ライバルへの感謝
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:矢内悠介(ライティング・ゼミ日曜コース)
「なんでミニバスに入らないの?」
幼馴染は、バスケがうまい人なら当たり前のようにミニバスケットボールクラブに入るものと思っていたらしいが、私はその存在すら知らなかったのだから入らないのも無理はなかった。
小学生の頃にスラムダンクというアニメに出会って、すっかりバスケにハマった。学校から帰るとすぐに、ボールを持って再び学校に向かうのだった。
初心者の私は、まずはシュートが入るようになることを目指した。毎日、暗くなるまで何度もシュートを打った。
同じクラスのバスケ経験者の友人から、両手ではなく片手で打つことをオススメされた。左手は添えるだけということだった。とはいえ、片手だけでボールを放ってもゴールに届かない。どうしたらいいのかわからなかった。
「力で打つからいけないんだ。手首のスナップで打つんだよ」
手首のスナップで打つとはどういうことなんだろう? 理屈では理解できそうなものの、いまいちわからなかった。そんなことをしても、ボールを遠くに飛ばすのは簡単ではなかった。私の放つシュートは、無回転のまま直線的なアーチを描き、リングに当たった。
毎日、シュートを打った。帰りが遅くなりすぎて、親に怒られることもあった。真っ暗になるとリングが見えなくなってめんどくさい。ずっと昼間だったらいいのにと思った。私はとにかく、シュートが上手くなりたかった。どうしても「手首のスナップで打つ」というものがわからなかったので、本を読んだりNBAの試合を観て、バスケについて学ぶようにした。
結局、教科書通りのシュートの打ち方をしたところで上手くなる気がしなかったので、無回転のシュートのままで打ち続けることにした。1ヶ月ほど経って、10本打てば7本は入るようになっていた。次の日、自信をつけた私は、別のリングで時々シュートを打ちに来ていた同じ学校の人に、勝負を挑んでみることにした。ところが、結果は惨敗。ドリブルをしてもボールがどこかにいってしまうし、ディフェンスをしてもすぐに相手に抜かれてしまった。シュートだけでは、相手に勝てないということがわかった。その日から、ドリブルとディフェンスについても勉強するようになった。
放課後、いつものように学校に来ると、知らない人がゴールを使っていた。私より遥かに大きな人で、なんとリングの上からボールを叩きつけていた。アニメで見たスラムダンクをリアルに見ることができた私は、その場に立ち尽くした。
「この人に勝てたら、上手くなれるかもしれない」
私は、不思議と恐れることなく、名前も知らない大きな人に1on1を挑んでいた。そのとてつもないパワーとスピードに圧倒された。抜かれまいと離れてディフェンスをすると、すぐにシュートを打たれてしまい、軽々と決められた。オフェンスでは無理な体制からシュートを打ち、なんとか決めることができたものの、勝てる要素はひとつもなかった。それでも、湧き上がる気持ちを抑えきれず、挑み続けた。
「君、きっと強くなれるよ」
名前も知らない大きな人はそう言って帰っていった。惨敗にも程があったが、その言葉がとてもうれしかった。彼に勝ちたくて仕方なかった。天と地の差というものを思い知り、プライドを折られた私は、より速く、強くなることを意識しながら、安定したフォームでのシュートとドリブルを身につけられるよう特訓した。
ある日、自信を取り戻した私は、ミニバスケットボールクラブに所属している全員に1on1を挑むことにした。結果として全員というわけにはいかなかったのだが、主力メンバーには挑むことができた。
相手はとてつもなく強かったが、目をつむっていても入るぐらいまで研ぎ澄まされた私のシュートは、彼らを驚かせた。シュートなら、誰にも負けなかった。いつの間にか速く力強いドリブルも身につけることができていたので、相手を振り切ってシュートの体制に入るには十分だった。
しかし、勝ち星をあげ続けていた私を脅かす存在が現れた。身長は私よりもかなり小さく、小柄でシュートの精度もそれほど高くはなかった。ただ、彼は私をゴールに近づけさせなかった。ディフェンスに定評のある選手だったのである。
結局、1点も決められないまま負けてしまった。どうしてもドリブルで抜けない現実に、困惑した。相手は未来を予測できるのではと思ったほどだ。
ディフェンスには足の動かし方を変えるというやり方があると知った。相手の動作によって、足の動作も合わせるのである。そんなダンスのようなことがあるのかと、その奥深さにますます興味がわいた。
「君をドリブルで抜くにはどうすればいい?」
本人に聞くと、彼はこう答えた。
「ミニバスに入ればわかるかもしれないよ」
こんな完璧な勧誘があっていいものだろうかと今では笑ってしまうが、私は次の日に親に話し、怒涛の日々を送ることになる。
半年後にスタメン入りをした。県大会出場までに出会った数々のライバルには、今でも感謝が絶えない。バスケを始めてからずっと、成長させてくれるのはライバルの存在なのである。
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