メディアグランプリ

オフィスはアルバムだ。


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記事:中園陽二(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
2年前の今頃、僕は焦っていた。
オフィスの退去日が4カ月後に迫っていたからだ。
 
その頃、僕は起業家を育てるためのインキュベーション施設に入居していた。
個人事業主として2011年に独立し、そろそろオフィスを持ちたいなと思った2015年、ちょうど条件の合うインキュベーション施設と出会って入居したのだ。
9階建てのそのビルは非常に快適で、設備も整っていて言うことなしであった。
それぞれの起業家に12畳ほどの個室が割り当てられており、施錠できるドアが付いていて、セキュリティもしっかりしている場所だった。
トイレや廊下の掃除は専門の清掃スタッフがやってくれて、自由に使える会議室もある。
琵琶湖のすぐほとりに建っていて、ビルを出たら1分で琵琶湖!
好立地にも関わらず、家賃は格安であった。
さすが起業家を育てるためのインキュベーション(=孵化)施設である。
 
そんな快適な場所だったので、大変気に入っていたオフィスだった。
ずっとここに居たいと思っていたぐらいなのだが、世の中そんなに甘くはない。
3年間という期限付きだったのだ。
インキュベーション施設は、「起業家を育てる」ということが目的のため、長く居てもらっても困るのだろう。
新しい人が入って来られなくなるし、またぬくぬくした環境で起業家を甘やかしてしまうことにもなる。
3年間という限られた期間のうちに、独り立ちできる能力を身につけて羽ばたいていきなさい、ということである。
 
意図はわかる。わかるが、この快適さは捨てがたい…。
とは言え退去しないといけない期限は決まっている…。
 
ということで、2年前の今頃、ようやく重い腰を上げて新しいオフィス候補を探し出したのである。
もうひとり女性のスタッフが居てくれたので、二人でいろんな場所を見に行った。
ネットで物件を検索し、良さそうなものがあれば片っ端から不動産屋に連絡して内覧をさせてもらった。
 
そこでぶち当たった現実は、「今より条件のいいオフィスなんてない」ということであった。
広さに余裕のある部屋がいいなぁ、と思っていたのだが、当然広いと家賃は高くなる。
 
広ければ高い。
キレイだと高い。
駅近だと高い。
設備がいいと高い。
 
どれも当然といえば当然だが、今まで格安で快適なオフィスに居た人間としては、この現実はとても辛いものだった。
なにせ、今までよりも高い家賃を払って、なおかつより不便なところに引っ越さないといけないのだから。
 
なかなか希望の条件に合う場所がなく、月日だけが過ぎて行き、焦りはどんどん増して行った。
そんな中、ふとネットで検索した際にある物件が目に止まった。
つい先日までは検索結果に現れていなかった物件である。数日前に追加されたのだろう。
 
ネットの情報を見ると、駅からある程度距離はあるものの、広さや環境は許容範囲内。
家賃的には当初の予算から少し足が出るものの、払えないレベルではない。
急いで不動産屋に連絡し、内覧させてもらった。
 
6階建てのビルの5階。
周りに高い建物はなく、東側は全面ガラス張りで、窓からは町が見渡せる。
内装もきれいで、トイレもウォッシュレット完備である。
 
ここに決めた!
多少の家賃交渉はおこなったものの、そこからはスムーズに事が決まっていき、あれよあれよと言う間に引っ越しとなった。
そこからがまた大変である。
オフィスの契約やらインターネットの契約やら、手続き関係も大変だったし、また荷物の整理にも苦労した。
軽トラックを借りてきて手分けして荷物を積み込み、何往復もした。
カーペットを敷こう、ということになって、タイルカーペットを購入して一枚ずつ敷いていった。
そうして少しずつ環境を整備していったのである。
結果的には大満足で、このオフィスに決めて本当に良かったと思っている。
 
そして、今、そのオフィスでこの原稿を書いている。
オフィスはまるで思い出を詰め込んだアルバムのようである。
見回すと、身の回りにあるもの全てに思い出がある。
置いてあるプリンタは、スタッフと悩みに悩んで買ったプリンタである。
そこにある植木鉢はスタッフが買ってきてくれた物。
本棚は二人で筋肉痛になりながら組み立てた物だし、飾ってあるメダカの水槽は彼女が世話をしている。
今ではスタッフも1名増えた。
先日、壁掛けのホワイトボードを移動させた際には、スタッフ二人が力を合わせて支えてくれて、スムーズに移動することができた。
しんどい思い出も、楽しい思い出も、いろんな思い出や感情が、このオフィスには詰まっている。
 
最近、よく考えることがある。
それは、「このオフィス、一人じゃ絶対にできなかったよな」ということである。
たぶん一人だけだったら、インキュベーションを退去した後、新しいオフィスは借りず、自宅に戻って仕事をしていたはずである。
タイルカーペットを敷くこともなかったし、メダカの水槽もなかった。
東向きの窓から大津の町を見渡すこともなかっただろう。
そう考えると、ついてきてくれているスタッフたちには感謝しかないし、この会社は自分だけのものではないな、と思う。
 
これからもこのオフィスで、新しい思い出のページが日々増えていくのだろう。
それがみんなにとっていい思い出であることを切に願うし、そうなるようにするのが僕の役割だ。
なかなか難問ではあるが、やりがいもある。
夜中のオフィスで一人、その決意を新たにする。
そしていつの日か、より広くて快適なオフィスに引っ越せる日が来ますように。
その時には、メダカの水槽も大きくしてあげようと思う。
 
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2019-02-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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