みんな誰かの薬剤師さん
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【3月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《火曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:外村省吾(ライティング・ゼミ日曜コース)
忘れられない言葉がある。
生きていれば誰もが幾つかあるだろう。
誰かに言われた言葉や、本で見つけた言葉など。
辛い時に支えてくれた言葉や、背中を押してくれた言葉など。
ふっと心を軽くしてくれる言葉や、すっと胸に染み入る言葉など。
言葉の持つ力は様々だと思う。
私も言葉に心を刺された事がある。
あれは、日が暮れ始めて薄暗くなった一室。
部屋探しをしていた時、私の心に刺さった言葉。
「なんでこれじゃダメなんですか!?」
不動産の青年からの言葉だった。
グサッ
……何かが刺さった感覚。
言葉に刺された事を感じた。
良い意味ではない。悪い意味で。
もう、3年ぐらい前の事だけど鮮明に覚えている。
その日は新しく暮らす部屋を探していた。
予め希望を伝えて実際に物件を見ていた。
かなり親切に、沢山の候補を上げてくれた。
身なりや言葉使いもしっかりしていた。
部屋に着いても、事細かに案内してくれた。
自分と同じ20代なのにしっかりしてるなと思った。
親切な青年に対して私は
もっと家賃を抑えたい。
もう少しだけ広い方がいい。
浴室とトイレはできれば別がいい。
畳じゃない方がいい……。
等々、要望を次々に伝えていた。
そして、最後の物件で青年の心は決壊した。
その物件は大通りに面していて、騒音が少し気になった。おまけに一階だったから尚更だった。
できれば、一階は避けたいです。そう伝えた。
「もう、いいじゃないですかここで……」
「なんで、ダメなんですか!」
今までとは違う強い口調でそう言われた。
少し呆然としてしまった私は、
苦笑いしながら、考えてみますとだけ伝えた。
帰りの車は助手席でなく、後部座席に座った。
一言も話さず帰り、後日、他の不動産に駆け込んだ。
あの日、青年の心が決壊する瞬間。
言葉が鋭く尖った瞬間を見た。
もう、ずっと前の事なのに鮮明に覚えている。
私もわがまま過ぎたのかもな、と少し思う。
あの青年は今頃、変わらず働いているのだろうか。
誰かを傷つけていないだろうか。
……でも私も一緒なのかもしれない。
知らぬ間に誰かを傷つけているかもしれないと思った。
というか、傷つけていた。
それは会社で初めて後輩が出来た頃だった。
後片付けが全く出来ない後輩だった。
初めはしょうがないとも思ったけれど、
いつまでも出来ないのだ。
私は注意する。
ちゃんと片付けなさいと。
それでも改善されない。
なんで片付けないの?
変わらない。
どうして出来ない?
難しいか? 自分が出したものを元に戻すのが?
何か無理な事を私が言ってるのか?
当時を思い返してみる。
彼にはかなりキツい言葉を
ガンガン放っていたと思う。
なぜなら自分もそういう風に
浴びせられていたから。
と、思っていた。
私の指導を見ていた上司から言われた。
「そんな言葉のかけ方じゃ誰も聞いてくれない」
言葉のかけ方が違う?
何が違うのだろう。
あなたも私にガンガン放っていたじゃないか。
私は混乱した。
何が違うんだろう。
その上司にこっぴどく怒られていた頃を思い出した。
私は報告、連絡、相談といった
回りに助けを求めるのが苦手だった。
今でも苦手だ。
上司からは毎日怒られた。
報告のタイミングが遅い。一言がない。
一言があるかないだけで仕事の状況は全然違うと。
私の誤った判断が後々にどんな状況を生んでしまうのかを具体的に教えてくれた。
それを改善するにはこういう風にすれば良いと思わないか?
自分の仕事を止めてでも伝えてくれた。
何時間も私に時間を割いてくれた。
回りからは大変な上司を持ったねと揶揄された。
けれど、そう思わなかった。
辛くて、悔しくて泣いた事もあったけれど
あの時の言葉は心にちゃんと届いていた。
それは、私の事を思った上だと分かるから。
間違えたままだとどうなってしまうのか、
という事を含めた上で話してくれたからだった。
言葉は相手を傷つける事も癒すことも可能な劇薬だから、きちんとした使い方を知らないといけない。
私はどうだっただろうか?
片付けられてない状況だけを見て、
何故出来ないのか?
とだけ吐き捨てていた。
言葉の掛け方を変えてみた。
まず、片付けられていないとどんな状況になるのか。
誰に迷惑がかかってしまうのか。
君が片付けてくれたらどんな風に状況が良くなるのか。
注意深く言葉を選んだ。
それは、怒られている時に注意深く聞くのと同じように。
怒る時も注意深くないといけない。
そのおかげかもしれないが、彼は変わった。
誰よりも掃除をするようになったし、会議や打合せの状況を把握するようになっていた。
私の言葉の掛け方だけで変わったのかは分からない。
けれど、彼を変えた一つの要因であるのは確かだ。
言葉の掛け方一つで人は良くも悪くもなるようだ。
言葉は恐い。と思う。
簡単に発した言葉が良くも悪くも
簡単に誰かを変えてしまう事があるから。
無意識に発した言葉が
無意識に誰かを傷つけてしまう事があるから。
言葉は劇薬だ。
今から発する言葉は誰かを傷つけてしまわないか。
ちゃんと生きた言葉なのか。
心に問いかける事を忘れないでいたい。
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