メディアグランプリ

今日も掲示板には「ネコ!」と書いてあった。


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記事:嶽キヨミ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「今日はネコ!」
体育館前の掲示板に、白いチョークで書かれた落書きのような伝言。
 
それは、わたしたち「弦楽部」メンバーだけが知る暗号だ。
中学2年。
その頃のわたしは、「弦楽部・フォークソング部」に所属していた。
 
弦楽部、とは、まぁ言えば ギター部のことで、部内でクラシックギター部とフォークギター部に分かれていた。
わたしは、1年の時、クラシックギター部に入部し、2年からフォークソング部に移籍した。
 
「禁じられた遊び」を黙々と練習することよりも、わいわいと楽しく部活しているフォークソング部が、うらやましくなったからだ。
そして何より「わたしも自分でギターを弾きながら歌ってみたい!」という欲望が日に日に強くなってしまったからだ。
 
いとこのお兄ちゃんからフォークギターを譲り受け、
子供の頃から甘いあこがれを抱いていた「歌手」というものに、小さく一歩近づいたきっかけでもあった。
 
さらに部活にのめり込むきっかけが、その時の部長だった、ロックフリークの兄を持つ I 先輩だ。
ギターが超絶上手だった先輩は、ロック熱が高じて、ほかの男子先輩たちと、フォークソング部に「ロックバンド」を作った。
初めて間近で聞いたエレキギターやドラムの爆音にどれだけ興奮し、心震わせたかは、言葉にもならない。
 
ともかくわたしは、この時期「部活」にどっぷりとのめりこんでいた。
 
憧れのグループの曲を、コード譜を見ながら自分でギターを弾いて歌う、という、不思議な一体感や征服感。
部活の仲間と一緒に歌ったり、ハモったりする楽しさ。
文化祭でステージに立つことや、クリスマスなどの時期に、ボランティアで演奏しに行ったこともあった。
音楽を通して、私の世界はどんどん広がり、今も関係が続く親友ともここで出合った。
 
こう書くと、みんなで仲良く青春しているようなイメージ、かもしれない。
でも、実際の私は、この頃すでに人付き合いが苦手で、人とどう仲良くなればいいのかよくわからないままだった。
表面的には外交的でも、本当はかなり内向的で、自分のまわりにけっこう高い防御の塀を築いているような性格だったからだ。
 
部活は、そんなわたしでも、安心して身を置ける「居場所」だった。
自分らしく居られる瞬間を感じられる場所でもあった。
 
たぶん、そこには「音楽」という共通の目的や言語があり、それが人との関係性のクッションにもなっていたことが大きかったのだと思う。
家では自分の居場所を感じられずにいたわたしだったから、よけいにその居場所にのめり込んでいたのかもしれない。
 
あの頃から、あっという間に長い年月が過ぎた。
今は、わたしの人生にはいろんな居場所ができた。
仕事やそれにまつわる友人関係も、複数の場所があり、わたしは、自分勝手にそれらを行ったり来たり、ときには引きこもったりして生きている。
 
一つの居場所にがっつりと根を生やして生きることが、居心地のいいひともいると思う。
わたしは、結局 そういうふうには生きられない性分のようだ。
 
どんなかたちであっても、人には「居場所」というのはとても大切なものだと思う。
 
学校やら会社やら組織やらに自分の居場所がなくて辛い、という言葉はよく聞く。
でも、本当の意味で「居場所」とは、「場所」ではないのだろうな。
 
たぶん心をゆるせる誰かがいれば、そこが居場所となるのではないだろうか。
 
もっと広く考えると「誰か」というのは、必ずしも人である必要はないのかもしれない。
わたしのように「ひとり」でいるのが好きで、それが「たのしい」と感じているときは、「じぶん自身」とか「音楽」とか「カメラ」などが、相棒となり、一緒にいる、と言えるのだろう。
 
それでも「誰か」が人であれば、それはやっぱりミラクルなことなのだと思う。
その人には、自由な意思や感情があるからこそ、なおさらかけがえのないものなのだ。
あの部活が教えてくれたのは、そういう、特別な居場所であり、かけがえのない喜びだった。
 
わたしたちがあんなに互いに引き寄せられ、結束力が強くなったのには、実は秘密がある。
それが、「今日はネコ!」だ。
 
この暗号が体育館前の掲示板に書かれる日、それは「隠れ部活の日」だ。
 
わたしたちの中学では、テスト前だったり行事などがあるときは、強制的に部活禁止になるという校則があった。
部活がやりたくてやりたくてしかたのないわたしたちの誰かが、掲示板に「例の」暗号を書く。
すると、掲示板を見たものが「こっそり」集まり、部活を決行する。
 
とは言っても、
部室とは名ばかりの、音楽室の隅を勝手に占拠し、部室風にアレンジした場所に集まって、次にやってみる曲を決めたり、歌の練習をしたりしているだけのこと。
 
それでもこのドキドキ・ワクワクの共犯感覚が、結束力づくりに大いに役立ったのは間違いない。
「秘密の共有」が、その渦中にいるわたしたちの部活や音楽への熱量を上げたのだ。
 
久しぶりに思い出した。
「なんか青春だなー」
 
でもこれって、チームを作ったり、共同作業をしたり、誰かと親近感を高めたい時など、いろいろな場面で活かせるヒントがいろいろ詰まっているなぁ、とも思う。
 
そうだ、中学生の自分をただ懐かしがっていてもしょうがないではないか。
 
せっかくのミラクルな経験を、今の居場所をもっと面白くしたり、また新たに居心地のいい居場所を作ったりすることに活かさねばだ。
 
今だからこそ、あらためて決意しよう。
 
これから、あの頃の自分に勝るとも劣らない、最高の経験をしよう。
 
そして、自分の人生そのものを、ワクワクする自分の居場所にしよう。
 
わたしがこれまで経験したことや、得たことなんて、ほんの少ししかないのだから。
 
そう思うと、心にワクワクするスペースが少し広がった気がした。
 
 
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2019-02-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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