おもてなしにはウラがある
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記事:戸田美恵子(ライティング・ゼミ特講 )
「え〜コーヒー1杯でこんなに付くとか本当ですか? 茶碗蒸しまである〜」
レポーターが驚いてみせていた。
喫茶店のモーニングの事だ。
子供の頃は、喫茶店でコーヒーを頼むと、何も言わなくてもトーストとゆで卵くらいはついてくるものだと思っていた。最低でも豆菓子くらいはついてくる。祖母にたまに喫茶店に連れて行ってもらったりした時は必ずそうだったから。
地方の特有の文化などを面白おかしく紹介するテレビ番組などの影響で、すっかり全国で知られるようになったけれど、もともと地元の地域では普通だった。
逆に「東京に行ったらコーヒー何百円もした上に何にもついて来なかった」「え〜そうなの?」みたいな会話を聞いたことすらある。へえ、東京ってところは何でも高いんだなぁ、なんて子供心に思ったものだ。
地元の情報番組では、ここのこんなモーニングがすごい、みたいな紹介をしょっちゅうやっている。サラダが付くだの、味噌汁が付くだの、冒頭の茶碗蒸しや惣菜とかはてはうどんなんてのもあったり。
サンドイッチやフレンチトーストが選べたり、卵も調理方法が選べるとか、ちょっと金額を足すと豪華になったりするのだが、もう元の飲み物の影が薄すぎておかしなことになっている。
ちょっと噂を聞いて出かけたところは、モーニングと、ランチの時間と、カフェの時間みたいに分かれていて、ついてくるメニューが変わるシステムになっていた。
それぞれメニューの1ページを割いていたので、9〜10種類くらいあったような気がするのだけど、お昼にはカレーとかパスタとかもあって、それで食事が済みそうだ。カフェの時間はスイーツ中心になるのだけれど、一体もうどこで儲けているのやら……。
少し有名になったものだから、地域おこしをしようと躍起になっているようで、モーニンググランプリ的なものが行われたりしていた。
優勝した店のメニューは本当に美味しそうだったので、食べてみたいな、と思ったりもしたけれど、わざわざ出かけていくほどには至らず……。
なにしろ個人的にはあんまり喫茶店とかカフェのようなところを利用しなかったので、習慣がないのだ。
私が行くかどうかはさておき、メディアで取り上げられたり、口コミで人気になったりすれば、お客さんは集まると思う。ただ、豪華合戦になっているんじゃないかと個人的にとても心配になっている。
別に私が心配しなくとも、経営する方はちゃんと考えているだろうとは思うのだけど、どう考えても値段とあってないよね? という感じがするのだ。
実際そんな風に売り出してもらっても困る……という地元の店もあると聞く。
そんなことを考えていて、これは今の日本の問題と繋がっているのではないかと思ってしまった。
日本は、低価格で販売されている商品も、海外の国と比べて、驚くほど美味しくてレベルが高いのだそうだ。だから、特に高級なものを頑張って選ばなくても、そこそこのレベルのものを食べて暮らしていける。しかも、店員のサービスが高級店でなくても感じがよく丁寧。
こういう状態で暮らしていれば、安いものを買ったって、丁寧ににこやかに、対応してもらえるという「サービス」がついてくるのは「あたりまえ」と思ってしまうのかもしれない。
だからちょっとしたことにさえ「お客様」という立場を逆手にとって、高圧的に出てくる輩が増えてしまうのかも。
実は近所のスーパーでさえ深々とおじぎをして迎えてくれる社会というのは、実は誰かの苦労や犠牲の上に成り立っているのではないか?
それがあたりまえだと思ってしまったら、それは自分に逆に降りかかってくるのではないか?
それぞれの首を絞めるスパイラルになっているのではないかと思うとなんとなく悲しい。
もともとはそれぞれの「喜んでほしい」という心遣いだったはず。
全てのことは、あたりまえ、だとか、こうあるべき、という考えになった時点で、みんなにとって苦しくなってくる気がする。
提供してくれる人に対して、ちゃんとした対価は払える人間でありたいし、それ以上の事を受け取った場合は感謝できる心を持っていたい。
そして、もし期待した通りでなくても、多少は「お互い様」と受け入れられる余裕を持っていたいと思うのだ。
遡ってモーニングの話だが、豪華合戦になったのはあたりまえだと思ってしまっていた私たちなのかもしれない。苦しくなるくらいなら、そこまで売りにしなくても……と思ってしまうけれど、別に「やめてしまえ」と思っているわけではない。
受け取る側も、提供する側も一歩引いて笑顔になれる程度で続いて行ってほしいなあと思うばかりである。たまには行こうかな、喫茶店。
昔の私のように、家族に連れてきてもらって楽しく時を過ごす子供がこれからもいてほしいと思うし。
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