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メディアグランプリ

おふくろの味に憧れて


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:重野千夏(ライティング・ゼミ火曜コース)
 
 
あなたのおふくろの味は何ですか?
肉じゃが、天ぷら、お弁当の卵焼き……
ひとりひとりそれぞれに、思い浮かべる「おふくろの味」があるのでしょう。思い浮かべた途端、懐かしくなり、家に帰りたくなったのではないでしょうか。
 
実家で暮らしていた頃、日々の食卓は母が整えてくれていました。用があり支度ができないときは私が食事担当となることもありましたが、基本的には母がすべて食事の支度を引き受けていました。当時はそれが当然のように思っていましたが、家を出て自炊をするようになると、そのありがたみがひしひしと感じられたものです。
 
さて、母は毎日何を作ってくれていたのかというと。
「インターネットでレシピ検索」という時代ではなかった当時、母は雑誌や新聞に掲載されるレシピを切り取ってスクラップしていました。その中から、その日の気分やお財布事情などから「これは!」と思うものを作っていたようです。新聞には毎日レシピが掲載されていましたから、ときどき「一生かかっても全部食べきれない」などと言いながら、せっせとスクラップしていた姿が今も目に浮かびます。
 
毎日プロのレシピを再現した料理を作り、前日とは違うものを食べさせてくれた母。食事の時間が楽しみだった子供時代。けれど、同じものが何度も食卓に並ぶということは、ほとんどなかったのです。「またあれが食べたいな」と思っても、再び味わえる機会はめったにありませんでした。そしてそれは普通のことであり、食事とはそういうものだと思っていました。
 
大人になると、あるとき「おふくろの味」という言葉に触れてしまいます。いつも家で食べていた一皿。帰省の連絡をすると必ず作って待っていてくれるあの料理。私にとって「おふくろの味」のイメージはそういったものです。
 
親戚の家に遊びに行くと、いつも「から揚げ」と「茶碗蒸し」を出してくれます。普段、その家で日常的に食べているのかはわかりませんが、人が集まるときには必ずその二つが出てくると気づいたのは、最初に訪問してから何年も経ったときのこと。それからは、訪問の日が決まると「またから揚げ作ってくれるかな」「茶碗蒸しの具はなんだろう」と、その日の食卓が楽しみになります。
 
自分ではあまりうまくから揚げを作ることができず、でも何がいけなかったのかわからないとき、その親戚に作り方を尋ねたことがあります。一緒に作らせてもらったこともありました。何か秘策があるわけではなく、使う調味料も普通のもの。それなのにいつもおいしくて、自分で作るより食べに行きたいと思うくらいなのです。
 
考えてみれば、彼女は何年も何十年も、みんなが喜ぶ顔を楽しみに家族や訪問客のためにから揚げを揚げていて、その思いは手順や味付けを超えているのでしょう。レシピには表せないもっと大事なポイントがあるとしたら、それは「繰り返し何度も作ること」であり「誰かのために作ること」なのでしょう。「おふくろの味」とはそういうものだと思っていました。私の家には「おふくろの味」はない、そう寂しく思っていたのです。
 
しかし、何年か前に帰省したときに、その思いは間違いだったことに気が付きました。実家での朝食は、卵料理またはハムかソーセージを添えたサラダが定番で、結構ボリュームのある一皿と、トーストと果物(果物もたっぷり)。そして父が淹れてくれるたっぷりのコーヒー。ヨーグルトも食べたい人が食べられるように食卓に載ります。実家にいた頃も、今でもほとんど変わっていません。
 
ある朝この風景を目にした途端、「そうそう、これがうちの食卓だった!」と胸にこみ上げるものがありました。
 
夕飯の味噌汁は具だくさん。昆布やいりこといった「だし」の素材がそのまま入り、さらに粉末のだしの素も少し使っているようで、だしが濃厚に効いた味噌汁です。これもまた、「うちの味噌汁だ!」と懐かしく感じました。そして、実家では食事時にお茶や水など、汁物以外の飲み物は登場しません。飲み物は食後にいただくのです。このことも我が家ならではの食習慣というか、食卓の風景です。
 
そうなのです。オムライスやから揚げといった、特定の料理だけがおふくろの味になりうるのではありません。私にとってはたくさんお皿が並ぶ朝食の様子や、具だくさんの味噌汁が、帰省してくつろいだ気分を思い起こさせる食卓なのです。食事中に飲み物用のグラスや湯飲みが並ばないことさえ、うるっとしてしまうほどに懐かしい「実家の食卓」なのです。
 
「おふくろの味」は料理のことを指すのではなく、それぞれの家庭の、食卓の風景を指すもの。そう思えるようになりました。全然私は寂しくなんかない、私にも「うちのごはんはこんな風だよ」と話せる食卓の風景があったことに、相当の時間をかけて気づくことができました。そしてそれは、どの家庭にも等しくあって、家庭の数だけ、人の数だけ違った温かい風景であることに間違いありません。

 
 
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2019-03-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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