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幸せのアンテナの感度は高い方がいい


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:鈴木 祐子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「幸せかげん、お湯かげん、あたたかさは人それぞれ」
この言葉は、自宅近くのお寺の掲示板に貼ってあった言葉。
「深いなぁ~」この言葉を目にしてからずっと心に残っている。どうしてだろう、毎日いろいろな言葉を目にしているのに、不思議だ。
幸せと感じる心の度合いもお風呂の湯かげんと同じで、人それぞれ違う。ある人は、まだ寒いこの時期に可愛く花を咲かせる蠟梅を見て「春はもうすぐだ、あぁ幸せ」とこころがほっこり温まるのを感じる。ある人は蠟梅には気づかず通り過ぎるけれど、友人からの何気ないサンキューカードで「私は幸せ者だ」と心が温まるのを感じる。
「幸せ~」と心が温まる出来事は人それぞれだけれど、その幸せのアンテナの感度を上げると小さな出来事からも幸せを感じることができるようになると思う。
私は2度のがんを経験している。健診制度が整い早期に見つけられるようになった今では多重がんの患者は珍しくないと思うが。1度目は今から11年前の乳がん。少し前から右胸にしこりを感じていたので健診を受けた。結果はビンゴ。健診中に突然先生が、「今から保険診療に切り替えて生検するね」と言った。生検とはしこりに直接注射針を刺して、細胞を抜き取り病理検査するものだ。「はい」と返事をしたものの、頭の中は真っ白だった。
それから大きな病院を紹介され、術前の抗がん剤半年、手術、放射線治療と嵐のように1年が過ぎていった。副作用で髪が抜けたり、むくんだり身体は相当つらかったけれど、同僚のいつもと変わらない姿に何度も救われた。抗がん剤を打って、吐き気がひどくてとても地下鉄には乗れずにタクシーで帰った時は、運転手さんの面白い話で気がまぎれて車内で吐かなくて済んだ。今まで何でも自分でやれるつもりでいたが、本当はいろんな人に助けてもらっているんだと日々実感していた。
この経験は、私の幸せのアンテナの感度を相当上げることになった。青空を見ても幸せを感じるし、緑の木々が風に揺れて葉裏がきらきらしているのを見ても幸せを感じるように変わっていった。1年にわたる治療で身体はボロボロだったけれど、心は満たされていた。
治療中にたまたまトイレで一緒になった常務が私に向かって「身体大丈夫?ほんとうにかわいそうに」と言った。
私は確かに乳がんになったけれど、これまで自分をかわいそうだなんて思ったことは一度もなく、逆に幸せだと思っていたからとても驚いた。その時は家族や同僚など周りの人たちに支えられて仕事をしながら治療を受けていたから、彼らの温かさを身にしみて感じていたのだ。
しかし、常務にそう言われて「あぁ世の中には私の今の状況をそういう風に感じる人もいるのだと」気づいた。40才過ぎて結婚もせず、ずっと仕事をしてきて乳がんにまでなってしまったなんてかわいそうと。
常務にどういう意味でそういったのか聞いていないので、本当のところはどうなのかは分からないけれど、このように考える人は数多くいると思う。
私は幸せだと感じ、常務はかわいそうだと感じる。
この出来事から、はた目から見てつらい状況にあっても当事者にとって不幸せなことばかりでないと、私は考えるようになった。
辛い状況と感じる時の方が、幸せのアンテナの感度は鋭くなり小さなことでもありがたいと感じ心が温かくなる。
反面いつも満たされた状態でいるとそれが当たり前になり、幸せのアンテナの感度は鈍くなって大きなことでなければ、ありがたさを感じにくいのかもしれない。
自分にとってつらい出来事や大変な状況は、幸せのアンテナの感度を大いに鋭くしてくれる良い機会だ。アンテナの感度が高いと、ほんの些細なことでもありがたく感謝の気持ちが自然に湧いてきて、心が温かくなる。
いい時も悪い時も幸せのアンテナの感度を上げておきたいものだ。そうすれば、幸せを感じる機会が多くなる。幸せを感じる機会が多くなれば、その人の生活は心満たされる時間が多くなる。心満たされる時間を積み重ねていったら、きっと素敵な人生になると思う。
はたからどう見えるかなんて関係ない。自分が幸せと感じればそれでよいのだ。
そもそも「幸せ」は目に見えないもの。目に見えないのだから誰かと比べようもない。
だから、誰かと自分を比較して幸せかどうかを考えるなんてナンセンスなこと。
人生の時間は有限、いつか終わる時が来る。だからいつも幸せのアンテナの感度を上げて小さなことにも幸せを感じ、温かい気持ちで歩いていくことできっと実り豊かなものになると思う。私は2度のがんの経験からそれを学んだ。
一度きりの人生笑ったもん勝ち、楽しく行こう。

 
 
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2019-02-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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