メディアグランプリ

ゲーム『刀剣乱舞』に命を救われたと知った日


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記事:うえたゆみ(ライティング・ゼミ土曜コース)
 
「検査結果に異常はありません」
 
あぁ、またか
 
医師の顔には
”ストレスか仮病だろ、面倒だな”と書いてある。
 
「痛み止めと解熱の薬を出しますね」
「2週間ほど様子を見てください」
 
”もう来るな”の別の言い方だ。
 
私は病院に行くのをやめた。家族にどれだけ「病院に行け」と説得されても、頷かなかった。疑いの目も、長い待ち時間も、高い医療費も、うんざりだった。
 
私は一度も、健康を味わったことがない。未熟児で生まれ、3歳の時に40度の熱が1カ月以上も下がらず死にかけ、学校も高校まで卒業はしているが、半分も通っていない。多い年は100日以上休んだ。出席した日も1教科だけ出席とか、保健室や職員室で試験だけ受ける日もたくさんあった。
 
厄介だったのは、生死の境を何度さ迷っても理由がわからないことだ。わかっているのはアレルギーとぜんそくだけだ。高熱も、むくみも、痛みも、どれだけ検査しても原因が見つからない。
 
医師や周りから向けられるのは、いつも疑いと面倒そうな目線だった。家族ですら、母以外は疑い半分・心配半分だった。家族を責める気には、なれなかった。病院に連れていくのも、看病するのも大変だ。医療費だって安くはない。笑顔で元気なふりをすることと、本で勉強して100点を取ることだけが、私のできるお返しだった。
 
成人しても、身体の不調も原因不明も変わらなかった。体調はむしろ悪化した。傷の治りが遅くなり、体温も安定しない。34度から40度をウロウロする。極寒と灼熱を体内で味わう地獄だった。
 
ついに限界がきて、28歳の時に動けなくなった。
 
最初は病院を何件も回ったのだが、原因は見つからないのに医療費だけは積み重なっていく。家族の負担も増えていく。病院に行くのが恐怖になった。
 
私は病院に行くのをやめ、部屋から出なくなった。
 
これが悪かった。
 
病状は一気に悪化し、1年ほどで寝たきりになった。ご飯もほとんど食べられない、大好きだった本も読めない。ぜんそくの発作はひどくなり、空っぽの胃から胃液を吐き、のどが血だらけになった。
 
もう、死ぬのかな
それもいいか
 
私にとって、死は恐怖であると同時に救いなのだ。生まれてからずっと、痛みを感じて生きてきた。目が覚めている限り、苦痛を味あわなければいけない。それに疲れ切っていた。
 
そんなときに出会ったのが、ゲーム『刀剣乱舞』だった。
 
はじめは痛みを紛らわせるためだった。空想に逃げたかったのだ。遊んでいるうちに、歴史と刀をモデルにした世界にはまりこんだ。痛みもしんどさも忘れていた。「ゲームする元気があるのか」と、家族の疑いの目がひどくなっても遊び続けた。
 
気づいたら、座れるようになった。
モデルになった刀を見たくて、歩けるようになった。
 
歩けるようになったら
「元気になりたい」と思えるようになった。
 
そして、病院のドアを叩いた。
 
人生が、私にほほ笑んだ
 
検査結果で異常が出なくても「高熱があるのはおかしい」と考えてくれる医師に出会えた。1年後、見守ってくれた医師の紹介で行った免疫内科で原因がわかった。
 
線維筋痛症
 
レディ・ガガさんと同じ病気だった。日本では医師ですら知らない人が多く、診断できる医師はもっと少ない免疫異常の病気だった。
 
この病気に現在、根本的な治療法はない。
 
病院をたらい回しにされて、やっとわかったと思ったら完治の可能性がほとんどない。一生痛みが続く現実に耐えきれず、自殺を選ぶ患者も出ている。
 
私はどうだったか?
 
「ありがとうございます」
 
私の顔は喜びと感謝で輝いていた。絶望に顔をゆがめる患者を元気づけようとしていた医師は、いきなり水をかけられた猫のように硬直してしまった。
 
もう二度と、疑いの目を向けられない
異常のない検査結果に、絶望することもない
 
とても嬉しかった。
 
線維筋痛症の改善法が、感謝の気持ちを加速させた。この病気は安静にすればするほど悪化する。線維筋痛症を進行させない方法は“動くこと”だ。どんなに痛くても、動かなければ寝たきりに戻ってしまう。
 
私は気づいた。『刀剣乱舞』にハマらず寝たきりのままだったら、死しんでいた。熱があっても、体中が痛くても『刀剣乱舞』を遊び続けていなかったら、衰弱死していたのだ。
 
ゲームをしていたら、命が助かった
 
こんな展開、小説でも読んだことがない。”人生は小説より奇なり”を自ら味わうことになるとは、思ってもみなかった。呆然とする医師を置き去りに、『刀剣乱舞』への感謝と愛を噛みしめた。
 
仮病という汚名から逃れて、1か月がたった。よっぽど仮病ということばが重かったらしい。私の体調はみるみる良くなった。心と体はつながっている、と実感する毎日だ。
 
今の私は、体中が痛い日も歩いている。
それが線維筋痛症への特効薬だからだ。
 
歩く私のズボンでは『刀剣乱舞』とタニタが協力して作ったグッズ”歩数計”が揺れている。線維筋痛症がわかった数日後に、去年注文した”ヘし切長谷部バージョン歩数計”が届いた。「これをつけて歩け」と神のお告げを受けたように感じた。
 
ズボンポケット側で揺れる”歩数計”を見るたびに、痛くても頑張って歩こうと思える。だって、私は『刀剣乱舞』に命を救われたからだ。
 
この気持ちがある限り
『刀剣乱舞』を遊ばない日も、歩かない日も訪れない。
 
 
 
 
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2019-03-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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