メディアグランプリ

愛すべき中二病


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記事:遠藤淳史(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
 
「メガネってダセえ」
 
 
高校生の時、急にそんなことを思い始め、両目共に0.1以下の視力しかないくせに、授業中だけメガネをかけて普段は裸眼で過ごすということを続けていた。
何の漫画に影響を受けたのか、「メガネをかけている奴=イケてない奴」という意味不明な方程式が当時の私の頭の中には爆誕していた。とんだ中二病である。
 
 
コンタクトをすれば万事解決なのだが、私の目は諸々の事情で生涯コンタクトをつけられない。そのため、レーシック手術でもしない限り、私の目の悪さはメガネでカバーするほかなかった。
 
 
「なんでメガネかけたり外したりしてるん?」
 
 
「あー、耳痒いから普段はつけたくないねん」
 
 
嘘だった。
何年もかけてきて身体の一部と化していたメガネは、痒みどころかフィットし過ぎてかけていることを忘れるくらいだった。
理由を聞かれるたびに、メガネをかけざるを得ない自らの視力を呪った。
けれどもそれがないと生活に支障を来すから手放すことはできない。
 
 
鬱陶しく煩わしいのに、それに頼らざるを得ないのは、思春期における母親みたいだった。反発しつつも、母親がいなけれなまともな食事も食べられない自分はつくづく無力だなと感じつつ、ありがたく目の前の飯にありついていた。
 
 
けれども、思春期にいつか終わりが来るように、メガネに対するコンプレックスも少しずつ薄れていった。大学3年生の頃にはもう全く気にしなくなっていた。
 
 
今になって、あの一時的に何かに傾倒したり変なモノやことにこだわりをもつ現象は、果たして中二病という一言で済ませられるものなのかと疑問に思う時がある。
人によっては黒歴史になったりコンプレックスの源になるため、あまりいい思い出として語られることは少ない。自分も誰かを揶揄したりバカにしてきたのは事実だ。
けれども、ここにこそいわゆる個性ってやつは育まれる気がしてならない。
 
 
「三つ子の魂百まで」という言葉がある。人の性格や人格は3歳までにおおよそ形成され、それは100歳になっても根底は変わらないという意味だ。
この3歳までの期間に人間の内面の下地の部分が作られ、思春期に趣味趣向の肉付けがされることで、その人の個性が出来上がる。
 
 
そう考えると、中二病こそがその後の人生を左右すると言っても過言ではない気がする。
あの頃好きだったカルチャーは、いくつになっても自分の中の特等席に座っている。
同様に、目を向けたくない部分も、気にしなくなった今もずっと心のどこかに引っかかっているのだ。
 
 
私はそれを解消したかった。
どうにかして、メガネに対して持っていたコンプレックスをプラスの方向に昇華したかった。そのために私は、自分でメガネを選んでみようと思った。
 
 
メガネに対するコンプレックスはなくなっていたが、「そのまま」だった。
ファッションには疎く、身に着けるものに特段こだわりがなかったため、メガネに関しても、6年間ずっと同じものを使っていた。過去につけてきたものも「コレがいい!」ではなく「コレでいっか」で選んだものだ。そこに自分の意思はほとんどなかった。
 
 
近くのJINSに足を運ぶと、まずその圧倒的なフレームの種類に度肝を抜いた。
こんなにある中から選ぶのか…と半ば不安になりつつも、陳列してる雑誌を読んだり店員さんと相談しながら、自分の顔の形に合って且つお気に入りのものを探した。
1時間ほど経ってようやく「コレがいい!」と心から思えるフレームに出会った。今までつけてきたものとは違う、軽くて目立ち過ぎることなく、けれども自分らしくいれるような形。
なにより、それをかけた自分を鏡で見た瞬間、ワクワクした。
間違いないと思った。
 
 
出来上がったメガネをかけた時、度数はそれまで使っていたものと同じなのに、明らかに世界がクリアに見えた。この瞬間に、私の中でメガネはコンプレックスから個性に変わった。
なんでもっと早く買わなかったんだろうと後悔するほどに気に入った。
今はそれをかけて街へ出かけるのがとても楽しい。
今のメガネが好きだし、かけている自分も好きだ。
かけることで自分が完成する感覚。
良くも悪くも、身体の一部だなあと思う。
 
 
あれほど煩わしかったメガネを今は、もう一本買おうかなんて考えている。
極端に遠ざけた過去があったからこそ、今は逆に愛しく思える。
良い意味でも悪い意味でもこだわりを持っていた黒歴史をもっと掘り返してみたくなった。
そのこだわりを、留まらせることなくもう一歩先へ進めることができれば、新しい愛すべき個性と出会える気がするのだ。
 
 
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2019-02-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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