メディアグランプリ

仕事はビリヤードのごとく


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:樋口隆行(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「この席は○○だと思うのですが……」
出張帰りの飛行機のなかで声を掛けた。
 
その日の飛行機は東京行きの最終便で、なおかつ使用機の到着遅延で出発時間も遅延していた。搭乗が慌ただしいなかで早く座らないとあとが支えてしまうのだが、自分の座席番号近辺でぱっと見まわした限りでは空いている席がなかった。隣の席との座り間違いでもなさそうだ。若干戸惑いながらもチケットを見せて座っている人に話しかけたところ、1列勘違いして座っていたことが分かった。お互いに「すいません」「いえいえ」など交わして私はその人と入れ替わり座席に座った。その人はその人が本来座るはずの一つ前の座席に座っている人にチケットを見せて、すでに座っていた人は同じように前にスライドしていき座席がきちんと埋まった。まるでビリヤードのように……。思えば今回の出張もそんな感じだった。
 
その週末の出張の仕事は地方拠点の式典のヘルプスタッフだった。通常の業務はデスクワークでPCと向き合うことがほとんどなのだが、たまにリアルなイベントのヘルプをする機会がある。そのためだけの出張は大変なのだが、この仕事は嫌いではない。むしろ好きな方である。データばかり相手にしても見えないことがたくさんあるし、「準備」とか「裏方」という響きが好きなのである。
 
ただし、そんな仕事にも一つだけ難点がある。
 
すべて終わった後の復旧作業である。何度手伝ってもこの作業はいつも手持無沙汰を感じてしまっている。同じ空間でものを移動しているだけなのだが、備品だしや動線などがうまくいかず、何ともおさまりが悪いことが多い。今では懐かしいスライドパズルのようにほぼ完成しているのにかかわらず、重要なパネルだけがうまく動かせなくなり最初からやり直す。そんな感覚である。非効率な感じがするのだが、その原因がわからないので、やきもきしながらいつも手伝うことになるのである。
 
また、あれに遭遇するのか……
 
そんなちょっとした憂鬱さを抱えながらもイベントを開催する拠点を訪れた。イベント自体は無事盛り上がり、滞りない進行により順調に終わった。そして、片づけが始まった時にいつもの違和感がないことに気付いた。今回はその憂鬱さというか手持無沙汰を感じなかった。あれよあれよという間に復旧が進み予定よりも早く完了したのだ。その理由を思い返してみれば、前日の準備時にあった。通常であればとにかく必要なもの・不要なものとを分け、不要なものはとにかくまとめて押し込めておく。時間がない中での作業はとにかく準備スペースを確保することが最優先になる準備を進めることに集中したいからだ。「最悪終わったあとのことは終わった特に考えよう」という思考の停止に近いようなものなのかもしれない。ところが今回はちょっとした時間のなかで「どのように取り出せばよいか」という先のことを考えて実施していたのである。そのおかげで滞りなく備品の持ち出しが進み、円滑に復旧をすることが出来たのだ。
 
年代なのか地方によるものなのかは定かではないが、高校の頃にビリヤードが少し流行っていた。ビリヤードを覚えたてのころはとにかく運任せのパワーショットになっていた。いかに落とせるかが勝ち負けを左右すると思っていたからだ。しかし、実際にプロのハスラーの試合を見ると全然違っていた。確かに的玉を落としていくのだが、必ず次の的玉が落としやすい場所に手玉が移動していく。それは偶然なのではなく、全体を見て、緻密な計算から、次の展開を考えながら試合が進めているのである。時には的玉を介して別の的玉を落としたりしながら、時にはどうしても落とせない場合には相手にとって攻めにくい場所へと送る。そんな先を見据えながらの試合は魔法のようであり、感動を覚えた記憶がある。ハスラーの格好の良さは、派手なパフォーマンスではなく、理を考えた試合運びとそれを実現する技術によるものだと思った。
 
日々の仕事の中でも、目の前の作業タスクに追われるとの作業に集中しすぎることがあり、全体がみえなくなることはよくありがちである。仕事や人生の目的意識の話ではイソップの「3人のレンガ職人」が良く取り上げられることがある。目的の見方を変えるだけでその意識が大きく変わるという話だ。作業の連携も同じように考えてみることが必要だ。「準備」と「後片付け」は非常にシンプルな例かもしれないが、それ以外でも次の人にタスクを渡すときにほんの少しの工夫をすれば格段に進めやすくすることもあるし、どこかに予防線を張っておけばトラブルにも対応がしやすくなる。直接自分が担当するよりも他の誰かを経由してみる。つまり、ちょっと先の展開を考えてみて行動することが、あとに起きることを大きく変えることが出来るのである。ただし、その初めの手玉を動かすアクションは自分が起こす必要があるし、各タスクをこなすためのスキルの習得と向上は必要である。
 
もし、それを続けられれば、気づいたときにはハスラーのようにスマートに仕事をこなすことが出来るようになっていることだろう。
 
 
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2019-03-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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