
もちろんその持ち主は誰が外に出したのか分からないが、先ほどのコインランドリー運営しているクライアントの話を思い出した。コインランドリー内には防犯カメラもつけられていると。
もしその下着が盗まれたりしたら防犯カメラに映っている私が疑われてしまうのではないか?

そんなよからぬ妄想が次々と頭の中をよぎる。別に悪いことをしているわけでもない。全く悪いことはしていない。しかし、どこか後ろめたい気持ちになって何事もなかったようにその洗濯機の扉を閉めた。

……小さな靴下と派手な下着……へんな妄想をこれ以上はやめようともう一つの洗濯機を開けてみた。そこにはどちらかといえば年配の男性モノと思われるシャツや靴下などが入っていた。よし、この洗濯物をカゴに入れよう。そう思って取り出そうとした時、再び妄想が頭をよぎる。いや、まて。実は、この2つの洗濯機を使用しているのは同じ家庭なのではないか?
最初に開いた洗濯機の扉の中には若い女性と幼児の洗濯物。いま開けている洗濯機は少し年配の男性の洗濯物……

チーママに言われて彼女は、指名のあった男のテーブルへ足を運んだ。「こんばんは。いつもありがとうございます」開口一番形式的な挨拶をした。男はそんなことを気にもせず彼女を笑顔で迎える。彼女の好みでもない年配のこの男性からの指名は嬉しくはなかった。しかし、その男性からの指名が続いた。そのうち高額なボトルが次々に空き、彼は彼女の太客となっていく。どうやらこの男性は巷では知られた会社のオーナーらしい。数年前に離婚してから現在は独り身。この客はつなぎとめたいと思いだした彼女。この年配の男性が彼女に食事を持ちかけたのがきっかけで親しい仲に。年は一回りほど離れていた。結婚に反対する知人友人の声もあった。しかしこの男性の経済力の前では無力だった。そして結婚、社長夫人に。余裕のある生活に時間を持て余す日々。まだ幼児の我が子がぐずるのに手を焼く。年配の夫の夜遊びが再燃したが彼女にとっては大した問題ではない。彼女が夢みた豊かな暮らしがあるのだから。ただ、子どもの面倒をみるのが少し面倒なのと夫の加齢臭が鼻につく。たから洗濯物は別々に。コインランドリーで洗濯するなら別々の洗濯機を使って。

結局、この夜は妄想のきっかけとなった見知らぬ人がいつこの洗濯ものを取りに来るのか分からなかったので、コインランドリーを使うのをやめて部屋に戻ることにした。当然あの2つの洗濯機を1つの家庭が使っていたのかなんて私が知る由はない。たまたま私がコインランドリーに行ったら使いたい洗濯機が使えず腹いせに悪意のある妄想をしてみた。日頃何かと叩かれやすい中高年のオッさんのささやかなリベンジだ。

次の日、昨夜のようにまた洗濯機が使えないのはゴメンだと思い、昼間にコインランドリーへ足を運んだ。もしかしたら、あの幼児の靴下と女性の下着、年配の衣類が、まだ私の使いたい洗濯機を占領しているかもしれない。その時は……仕方がない、取り出すしかない。もしかしたら、下着の持ち主とバッタリ出くわすかも知れない。その時は、その時は……そ知らぬふりをしよう……不安めいた妄想が脳裏をかすめた。

コインランドリーの扉が開いたときホッとした。室内はとても静かだった。全ての洗濯機は空いており、すぐに洗濯を始めることができた。
結局どんな人たちが洗濯機を使っていたのかは分からずじまいだったがそれで良かった。昨夜私が使いたかった洗濯機を占領していた洗濯物は全て消え、同時に、最近世間に肩身の狭さを感じているこの中高年のオッさんが抱いた洗濯機占領者への悪意ある妄想というリベンジも消えていた。

*** この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。 http://tenro-in.com/zemi/66768

天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


2019-01-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事