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メディアグランプリ

あたらしい「情」のカタチ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:奥村まなみ (ライティングゼミ・火曜コース)

約10年以上、私は店頭でモノを販売する仕事をしている。日々、来店されるお客様の対応をしていて感じるのは、世の中の「モノの買い方」が以前に比べてずいぶんと変化しているという事である。いいものを少しでも安く買いたいという人間の心理は、どの時代も同じではあるが、「近所の馴染みの店で買いたい」「知り合いのいる店で買いたい」という、ある種の「情」のようなものは、ずいぶんと減っているように感じる。

ここ数年で、ネットショッピングが急速に普及したというのも大きな理由と言えるだろう。
ほんの少し前まで、「モノを実際に見て買わない」という行為に、違和感を持っていたことすら忘れるくらい、人々の暮らしにすっかり溶け込んでいる。
とは言っても、まだそこまでネットショッピングが普及していなかった頃は、洋服や靴でも、サイズや質感が思っていたものと異なるのではという理由から、あまり積極的ではなかったり、何よりも、売り手の顔が見えないというのは、何となく買う側の人間を多少なりとも不安にさせていたようにも思う。
店頭へ足を運び、店員に欲しいものを伝え、実物を確かめて買うという行為には、いいものが買えたという満足感と共に、「いい店に出会えた」「いい店員に出会えた」という付加価値も手に入れていたのではないだろうか。ましてや、そこに「近所の店で」「知り合いのいる店で」という「情」がくっ付くとさらにそれは、増幅していたようにも思う。

今となっては、ネットショッピングの不安もずいぶんと解消された。インターネットの普及により、買い物をする前に、商品の口コミやレヴュー、SNSでの紹介など、消費者の生の声としての情報を手にいれるのも簡単で、むしろそちらの方が,信憑性があると言ってもいい。
当然ながら、店に足を運べば、そこには店員さんがいる。しかし、SNSや、インターネットで買いたいものの情報をすべて知ったうえでの来店となると、そこには店員としての役割は必ずしも必要ではなくなってしまうだろう。
たとえば、電化製品の買い物。商品の性能、サイズ、カラーバリエーション、使い方、メンテナンス方法まで、お店に足を運ばずして、欲しい情報を、事細かに知ることが出来る。
店員に話しかけるタイミングがあるとすれば、商品の置いてある場所を知りたい時、あるいは、最後の値切り交渉の時くらいであろうか……。
そんなことに思いをめぐらせながら、ふと頭に浮かんだラーメン店がある。

「こんなラーメン屋があっていいのか?」
友人に連れられて、初めて訪れたそのラーメン屋は、私の知っているそれとはかなりかけ離れていた。
店内はとても静か。お客さん同士の会話もあまり聞こえない。よくある熱血ラーメン屋のような威勢のいいあいさつもない。
友人にここでの勝手を教わりながら、暖簾をくぐると、まず、注文は券売機である。店員との会話いらずで、その券をカウンターに差し出す。
と、ここまでなら、まあ、ちょっと静かな、券売機式のラーメン屋か……くらいである。
が、しかし、私が驚いたのは、そのラーメンを食べるテーブルである。テーブルに向って席に座っている間は、厨房は見えないようになっている。店員の顔も見えないようになっている。他のお客さんの顔も見えないようになっている。

ご存知の方は、「ああ、あのラーメン屋ね」とピンとくるだろうが、この文章だけ聞く人からすれば、このラーメン屋は一体どうなっているのだ? という感じだろう。カウンターテーブルは、お客さんひとりごとに、仕切り板で区切られているのだ。厨房とつながっているであろうテーブル前方には、これもまた仕切り用の暖簾がかかっているのだ。
食券を暖簾越しに差し出す。しばらくすると、ラーメンもまた、暖簾越しに差し出される。食事の間、そこは、ラーメンと私、ふたりきりの空間である。
要は、ラーメンの味に集中して食べてほしいとの思いからつくられたシステムらしい。
そこには、店員の接客のよしあしなどは関係ない。出されたラーメンの味でしか勝負はできない。ある意味、味とお客とのガチンコ勝負である。

インターネットに接続し、売り手の顔の見えないネットショップに入り、実物は見ずに、その商品の情報だけを確認し、商品をカートに入れる。商品を受け取る際も、もちろん店員の顔は見えない。
店に入り、券売機で食券を買い、店員の顔も見ずに、ラーメンを注文。客の顔も見ずに、ラーメンが運ばれてくる。
この一連の流れが、私にネットショッピングを彷彿とさせるのだ。

そこには、店員への「情」というものは一切ない。店員の親切な対応に心動かされて購入という流れにはならない。「あの人がいるから、また行こう」とはならない。ただただ、商品のクオリティ、商品の強いブランド力、商品の希少価値など、その商品のもつ魅力だけが、消費者の心を動かすのだ。

最近の買い物のスタイルには「情」がないとだけ聞くと、どこか冷たい感じがするが、実際のところそうでもないのかもしれない。このラーメン屋に当てはめて考えてみると、客の顔は見えないけれど、だからこその、売り手の商品そのものへの情熱、目には見えない買い手への販売というものへの情熱があり、それを知らず知らずのうちに、消費者は感じ取っている気がするのだ。そこには、ある意味、より純粋な「情」があり、売り手と買い手を静かに繫ぐものと言ってもいいのかもしれない。

ネットショッピングだけでなく、セルフレジなど、店舗はあっても、店員はいないという形態も増えていて、これからますます買い物のスタイルは時代の進化と共に変化していくだろう。
そして、一見、失われたと思われた買い手の「情」もまた、形態を変えながら、存在し続けるであろう。売り手のガチンコ勝負の挑戦状がある限りは。

 
 
 
 

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2019-04-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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