メディアグランプリ

なんだ、わたしが嫉妬していたのは「〇〇」だったのか


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:秋山 小菜美(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
時速300kmのスピードで通り過ぎていく景色。
四国から出てきて、岡山で新幹線に乗り換えてしばらく経ったのに、まだ似たような風景の中を走っている。まるでわたしの頭の中みたい。
 
-数か月前、
右手で持ったスマホを何度も見たけど、やっぱり……、間違いない。
とあるアイドル声優が武道館で単独をするというニュース記事が異常なほどバズっている。
はじめに言っておくが、私は彼女のファンなんかじゃない。
むしろ彼女のことは虫唾が走るほどに大嫌いだし、なんならアイドル声優だなんて所詮水商売だと見下している節もある。ろくに苦労もせず、可愛い声でしゃべり、可憐なドレスを身にまとって歌うだけで大手企業の役員クラスの給料を稼ぎだしているのが憎いし、許せない。
 
だけど悲しいことに彼女と私は血がつながっている。
そう、私たちは「従姉妹」なのだ。
 
もし願いが叶うなら、彼女とは血縁関係のない人生をやり直したい。そう、他人として生まれてこれたらどれほど嬉しいだろう。だってどうしたって、新橋の中小企業で働くわたしがみじめに思えてくるんだから、それくらいの願いは許してほしい。
その現実が辛すぎて、彼女も入っていた親戚グループのラインも無言で退会した。そこから親戚とも不仲になっている。しばらくして母親がわたしの代わりに本人に謝ってくれていたと知って余計なことしないでくれと子供みたいに駄々をこねた。
どこまで行ってもわたしは一般人で、彼女は日本声優業界でもトップクラスに有名なアイドル声優。その現実は執拗にわたしを追いかけてくる。タワーレコードに行けば満面の笑みで映ったポスターや、等身大パネルが飾られていて、少し前にはYoutubeのCM動画にも起用されていた。それに加えて今回は武道館で単独ライブ? わたしは心のそこから彼女のことを妬ましく思った。わたしだって、学生時代からまじめに勉強して、まじめに進学して、まじめに企業で働いている。四国から上京してきた田舎娘にしては上出来じゃないか。親に迷惑をかけるような反抗期もなく、いつだって周りから褒められるような良い子で居たはずなのに。いろいろなことを我慢してやっとの思いで掴んだわたしの「成功」が、彼女の「成功」のせいで、とてつもなく小さく見えてしまう。彼女はまともに高校へも通わず、勉強からも逃げ、異性ともたくさん……それなのに、なんで?
わたしはどんどん苦しくなっていく自分の心をコントロールすることができなかった。まじめにがんばって手に入れてきたわたしのささやかな「成功」を小さなものにしてしまう、彼女の大きな「成功」が憎くてどうしようもなくなっていた。
 
この5日間、心身ともに疲弊している様子を上司が心配して有給を取得させてくれた。わたしは思い切って実家に帰省してみたが、やっぱりそう簡単に心のモヤが晴れることはなかったようだ。
 
流れ星のように窓の外を流れる景色。
いつのまにか日が沈んで夜になっていた。
 
ピコーン! とスマートフォンから通知音が鳴った。
地元の友人からのLINEメッセージが届いたことを知らせる音だ。
 
「久しぶりに会えてうれしかった。 東京で華やかな生活を送っていると思って嫉妬してたけど、いろいろ悩みながら、がんばってたんだね。勝手な思い込みで、ごめんね。」
 
……え!? わたしに嫉妬?
 
頭にズドンという衝撃が走った。
地元で暮らす友達に東京での生活を勝手に想像され、陰で嫉妬されていたという事実に驚きを隠せなかった。でも過去のやり取りを思い出すと、なにかチクチクと言われるなと感じることはあった。
だけど、それ以上に驚いたことがあった。もしかして、わたしもずっと思い込んでいたのかもしれない。「彼女」のこと。
 
「アイドル声優」だから、というだけで勝手にイメージを膨らませ、いつのまにか本当の「彼女」を知ろうともせず嫉妬していたのかもしれない。わたしは自分の現状に満足できないのを彼女の「虚像」を作ることによって、都合よく悪者にして憎んでいた。本当の「彼女」を知ろうとする努力もせずに。それは、わたしの都合の良い逃げだったのかもしれない。
 
もう、彼女のせいにするのはやめよう。勝手に「虚像」を作って、それを憎むのはやめよう。
わたしは友達に「ありがとう」と返信を送った。
 
窓の外の景色はキラキラした街明り。
ゆっくり減速する新幹線。
もうすぐ東京駅。
 
 
 
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2019-04-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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