35年間、歌わない私が身につけたもの
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:横山信弘(ライティング・ゼミ火曜日コース)
「この人、音程がズレている……」
一緒にテレビで歌番組を観ていると、たまに妻がつぶやきます。
「隣の人は上手だけど、真ん中で歌っている人は、たまに音程をはずすね」
「絶対音感」を持つ妻は、複数に重なった音でさえ聞きわけることができます。
「君の名は」のエンディングテーマを弾いてよと言えば、譜面がなくても、「こんな感じかな」と即興で再現することができます。
音痴の私からしたら、どうやったらそんなことができるのか。いつも驚かされています。
私は幼いころ、人前で歌うのが好きでした。
友だちの家で集まり、アルフィーやチェッカーズの曲を大合唱して、近所の人から怒られたこともありました。あの頃は、本当に、歌うことがたまらなく好きでした。
ところが中学2年生に声変わりをしてから、私は驚くほど音痴になったのです。
気付いたのは中学3年生の後半。当時、付き合っていた彼女が合唱部に入っていて、その彼女から「夏のコンクールのときだけ合唱部に入ってほしい」と頼まれたのです。夏休みを返上して練習に励んだのですが、顧問の先生から「あなたがいるとコンクールに出場できない」と言われ、そのときはじめて音痴だと自覚したのでした。
それから二度と、私は人前で歌わないと誓いました。現在49歳。実に、35年近く、私は、人前で歌ったことがありません。
社会人になって、同僚や先輩からカラオケに付き合えと言われると、必ず「お腹が痛い」「大事な用事がある」といって逃げました。
どんなに「社長の命令だ。評価を落とすぞ」と脅されても、ずっと逃げ回ってきました。
そんな私を、妻は呆れた目で見ています。
「仕事の付き合いなんだから、カラオケぐらい行ったら? ちょっとぐらい音程がズレても、いいじゃない」
「黙ってろ。俺は絶対に行かない」
私の妻は、大学時代にジャズバンドで、ピアノとコーラスをやっていました。両親も楽団で知り合って結婚した、まさに音楽一家です。
いつも思うのです。そんな妻に、私の苦痛がわかってたまるか、と。
最悪だったのは、お客様との付き合いでゴルフへ行ったあと、車でカラオケボックスに連れて行かれた日のことです。
私が頑なにマイクを持つのを拒んでいると、「それなら御社との契約は終わりだ」と迫られました。その見下した態度に、つい私はカッとなり、
「たかが歌わないだけで当社への信頼が揺らぐなら、けっこう」
と言い捨て、その場を後にしました。
帰宅し、あまりの悔しさで感情が抑えられず、家に上がってから風呂場に閉じこもりました。心配した妻が、ずっと風呂場の外で、「何があったか知らないけど、あなたは間違ってないよ」と言ってくれました。しかし、私はなかなか風呂場から出られません。
なぜこうなったんだろう、と思いめぐらせました。なぜ、こんな最悪な事態を招いてしまったんだろうと。
歌うことを拒んだから、お客様に見切りをつけられた? 私が人前で歌えないから? そんな理不尽なことで、契約を切られるなんて、常識ではあり得ない。でも実際に起きた。何かがおかしい。何かが間違っている。
私が音痴なことが問題なのだろうか。考えれば考えるほど、そうではない気がしました。もっと別の問題があるはずだ。
なぜ、なぜ、なぜ、なぜ……。
風呂場の中で「なぜ」を繰り返し、到達した答えは、ひとつです。
きっと私は自信がないのだ。歌だけでなく、自分自身に対しても、自分のビジネスに関しても。自信がないから、ずっと逃げてきたんだ。
頭の中で「なぜ」を繰り返しているうちに、そういう気がしてきたのです。
間違いない。それが本当の問題だ。
翌日の朝、私は会社に電話して休みをとりました。そして妻と一緒に図書館へ足を向けました。妻は何も聞かず、幼子を背負ってついてきてくれました。そして図書館で、ふだんは読まないようなビジネス書を6冊ほど借り、家に持ち帰りました。
それからというもの、私は読書の虫になったのです。
本を読んで読んで読みまくりました。そして私は「論感(ろんかん)」を鍛えたのです。音感ではなく、論感です。「論感」とは、論理に関する感覚とでも言いましょうか。
妻は「音程がズレている」と、すぐにわかる「絶対音感」の持ち主です。
私は、本を読みまくっているうちに、「論点がズレている」とすぐにわかる「絶対論感(ろんかん)」の持ち主になったのです。
経営コンサルタントとなり、その感覚を徹底的にトレーニングしてからは、強い自信が身につきました。そしてお客様がドンドン増えていったのです。
お客様の現場に入り、「なぜ」を繰り返して、問題の糸口を探っていく。論感がいいからでしょう。はじめての現場であっても、正しい問題を特定するスピードが異常に速いのです。
私はいまだに人前で歌うことはありません。しかし、そのことで困ることはなくなりました。多くのお客様の支持があるからです。歌では満足させられませんが、別のことでお客様を満足させる自信が、今の私にはあります。
*** この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。 http://tenro-in.com/zemi/70172
天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら
天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
【天狼院書店へのお問い合わせ】
【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。