京都でのんびり「気の湯治」のすすめ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:臼井裕之(ライティング・ゼミ土曜コース)
「いやあ、僕は京都が好きでね。1年に2回は行っているよ」
大学を卒業して、就職したばかりのときに上司だったS部長は、そう語ってくれたことがある。東京の人だがよほど京都が好きらしい。
いったい京都の何がそんなに魅力的なのか? 部長に訊ねても、ちゃんとした答えは返ってこない。「だって名所旧跡がいっぱいあるから、回っているだけで面白い」って、これじゃ答えになっていないような気が……。
私も部長と同じく、東京生まれで東京育ち。ちょっと違うのはもう1年弱、京都に住んでいるというところだけ。だが部長には申し訳ないが、実際に京都に住んでみると京都の本当の魅力は、ここに住んでみないと分からないと思うようになった。
京都は温泉に似ている。温泉は1泊2日で来て入っても気持ちがいい。しかし温泉の効果をしっかりと体験したければ、一定の間、滞在して毎日温泉に浸からないといけないと思う。
そう、京都の魅力を知るためには、京都で「湯治」をするのがおすすめだ。
「京都で湯治って、京都市内に温泉なんてあったっけ?」
こう思った方、その通り。日本は火山国だからどこを掘っても温泉が出てくる。しかし京都は、けっこう深く掘らないと温泉に行きあたらない。だから京都市内には本物の温泉は少ないようだ。私の知っているスーパー銭湯は、滋賀県の温泉から運んできたお湯を使っている。
温泉とか湯治というのは、あくまでも比喩である。
京都にはパワースポットといわれる神社仏閣がいろいろあるが、実は京都自体が巨大なパワースポットなのである。
パワースポットとは大地のエネルギー、大地の気が噴き出して、ボコボコいっていそうなところである。そのエネルギー、その気にのんびり浸かって「湯治」をするのがいい。
京都の気に浸かるなんて、そんな目に見えないものを持ち出されても、と思うかもしれない。しかし京都でうごめくエネルギーは目で見ることができる。
京都市の北西部に衣笠という地域がある。分かりやすくいえば、金閣寺があるところだ。ここには立命館大学のキャンパスもある。
キャンパスの北側に新しい3階建ての図書館が聳えている。学生たちは「パルテノン神殿」と呼んでいるようだ。この図書館がありがたいのは、立命館の関係者でなくても、3千円払えば1年間使える利用カードを交付してくれるところ。
あまり大きな声ではいいたくないのだが、「パルテノン神殿」の3階へ上がってみると、東向きの眺めが絶景である。東には遠く比叡山などの山々を望み、南の方へなだらかに下っていく京都市内を眺め渡すことができる。小さく京都タワーまで見えたときは感動した。
昨年の夏、私はこの図書館に通ってせっせと原稿を書いた。
当然、3階の東側窓際に陣取って、京都盆地を眺めつづけた。そのおかげで京都に逆巻いている雲の動きを、ずっと目で追うことになった。東京人でこんな機会に恵まれた人は、かなり珍しいはずだ。
京都の天気は変わりやすい。こっちでは雨が降っているのに、あっちでは晴れているということがよくある。図書館からは、そういう雨と晴れの境目が手に取るように見えた。その境目は刻々と動いていく。境目が動いていった後には当然、虹がかかる。
雲も虹も、大地のエネルギーが顕在化したものだ。
京都で天気が変わりやすいのも、また雲が逆巻き、虹がかかる土地なのも当然のことである。かつて平安京に都を定めたとき、日本人は中国から輸入した風水を利用したからだ。風水とは大地の気を測り、その強いところを探し当てようとする理論である。
風水に「四神相応の地」という表現がある。都に相応しい土地は北に玄武、東に清龍、西に白虎、南に朱雀、と神々に守られているということだ。これは言い換えれば、東西南北のパワースポットから気が溢れ出て、その気が充満しているところを都にすべし、ということである。
京都に観光に来ると、あちらの名所、こちらの旧跡とスケジュールがいっぱいな人が多い。これはパワーみなぎる京都の気を浴びるという観点からすると、ちょっともったいない。京都という町は、ぶらぶら当てもなく散歩してこそ楽しい。そぞろ歩きが楽しいのも、気の効果ではないだろうか。
さらにそんな散策の途中で、ふと立ち止まったお世辞にも立派とはいえない和菓子屋さんで何かを発見してしまったりする。これもまた京都のエネルギーがなせる業だ。
何を発見するのかって? 店先にしつらえられた蛇口である。
「営業時間内でしたら、ご自由に水を汲んでください」
こう書いた木の板切れが蛇口にかかっている。ほぼ300年前に創業したこの店では、店で使っている井戸水をご近所におすそ分けしているのである。こういう心配りをする店も京都では珍しくない。
ちなみに、この店で売っている1個162円のどら焼きがとても美味しい。正確を期せば、「源六焼き」という名前だ。
京都の気は空に昇れば雲となる。雲が逆巻けば雨が降り、雨は地中に溜って地下水に転じる。そんな地下水から、安価にして美味なるどら焼きも生まれる。
どこの都市でもいくらかの地下水はあるものだ。だが京都は千年の都、やはり尋常ではない。最近の研究によれば、京都の地下には琵琶湖の水量に匹敵する大きな「水がめ」が眠っているという。この地下水脈があればこそ、京都で精進料理が発展し、茶道が生まれ、美酒が醸され、友禅染めが作られた。京都の伝統文化が花開いたのである。
私は初めて井戸水を分けてもらったとき、家へ帰ってそれでご飯を炊いてみた。
炊きあがったご飯を一口口にして、驚愕した。家の普通のご飯が、和菓子に使う極上のご飯になってしまったからである。これこそが、食べることができる京都のエネルギー、京都の気である。
数日のホテル滞在では、自分でお米を炊くわけにもいかない。だからこそ京都に住んだ上での「湯治」を勧めるのである。
さあ、もうこの文も書き終わった。これからペットボトルを手に、あの店へ京都の気を汲みに出かけたい。
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