大企業で働くコツはいつでもスタートダッシュができる状態にあること
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:山本ヒロミ(ライティング・ゼミ日曜コース)
「何かお手伝いすることないですか?」
5時半の終業にはまだまだ時間のある午後2時過ぎに、部の博士先生がたに声をかける。
「うーん。無いねぇ。とりあえずゆっくりしていてよ。雑誌でも新聞でも読んでさ」
去年の春、初めて派遣に登録し、憧れの大手外資系(農薬メーカー)の登録部という部署にアシスタントとして働き始めた。学校を卒業してから結婚、出産、育児をしながら、職を何度か変わってもずっとフルタイムで働いてきた。しかし義理の父母との同居と介護が加わり、さすがに体を壊して退職したのが一昨年。その後人生で初めての専業主婦を1年弱味わった。
介護に一区切りつくと、やはり体がヒマを持て余す。
スポーツクラブにノルディックウォーキング、ヨガ、ピラティス……と思いっきり身体を動かして体重を10キロ落としたら、身が軽くなった分またどこかで働きたくなったのだ。
もう年だし、今更正社員の採用も難しいそうだな、と思いネットでいくつかの派遣会社に登録すると、面接も電話で簡単に済ませて、あれよあれよという間に溜池山王にある大きな外資系の会社を紹介された。
世の中人手不足なんだなぁ、こんなおばちゃんでもアシスタントに使いたいなんて。アシスタントなんて若くてかわいい女子のイメージなのになぁ……なんて10年くらい前のリーマンショック不況での苦い職探しの経験を思い出していた。
10年前、夫の経営していた食品工場が倒産し、私は生活のため何としても職を見つけなければならなかった。折も悪くリーマンショック後、派遣会社に登録してもまったく仕事が無い状態。履歴書を何通も送ってもどこにも引っかからない。どうにか正社員で拾ってもらった会社は今までにも勤めたことのあるような従業員30人くらいの中小企業だった。
「中小企業は人材の吹き溜まりだよ」
とある中小企業の社長に言われたことがある。
確かに中小企業には新卒でずっと働いている人より、転職をしてくる人のほうが圧倒的に多い。
何かを求めて新天地で再チャレンジする意欲あふれる人もいれば、どこにも馴染めず転職を繰り返す人もいる。私もそんな吹き溜まりの一人であるが、吹き溜まり達をまとめる社長もユニークな人が多い。
私が最後に正社員として働いた中小企業の社長もユニークというより変わり者、カリスマというより独裁者に近かった。創業時は通信事業をしていたが、格安の電話回線が普及する頃には、電話代金の請求書に物販のチラシを入れて通販事業も併走する会社だった。
女性はほぼ、電話応対(カスタマーサポート)という職種になるが、架かってくる電話の内容は電話を取るまで全くわからない。
時には外国の国番号を問い合わせや、外国に電話がつながらないというクレームだったり、またある時は販売しているwifiの繋げ方がわからないという技術的な問い合わせもあれば、米や味噌の注文、請求書の見方がわからないなどありとあらゆる問い合わせがくる。
大企業であれば、電話を受けるところで問い合わせの内容によって番号を押す電話システムを採用するのであろうが、社長の独断で
「すべての従業員がすべての質問に答えられるようにする」
と決めたのだから、誰も逆らうことは出来ない。
新人の1年間は鳴る電話を取ることがロシアンルーレットの気分であった。
「苦手な質問は来ませんように……」
祈るように電話に出た。
この会社のすごいところは業務が電話応対だけではないことだった。電話が鳴らないときには発信業務をしなければならない。発信業務はクレジットカードに代金を請求できないお客様に新しいカードに更新してもらう依頼、支払いの滞ったお客様への督促、そして一番多かったのが優良顧客への新商品の売り込み(営業電話)であった。
通販会社の電話営業なんて聞いたことが無いが、一部の年配のネットに疎いお客様には好評だった。社長は気をよくして1日100件電話を掛けることをノルマとしたところから変なことになってきた。電話を受けていると掛けられないのである。皆が電話を掛けていると架かってくる電話がすべて話中になるのである。
当然事務処理をするスタッフもいるが常に電話に出る羽目になり業務が終わらない。
実はこの事務処理も私たちカスタマーサービスの女性スタッフが日替わりで担当していた。更に通販の商品の企画とホームページ作成も担っていたが、残業が1分も許されていない私たちはいかに要領良く100件の電話を掛けるかが勝負となった。
ゆっくりトイレに行く間もなく18時の終業時間を迎える頃にはぐったりとして話す気力さえ出なかった。離職率も高く1人の募集に3―4人採用して1人残れば良しとしていた。私の職務経歴の中でもっとも忙しい会社であった。
そんな経歴の私が、大手外資系のアシスタントになった。
経験上、与えられた仕事は息つく暇もなく片っ端から片づける。常に作業効率を考えて、1つの仕事をしながら、次の仕事の準備もする。前職のように鳴り止まぬ電話に邪魔されることもないので、依頼された仕事はすぐ終わってしまう。
前職の経験で仕事というのは終わっても次から次へと湧いてくるものだと思っていたのだが、どうやらここの部署に限っては具合が違う。何百種もある農薬の変更を定期的に役所に提出し、新しい農薬の認可を取るために5年以上の歳月をかけて実験データを積み上げ、広辞苑より厚いレポートを何十冊も作る部署なのである。書類作成の期限もあるが、期限は早くなることよりも遅れることが多いので、急にヒマが襲ってくる。他の部署を見まわしてみても、前職のように追い立てられるように仕事をしている人は見当たらない。皆、優雅である。
この忙しさの違いは何なのだろうか?
どちらがまともなのだろうか?
どちらもまともではないのだろうか?
いまだにわからないが、一つ分かったことがある。
とあるビジネス書に
「仕事のキャパは70%くらいにして、30%の遊びがないと急に入って来る仕事や変更依頼に対処できない」とあるのを読んだ。
前職で目の前の仕事を片っ端からフルスピードで片づけていた日々は120%の力を振り絞って仕事をしていたのである。ここ大企業は70%でやればいいところを120%で片づけてしまうと時間も力も余るのである。
じっくりゆっくり、確実に仕事をこなし、急な仕事が入っても対応できる余力を温存し、いつでもスタートダッシュできる状態にしておくこと。これが大企業で働くコツなのだ。
頭で納得はしているのだが……
長く大企業で働くうちにスタートダッシュの方法もわからなくなっている人材がいるような気がするのは気のせいだろうか。
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