平社員のかくし芸
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:すみもとゆりあ(ライティング・ゼミ平日コース)
「一緒に受けましょう」
えーっ。
大学を留年して以来、試験も勉強も苦手。
会社員になってから受験した資格はいくつかあったのだが、試験勉強が実ったことはなかった。これ以上、無駄に、心理的な負の遺産を積み上げたくない。
一昨年の忘年会。
集まった友人たちの共通点は「サラリーマン」であることぐらいで、働く業界も違えば、年齢も性別もバラバラな人たちだ。
私が最年長で、サラリーマン(正確にはウーマンであるが)会社員歴20年越え。
とうとう30代に突入です、という最年少の彼が、「来年の目標を考えたいです」と言う。
「そういうのは、一人でじっくり考えるものじゃないのか」と返す私に、
「この先の会社員生活で必要な事リストみたいな、案とか出すのは、みんなでやったほうが楽しいですよ」その案の中から具体的な目標を絞るのは一人でやりますから、と押し返してくる。
飲んで、食べて、話し合ったあげく、彼が、
「来年は、簿記三級を受けます」という結論を出したので、その場の全員が「いいね」、「がんばれ」とか、すでに合格している人が「アドバイスするよ」とか言った。
私は、次の話題に移る様子だなと思っていたら、その彼は、
私に向かって「一緒に受けましょう」と言っている。
資格試験って友達を誘って受けるものなのか?
案を出すだけというお題に対して、おっせかいな私が、人ごとだからと、何か調子の良すぎることでも言ってしまったのだろうか。
思い出せないし、誘われた理由がわからない
私は内勤だけど、経理でも総務でもないのだと口走りながら、それ以上、
どう断ればいいのか、ということと、
断る必要はあるのかを同時に考え始めて、混乱してからしばらくして、思いついた。
「受けましょう」であって、「合格しましょう」って言われてないね。
「今度、飲みに行きましょう」的なノリだよね、これは。
新し物好きの性格も発動して、けっきょく、
一緒に受けると約束していた。
合格したら、かくし芸になるかもしれないと、後から自分を納得させた。
数か月後、試験というものに、めずらしくも合格した私は、久しぶりの達成感に興奮した。誘ってくれた友達に感謝した。
その友達と知り合う事になったのは、社会人の勉強会に参加したのがきっかけだ。
私は、会社員として、わりと真面目に働いてきたつもりだったのだけど、「つもり」であって、断定でなかった。なぜなら、私が一度も昇進したことのない、平社員だからだ。
会社というところは、真面目に働くから昇進するという理論が成り立つ場所なのだろうか? 昇進しない私は、真面目に働いてないということになってしまう。
社員の全員がいつか役職に就けるはずもない。
会社の役職はピラミッド型になっていて、上にいくほど少なくなるのだから。
加えて、私は外資系に勤めているので、役職者が辞めると、他社から同格の役職経験者が転職してくるのを多く見た。
自分の働き方に疑問があっても、相談する相手もいなかった。
グーグル先生にでも聞いてみようかと、気軽にネットで検索していたところ、疑問を解決してくれそうな勉強会を見つけた。
「講義」+「2次会という名の飲み会」の、セット料金を振り込んだ。
何度か参加しているうちに、「2次会という名の飲み会」のほうの効果で、顔見知りとSNSでつながるようになった。
お互いに役に立ちそうな情報があると、メッセージを交換し合ったりする、ゆるい友人関係だ。
みんな、人生に前向きだし、発言が建設的だし、共感する力もある魅力的な人たち。
それに比べて私は……
自分の働き方に対する疑問が氷解していくのを感じた。
理由が分かってしまうと、誰のせいにもできなくなる。苦しくなるかと思った。 が、会社員歴20年越えともなると、私の物差しは多様に取り揃えられていて、喪失感はあまり感じなかった。答えがみつかって良かった。人生の負の遺産を他人のせいにしたまま放置しなく良かったと思うようになった。
勉強会で知り合った友達の中には、派遣社員で勤めていた会社で、正社員のオファーを受けて勤め続けているという30代女子がいる。勉強会の「講義」のほうの効果だと言っていた。
彼女の話に対抗できるような成果が見当たらなかった私は、かくし芸ネタのように簿記受験の話をした。悲しいというか、やっぱりというか、あまりウケなかった。
三級では、インパクトが足りないようだ。
そんな彼女から、先日、「一緒に簿記二級を受けましょう」とメッセージが来た。
えーっ。
二級とか、無理だから。
長年積み上げた心理的な負の遺産はまだ健在だった。
いやいや、ちょっとまて。
「ブランドの新作バッグが出たみたいなんで、ウィンドショッピングに行きましょう」的な、ノリだよね、これは。
「一緒に受ける」
彼女に返事をしたあとで、私を飾るアクセサリーは多いほうがいいよね、と自分を納得させた。
今度こそ、かくし芸になるかと期待している。
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