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歯医者嫌いが28年ぶりに歯医者さんに行ったら


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:後藤里誉音(ライティング・ゼミ平日コース)

私は歯医者さんが大嫌いだった。

まあ、好きな人はあまりいないかもしれないが
本当に嫌いだった。

大嫌いなくせに、子供の頃から虫歯があって、
母に手を引かれながら、歯医者に通った。

歯医者さんは、友達と遊ぶ大切な時間を奪う存在だった。
それでも無理やり通ったのに、乳歯の治療がやっと終わる頃には、永久歯に生え変わっていた。

永久歯が生えたら安泰かといえば、そうはいかなかった。

中学生になって最初の歯科検診で、乳歯が7本残っていることが判明した。
早く抜かないと大変なことになると言われ、中学1年の夏休みに、全て抜くことになった。

暑い夏に、何度も歯医者さんへ通い、麻酔の注射を打って、ペンチのようなものでグイグイ引っ張って抜かれた。
中学生にもなると、歯医者で泣くわけにもいかず、ひたすら耐えた。

もう嫌だ、と思った。

でも残念なことに、社会人になる頃には、再び虫歯に悩まされた。

母は40代で総入れ歯だった。自分のようになるなと、私に鞭打つ勢いで歯医者に通わせた。
後から考えれば、それはとてもありがたいことだったが、母は私が20代のうちに他界し、もう誰も私を歯医者に送り込む人はいなくなった。

誰にも鞭を打たれることがなくなったら、歯医者からどんどん遠のいた。
それから28年もの間、歯医者に行くことはなかった。

その間にも虫歯は進行していた。腫れるほど痛んだこともあったが、
やり過ごした。もはやボロボロだった。
いつかはまとめて治療しないといけないと思っていたが、なかなか「いつか」は来なかった。

そのうちに、歯医者さんに行くことが恥ずかしくなった。
例えるなら、「服を買いに行く服がない」という感じで、歯医者さんに行く前に歯を綺麗にしなくてはいけない恥ずかしさだった。

ところが2年前の年末、クリスマスの甘いお菓子を食べている時に、激痛が走った。
自分の中で何かが冷静に動いた。

「歯医者に行こう」

まるで悟りを開いた僧侶のように、歯医者さんに行くことを心に決めた。
何も迷いはなかった。ついにその時が来たと心が感じたようだった。

家から3分のところに新しい歯医者さんがオープンしていたので、
そこに行った。

若い歯科医だった。ちょっとチャラ男な感じだった。
そして、総入れ歯を勧められた。
さすがに驚いた。虫歯は多いが、健康な歯も残っている。噛むことに不自由はしていない。
だのに何故総入れ歯なのか。
色々説明されたが、信頼関係は築けず、痛みのある歯の治療だけは続けたが、
その治療が終わったところで転勤を理由に終了させた。(本当に転勤が決まったタイミングだった)

痛みから解放されたら、再び歯医者から遠のいた。何とかしなくてはいけないと思ってはいたのだが……。

転勤先は、東京の日本橋だった。

その昔は薬問屋が連なっていた場所で、今でも製薬会社が集まっている場所だ。
銀行の本店も多い場所で、きちんとしたサラリーマンが多い街だと感じた。

仕事が終わり、日本橋界隈を歩いていると、歯医者さんの内覧会のチラシを渡された。
「今なら院内が見られますよ」と声をかけられた。

再び、私は悟りを開いた僧侶になり、静かに、引き込まれるように内覧会会場に入っていった。

診察室は個室になっていた。診察台の前にはスクリーンがあり、レントゲン写真などが映し出されるようになっていた。

40代くらいの院長先生が近づいてきて「歯でお悩みがあったら、いつでも来てください」
と名刺を渡された。感じがとても良い。家の近くの先生とは大違いだった。

日本橋は歯医者さんがたくさんある。競争も激しいのだろう。治療を続けるのなら日本橋が良いかもと思った。

そしてその内覧会で見た歯医者さんに通ってみることにした。

そこで、私の歯医者さんの概念が180度変わった。

その歯医者さんは、美容サロンのようだった。

個室で周囲の治療の音も聞こえない。
静かな音楽が流れている。
壁には絵画が飾ってある。
治療機器は、見えないような配慮がされていた。
見たい人は体を捻れば見ることができるが、見るだけで怖くなるような私は
目に入らないことがありがたかった。

麻酔の注射は、打つ前にシールで表面麻酔をするので、
針が入ることを感じない。
完全に無痛の治療だった。

家の近くの歯医者さんでレントゲンを撮った時には、大きな器具を口に入れられて苦しかったが、ここは小さなフィルムを噛むだけだった。

場所柄、サラリーマンが多く、何度も通うのが難しいだろうということで、最短の回数で治療が終わるようにプランを立ててくれる。

回数が少ない代わりに、1回の治療時間は長めだ。自分だけにじっくりと時間を割いてくれる。

私も治療をサボることなく通った。
行くたびに治療が進んでいくことが嬉しくなった。
全て治療が終わった時に、自分の口元が美しくなったことに感動した。

今まで歯がコンプレックスになっていて、思い切り笑えていなかったことに、治療した後で気がついた。

歯医者さんはセラピストだった。心まで治療してくれたのだ。

まさかこの私が歯医者さんに喜んで通う日が来るなんて!

もしも私のように歯医者さんが大嫌いな人がいたら、思い切って再び歯医者さんの門を叩くことをお勧めしたい。

自分に合った歯医者さんに出会えるまで、妥協することはない。
痛みが苦手なら、無痛治療がお勧めだ。
家の近くの歯医者さんの方が通いやすいかもしれないが、ビジネスマンであれば、オフィス街の歯医者さんを選ぶ方がニーズに合う可能性が高いかもしれない。

「歯医者さんは、歯を輝かせるだけでなく、人生も輝かせてくれる!」

こんなセリフを私の口から聞くなんて、きっと天国の母は腰を抜かして驚いているだろう。いや、泣いて喜んでいるかもしれないな。

 
 
 
 

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2019-04-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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