働く女とホーロー鍋
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:月山ギコ(ライティング・ゼミ日曜コース)
「鋳物ホーロー鍋」というものをご存知だろうか。
熱伝導がよく、蓄熱性が高いため、低温でも材料に火が通りやすく、無水調理などもできるスグレモノ。
一度鋳物で型を取り、職人の手作業で丁寧に作り上げられるため、2~3万円するのもザラな、高級鍋だ。
有名なのはフランス発祥のブランド「ル・クルーゼ」や「ストウブ」などで、ブランド鍋専門の料理本も数多く出版されている。ここ数年では日本製の「バーミキュラ」というヒット商品も生まれ、各ブランド機能もデザインも申し分なく、どれにしようか迷ってしまう。
「ル・クルーゼ」が世の主婦に浸透し始めた頃、料理好きの母が購入して興奮して話していたのを覚えている。
「今までは何だったのっていうくらい、切り干し大根がおいしくなったのよ!」
鍋ひとつでそんなに変わるんだな~と感心したものだ。
昔も今も、世のお母さん業、妻業が忙しいのは変わらないけれど、女性が専業主婦やパートタイムではなく、フルタイムで働いている家は増えた。
昭和55年、お父さんが一家の大黒柱である家は1,114万世帯で、共働き世帯は614万世帯だった。
平成29年、その数は完全に逆転した。前者は641万世帯に、後者は1,188万世帯になった※。
お母さんが専業主婦の家より、共働きの家の方がメジャーとなったのだ。
とはいえ、今フルタイムで働いている女性のお母さんは専業主婦だった人が多いので、「家のごはんはお母さんの手作り料理がいちばん」という呪いに苦しめられている人は多い。
毎日外食ではいけない、お惣菜ばかりではいけない、食育のためにも、おいしいごはんを作ってあげなきゃ……。そう、これは母のノスタルジーがもたらす呪いなのである。
とはいえ、明らかに家事に費やせる時間が少なくなっているのに、自分の母の世代と同じクオリティの夕食とか求められても、無理な話ではないか。
そんな中、働く女たちの救世主として現れてくれたのが、ホーロー鍋なのだ。
その選ばれる理由は3つある。
ひとつは、機能性が高いから。熱伝導がよいため早く鍋の温度が上がり、冷めにくいので予熱料理ができ、無水料理なども可能なので栄養を逃さず素材の味を活かした料理ができる。効率的なのだ。
もうひとつは、おしゃれだから。鍋のまま食卓に出しても手抜き感がなく、なんならすごい手をかけて作ったように見える。インスタ映えするものは、なにもわざわざSNSでアップしなくとも、テーブル映えするから食卓を楽しくおいしく彩ってくれるのだ。
そして最後は、美味しいから。ほんの20分、オリーブオイルと野菜と肉を突っ込んで焼くだけで、素材のおいしさがしっかり味わえる、ワンランク上の一皿が出来上がるのだ。週末、時間があるときなら煮込み料理なども簡単で、少し火を入れたら放置プレーでお任せできるのも嬉しい。
100年使える、とPRしているブランドもあるほど、鋳物ホーロー鍋は寿命が長い。毎日のご飯をシンプルにおいしく、豊かにしてくれて、日々にストレスを解放してくれるなら、2万円は安い買い物だ。
ひとつだけ難点があるとすれば、重くてメンテナンスが必要なことくらいだ。
毎日作るのは大変だけど、やっぱりたまにはきちんとしたご飯を作りたい。そしてできればおしゃれで料理のモチベーションが上がるものがいい。家族にも喜んでもらいたい。そんな忙しい女性たちのワガママを、鋳物ホーロー鍋は叶えてくれたのだ。
食卓の栄養バランスは「一汁三菜」が良いという常識に、世の女性たちがどれだけ苦しめられてきたことだろう。2016年に出版された、料理家・土井善晴さんの『一汁一菜でよいという提案』(グラフィック社)に、長年の呪いが解かれた人も多いのではないだろうか。
そうだ。テーブルに料理が何品も並んでいなくたって、シンプルに美味しい1品があればそれでいい。そんな当たり前のことをプロである土井さんがやさしく提言してくれたことで、少なくとも私はとても救われたし、頑張りすぎず、リラックスしてキッチンに立てるようになった。
いちばんの罪は、「こうでなくてはいけない」という呪縛のせいで、眉間にシワを寄せ、イライラしてストレスを溜め、家族に不機嫌モードを振りまいてしまうこと。思い込みで、大切な人を大切にするという基本を忘れ、笑顔でいられないことだ。
母が「ル・クルーゼ」を絶賛するのを聞いてから数年後、対抗するつもりはないのだが、フレンチの巨匠、ポール・ボキューズが公認アンバサダーであるという謳い文句に惹かれ、「ストウブ」を購入した。単純にデザインが気に入ったというのもある。
まんまと「ストウブ」のレシピ本を購入し、せっせとシンプル料理を作る私。鍋ごと食卓に出し、蓋を開けたときのテンションが上がる感じ、嬉しくって楽しい感じ。
願わくは、このままずっとイライラモードが来ませんように。家族に当たり散らさずにすみますように。
もはや「ストウブ」は、私のリラックスアイテムになりつつある。
※昭和55年:総務庁「労働力調査特別調査」、平成29年:総務省「労働力調査(詳細集計)」共働き等世帯数の推移より抜粋
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