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わたしたちの旅の目的


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:寺崎麻結(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「君の名は。」
をやっと観た。
 
何年越しだろうか。
 
旅行に行く前に、必要に駆られて観た。
確か、そんなはずだった。
 
わたしには、旅に出るとき、
その場所が登場する本を、持って行く癖がある。
行きの乗り物の中で、自分の気持ちを高めるために読むのだ。
 
大抵が、推理小説で、
ストーリーは旅のワクワクもつかの間、
事件が巻き起こる。
人物の心理描写よりも、
情景が事細かに書かれていることが多く、
観光ガイドよりも、やたら思い入れが深くなる。
 
到着する頃には、
もはや、情報を通り越して、
体験になっているものだ。
 
そう、でも、わたしはそれ以上の何かをいつも求めている。
旅なんて、そんなもんだ。
 
そして、いつも「暮らすように旅する」ことを心がけている。
 
同じ場所に、2週間滞在したこともある。
この町では、このホテル。
と、なるべく浮気をせず、
どこに行っても、常連気分でいるのだ。
 
旅行の間中、気に入った食事処は、
繰り返し何度も訪れる。
最終日に、別れるのが惜しくなることもあるが、
連絡先は誰とも交換しない。
 
また、ここに会いにくればいい。
本当に会いたくなったら、いつでも会える。
 
それが、わたしの流儀でもあった。
そのうちに、それが旅の目的になる。
 
今月末、飛騨古川に行くことになった。
妹夫婦が、誘ってくれた。
義弟が、この町の出身なのだ。
 
今回の目的は、古川祭だった。
 
古川町にある気多若宮神社の例祭として、毎年4月19、20日に行われているもので、
「御神興行列」や「起し太鼓」「屋台行列」を含めた三大行事で構成されており、2016年12月にユネスコ無形文化遺産に登録された祭りである。
 
つまり、今回は、この町の「非日常」の日に行くのである。
もちろん、祭り自体は、楽しみではあるが、
「暮らすように旅をする」ために、わたしは、古川町の日常を知りたいと思った。
 
そのとき、すでに頭の中には、
「君の名は。」
の文字が浮かんでいた。
その中に、古川町が出てくるらしいこと、
それだけは知っていた。
 
義弟が、聖地巡礼ツアーのお陰で、
観光客が増えたと言っていたからだ。
 
3年前、
みんなが、何回観に行っても、
RADWIMPSの歌が、全部歌えようとも、
いつか、無料で観られる日が来るだろうと、
のんきに構えていたわたしは、
今日の今日までみずから見ようとはしなかった。
もちろん、それほどの人気だ。
興味がないわけではない。
 
とうとう、観なくては行けない日がきた。
 
もちろん、口実のようでもあったが、
今回は「君の名は。」にしようと心に決めた。
 
ただ、今回のコンテンツは、本ではない。
行きの道のりで観るのではなく、
事前学習にしよう
と、思っては、いた。
 
そして、旅行に行くまでに、
無料で観られる機会がないことを悟ったわたしは、
結局、Amazonプライムで500円を支払った。
観光ガイドを買ったと思えばいい。
そう思った。
 
が、しかし、
そこに答えなんてちっともなかった。
 
劇中で、東京の地名は、実在の名称なのに、
それ以外の場所は、架空のものなのだ。
 
古川……。
古川町……。
飛騨……。
え? ここ長野?
え? どこ? ?
 
気になって、話に集中できない!
もっとサラリと、出てこい! !
 
と、前半思っていたが、
最終的には、諦めた。
いや、飲み込まれていた。
 
推理小説オタクのわたしが、
たかをくくって、
あ〜、わかるわかる、夢オチと見せかけた転生ものでしょ。
という読みも、あっさりと裏切られた。
もっと、本質的な深いテーマだったのだ。
 
後半に行くに従って、どんどんどんどん、
伏線が回収されて行く。
気持ちいいくらいに。
 
偉そうに、こんなことを書いているが、
おそらく、この文章を読んでくださっているほぼ全ての方が、
3年前から知ってるよ!
と、突っ込みたくなっていることは、重々承知である。
 
一応、ネタバレになってしまうので、
詳細はここに書かない。
そんなことが目的ではないのだ。
 
終わる頃には、観はじめた目的をすっかり忘れて、
わたしは泣いていた。
 
感動して?
何でだったろうか?
わからない。
覚えていない。
ただ、ツーっと頬を伝うように、涙が流れた。
 
どこに行けば、会えるのかもわからない。
会いに行っても、もういない。
記憶が、片はしから消えて行く。
 
きっとこの涙は、
記憶のかけらなんだと思う。
思い出せそうで、思い出せない。
知っていたようで、
まだ一度も出会ったことのないような。
 
まだ、その感情には名前をつけられない。
だから、その名前を知りたくなる。
はっきりしないものだからこそ、
とても本質的なのに、
名前がないと、すぐに消えて行ってしまう。
 
我々の社会は、日々動いて行く。
ぎゅうぎゅうに情報が押し込まれて行く中で、
ふと目があったもの、
そのときの気持ち。
気づかないふりはいくらでもできる。
 
でも、そこに疲れてしまったり、
違和感を覚えるからこそ、
ひとは旅に出るのではないだろうか。
 
少なくとも、
わたしはそうだ。
 
何かを取り戻すために。
 
「君の名は。」の瀧と三葉みたいに、
ぎゅうぎゅう詰めの満員電車から、
いつでも飛び出せるようにするために。
 
 
 
 
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2019-04-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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