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メディアグランプリ

イライラを打ち消す魔法


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:平野謙治(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「長い、長すぎる……」
 
昼過ぎの整形外科。
いつ終わるのかもわからない待ち時間に、イライラとしていた。
 
前日の夜、僕は交通事故に遭った。
友人と遊んだ帰り、最寄りの駅から自転車で家に向かっている時のことだった。
見通しの悪いT字路に差し掛かり、一時停止した。いつもは空いている道だが、この日はやたらと交通量が多かった。
向こう側に渡る機会を伺っていたが、クルマはなかなかに途切れない。僕は少しだけ、イライラしていた。
しばらくして、ようやく左側から来るクルマが途切れた。
よし。今のうちに渡っちゃおう。そう思い、右側を確認しようと前に乗り出した時だった。
 
目の前には、赤いクルマ。
スピードが出ている。もはや避けるのは不可能だった。
 
ガシャン。
大きな音が鳴った。赤いクルマの前方と、僕の自転車の前輪が衝突したのだ。
 
僕の身体は勢いよく投げ出された。気づいたらコンクリートに叩きつけられ、横たわっていた。一瞬の出来事だったので、はっきり覚えてはいない。
 
両膝を強打し、血が流れていた。それから着地のときに右手首を痛めた。
すぐに救急車が来て、少し離れた総合病院に僕は運ばれた。
 
診察の結果、幸いにも骨には異常がなかった。打撲と、軽い捻挫で済んだ。ほっと胸をなで下ろす。
 
「明日、警察に提出するための診断書を出すので、また来てくださいね」
 
最後に受付の女性にそう言われ、病院を後にした。
翌日午後、僕は言われた通りに病院に向かった。
午後の診療開始時間である14時ぴったりに病院に着いた。
受付で「74番」と書かれた診察券をもらい、待合室に腰掛けて順番を待つ。
 
「どれくらいで呼ばれるかな。まあいいか。少しゆっくりしてよう」
そのようなことを考えながら、スマートフォンでネットニュースを読んでいた。
 
そうしてどれくらいのニュースを読んだだろう。
ふと時刻に目をやると、既に1時間以上経っていた。
 
「長いな……」
 
もう気になるニュースはすべて読んでしまった。
こんなことなら、本でも持って来れば良かったなあ。でもまあ、そろそろ呼ばれるかな。
そう思い、僕は目を閉じた。
 
しかし一向に呼ばれない。
さらに1時間が経っても、74番が呼ばれることはなかった。
 
「長い、長すぎる……」
 
あまりに長い待ち時間に、僕は完全にイライラしていた。
「一体どれだけ待たせるのか」、「早く帰りたい」、「診断書だけでいいからさっさとくれ」、そんなことで頭がいっぱいだった。
そしてさらに厄介なのが、呼ばれる番号に法則性がないことだった。72番が呼ばれたと思いきや、次に呼ばれたのは54番と、呼ばれる番号がバラバラだった。
あとどれくらいで自分の番なのかわからないことに、僕はイラ立ちを隠せなかった。
 
一度始まったイライラは、そうおさまることがない。
このまま座っていると、さらに悪化しそうだ。
 
「ジュースでも買いに行くか……」
 
せめてもの気分転換に、と僕は立ち上がった。
自動販売機を探し求めて歩き始めた。
すると、さっきまで見えていなかった様々な人たちが目に飛び込んできた。
車椅子に乗ったおじいさん。
杖を使い、なんとか歩いているおばあちゃん。
松葉杖の男の子。
三角巾で腕を吊った女の子。
他にもたくさんの患者さんがいる。その数の多さに、僕は驚いた。
中には、頭を抱えて眠っている人もいた。きっと僕より、長い時間待っているのだろう。
僕が座っていた待合室にいる人だけではなかった。この病院には、これほどたくさんの診察を必要としている人がいたのか。
 
そして、たくさんの看護師さんたちがせかせかと、それでいて丁寧に働いているのがわかった。
ここで働く誰だって、患者さんを待たせたいわけじゃない。だけど医療において、ミスは許さない。丁寧さが求められる。その中で、できる限り迅速に。
そういう心持ちが、伝わってくる動きを誰もがしていた。
それなのに、中には「どれだけ待たせるんだ」と怒りを看護師さんにぶつける患者さんもいた。丁寧に謝る看護師さんを見て、心が痛んだ。
 
そうやって辺りを見渡しながら歩き、自動販売機を見つける頃には、イライラは嘘のように消えていた。
それと同時に自分自身に投げかけた。どうして僕はこんなにもイライラしていたのだろう、と。
 
それは、視野が狭かったからだ。
下を向いてスマートフォンをいじっていた僕には、周囲のことなんか見えていなかった。周りの事情なんか考慮せず、「早く帰りたい」という自分の気持ちだけにとらわれていた。
だけど自販機を探し求めて歩き回り、患者さんの多さ、看護師さんの忙しさといった周囲の状況が見えた時、不思議とイライラは消えた。
視野を広げることで、自分の事情がひどくちっぽけに思えたのだ。僕はさっきまでの自分を恥じた。
 
そう考えると、視野を広げることは、イライラをおさめる上で有効な手段なのではないか。
いつもイライラしている通勤時の電車遅延も、よくよく考えれば「より安全に運行するために」と、鉄道会社が考えての判断だ。
くどくどとウチの会社の商品に文句を言ってくるクライアントだって、会社全体のサービス向上を考えればありがたい意見だ。
 
イメージするなら、そう。鳥になった気持ちである。
イライラしている自分も含め、広々と周囲全体を上から見渡す。
ひとつの視点だけではなく、いろいろな角度から物事を見渡す。
そのように鳥になった気持ちで全体を見れば、自分がイライラしていた事情なんてちっぽけに思えるはずだ。
「74番の診察券をお持ちの方、診察室にお入りくださーい!」
そのようなことを考えていたら、僕の番が来た。
診察室のドアを開けるとき、心は既にもう晴れ渡っていた。
 
 
 
 
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2019-04-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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